番外編競作 その花の名前は 参加作品
| . | 火の山の竜番外編 | . | ||
| 約束、花は散っても | ||||
| 流悠ちか | ||||
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秋のレザリア大草原に、さらさらとした風が吹く。
その風に、リラの二つに結えた髪が揺れた。蜂蜜色の髪は日の光を受けて、淡く輝く。
リラは空を見上げる。空はどこまでも高く、薄い雲は高いところをすじのように流れていた。
「ロウ、あなたが火の山の竜に会う目的はなあに?」
リラは隣を歩く少年に声をかけた。
名前を呼ばれたロウは闇色の瞳をしばたかせ、あいまいに微笑む。
答えたくないようだった。
「また内緒なの? あなたのことも少しは教えてくれたっていいじゃない」
リラは答えをはぐらかす少年を睨めつけ、ほおをふくらませた。
ロウはときおり悲しげな思い詰めた表情をする。そして、ここではないどこかを見るような遠い目をするのだ。
どうしたのだと訊ねても彼はリラになにも話してくれない。だからリラは少年のことをなにも知らない。
知っていることといえば同い年だということくらいだった。本当にリラはなにも知らないのだ。
「あたしは火の山の竜に会うの。絶対によ!」
リラは東の地平線を見すえ、こぶしをぎゅっとにぎる。
東の大陸『竜帝国』には何百年もの昔に、火山のふもとに住む人間たちを救うために身をていして溶岩を防ぎ、そのまま冷えて石になってしまった竜がいる。どうやったら竜を元に戻せるか、竜のばくだいな量の宝はどこにあるのかというのが冒険者たちの間で何百年も語り継がれていた。だがいまだ誰も解決できずにいる。そして竜はどんな願いも叶えるというのだ。そのため冒険者なら誰でも一度は挑戦したいものの一つとされている。
リラが火の山の竜に会おうと思ったわけは、その胸もとで揺れる首飾りにある。両親の形見だといって祖母に渡された首飾りは、竜をかたちどり、竜は赤い宝珠を抱いていた。
祖母は、両親は死んだと言っていたがリラは生きていると信じていた。死んだなど祖母の嘘だ。リラはそう思っていた。両親はどこかでいきているはずだ、両親を探したい。そのために祖母にはなにも言わずに旅に出たのだ。
竜はこの世界にたった一匹しかいない。東の大陸にいる火の山の竜のみだ。両親を探す手がかりは火の山の竜にあるに違いない。
家をだまって出てきたのだと告げると、少年は目を丸くした。そしてあながあくほどリラをまじまじと見て、吹き出した。
「リラさんってさ、むこうみずだって周りから言われたことない?」
ロウはくすくすと笑う。
「なによ。だって、そうでもなくちゃ両親を探しに出られなかったんですもの」
リラは顔を赤くすると、むきになって答えた。図星だったのだ。
空を飛ぶ白い小鳥がリラのはしばみ色の瞳に映った。小鳥の飛んでいく方角は東だ。
火の山に、是が非でも辿りつかねばならない。
どうして祖母が自分に嘘をつくのか、自分はなにものなのか。そしてロウはなにを欲しているのか、なぜ悲しげな思い詰めた表情をするのか。
そこに、全ての謎を解く鍵があるのだ。行けば分かることなのだ、確かめねばならない。
どこまでも果てしなく大草原は続く。大草原を縫う白く乾いた道が、東の地平線へと消えていた。
「見て、リラさん。小さな花が咲いてる」
リラの隣を歩くロウがいきなり立ち止まった。
「花?」
名前を呼ばれ、リラは少年が指差す方角を見上げた。
見れば、大草原にまばらに生える常葉樹の一本が、小さな黄色い花をつけている。可愛らしい花だ。
「可愛い花だよね」
「うん……、でもあたしは花は好きじゃないわ。だってすぐに散ってしまうんですもの」
リラは見上げたまま、眉をひそめた。
花が散っていくのを見るのは、悲しい気持ちにさせられ好きではなかった。いつであったか今よりもまだ小さな子どものころ、庭で育てていた植物が花をつけた。大事に育てていたリラは大喜びしたが、すぐに散ってしまい、泣いて祖母を困らせたことがあった。
いつまでも永遠に咲いている花などどこにもない。そのことを頭では理解していたつもりだったが、それいらい花を愛でることはなかった。
「そうなんだ。でもさ、散ってしまっても毎年見られるよ。また、来年も、再来年も」
ロウは静かにうなづき、リラの横に立ち見上げる。風が、少年の短く切りそろえた黒髪を揺らした。
リラは少年の横顔を見つめ、陶然と目を細める。
美しいと思った。なにより普段の身のこなしが優雅で美しかった。見習いといえど、とてもではないが剣士には見えない。首すじも腕もほっそりとし、その手も柔らかで剣を持つ手とは思えなかった。知り会って数日しかたっておらず、彼のことをまだなにも知らなかったが、ずっと一緒にいられたらと強く思った。それに、知らないことはこれから知っていけばよいのだ。
「そうね、ロウの言うとおりよね。また、来年も、再来年も、一緒に見ましょうよ。二人でね」
リラは言って笑った。
「二人で?」
少年は目を見開くと顔をこわばらせた。暗い、影のある表情だ。だがそれも一瞬のこと、すぐに表情を柔らげた。
「そうだね、これからもずっと一緒に、いつも二人でいられたらいいね。僕はリラさんと出会えて良かったと思っている。リラさんとずっと一緒にいたい……」
ロウは誓いのように言った。そしてリラが驚くのもかまわず手を取り、言葉を続ける。
「それにさ、花が散るのは実をつけるためだから、決して悲しむことはないんだよ」
ロウは笑って、リラのほおにキスをした。
「おい、リラ。なにぼうっとしてるんだよ。休憩は終わりだ、行くぞ」
頭を小突かれて、リラは振り返る。
顔を上げると、そこには背の高いすらりとした青年が立っていた。
青年の名はスカッシュという。旅の途中で知り合った仲間だ。
「どうした、具合でも悪いのか?」
金色の瞳が心配げにリラを覗き込む。
「ううん、なんでもないわ。ただ、この木に実がなっているなって思ったのよ」
リラは首を横に振ると、木を指さした。
木は赤い実をたくさんつけて、重たげに枝をしならせている。冬の冷たい空気の中、その実は鮮やかに色づいていた。
「なんだ、とってほしいのか? 食いしんぼうなやつめ」
スカッシュがニヤリと笑う。
「違うわよ、そんなんじゃないわ。……ロウの言ったとおりだったのよ」
リラは言い返して、西の空を見た。
一般的に花が散ることは別れを意味するという。だがロウは言った。花が散るのは再生を意味すると。だから、リラはもう花を嫌いだとは思わない。
ロウはある日、リラの前から姿を消した。彼はいつも一人で悩んでいたというのに、リラはなにも分かってやれなかったのだ。今や少年と自分を繋ぐものはない。もし繋ぐものがあるのだとしたら、それはこの空くらいだ。それがどんなにあやふやなものだろうと、繋ぐものが一つでもあるのなら望みは捨てない。今度こそ、彼を救うのだ。
「あたしはロウを探し出して、またあの地に立って、二人で一緒に花を見るのよ。絶対に。今度こそあの手を離さない」
西から吹く風は強かった。だが、立ち向かっていける。約束をしたのだ、必ず救うと、ずっとともにいようと。
『ロウ? 彼はもう消えたよ。来るのが遅すぎた』
ロウと同じ顔をした、赤い目の少年が言った不吉な言葉が耳によみがえる。リラはそれを振り切るようにかぶりを振った。
「救い出すのよ、絶対に。あの子のために、あたしのために」
リラは揺るがない強い眼差しで、遥か彼方にある、まだ見ぬロウの故郷、ギステネア王国の方角を睨んだ。
FIN
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| 掌編 | 約束、花は散っても | 流悠ちか | ||
| 番外編紹介: | 異世界FT「火の山の竜」の番外編小説となります。これから読まれる方、どうぞつまみ食いするような感覚で読んでみてください。本編を既読の方もぜひどうぞ。 | |||
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| 本編: | 火の山の竜 | |||
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