火の山の竜
第3章 第0話
〜山 竜の財宝〜

 

 新月の日だった。
 月のない真夜中に空を飛ぶのは、上も下もないような感じがするものなのだなとリラは思う。どこを見ても墨色が広がるばかりで、この世で一人きりになってしまったような錯覚にとらわれる。心細く、かすかにまたたく星だけが心のよりどころのように感じられた。
 ふいに、無言で翼を羽ばたかせていたアリアカンテが口を開く。
「少し寄って行くところがあるのじゃが、いいかね?」
 アリアカンテは静かに言った。
「いいわよ。どこに寄って行くの?」
 リラは疑問に思い訊ね返す。
 飛びたってすぐだというのにどこへ行くというのだろう。
「なに、ちょっとな」
 彼は思わせぶりに言って、翼を傾けた。
「おい、アリアカンテのやつどこに行くんだって?」
 竜が急に旋廻したので驚いたのだろう。リラの後ろにいるスカッシュが叫んだ。びゅうびゅうと吹き抜けていく風のせいで、青年の声はわずかに耳に届くていどだ。
「ううん、分からないわ」
 リラは大きな声で言葉を返して、首を横に振った。

 ついた先は火の山だった。
 もうもうと蒸気が立ち上がる火の山の中腹へ、アリアカンテは降り立った。
 明かりなどなかったが、山肌はほのかに淡く明るかった。火の山という場所が、魔法がかった土地だからだとスカッシュが教えてくれた。
「おお、ここじゃ、このあたりじゃ」
 アリアカンテは口から小さな火の粉を吐いた。
 リラとスカッシュは背から降り、彼の用事はなんなのだろうと、じっとようすをうかがった。
 アリアカンテは大岩に向かってゆっくりと歩いていき、あたりをさぐっている。なにか探しているようすだった。
「……ここにずっと立っていると、靴の裏が焦げるいい匂いがしてくるんだけど」
 スカッシュがぼそりと呟き、眉根を寄せた。
「そういえば、なんだか足が熱い気がするわ」
 リラもうなずき地面を見る。
 鉄錆びた色の岩肌は熱い。地面の下を流れる溶岩のせいだ。
 視線をアリアカンテに戻すと、山肌沿いの岩をどかそうとしているところだった。それは彼自身ほどもあろう大きな岩だ。さすがに動かないだろうと思われたそれは、アリアカンテが押すと、いとも容易く動いた。
「あ、あれって……!」
 リラが声を上げる。
 暗闇の中で目をこらせば、なんと岩をどかした場所にぽっかりと洞窟が口を開けているではないか。
 アリアカンテは振り返ると二人に向かって言った。
「ワシはなんにもしてやれん。かわりといってはなんじゃが、ここにある好きなものを持っていくがよい」
 そして背後の洞窟を首で指し示した。
 リラとスカッシュはアリアカンテのところまで駆け寄ると、おそるおそる中を覗き込んだ。
「な……!」
 スカッシュが目を見開き、うわずった声を上げた。
「すごいわ! これ……全てあなたのものなの?」
 リラは目を輝かせて振り返ると、アリアカンテを見上げた。
 彼はグルグルと喉を鳴らして肯定を示した。
「さあ、二人とも、好きなものをめいめい一つずつ持っていくがよい」 
 
 二人は洞窟から出てくると、もらった品を大事そうにぎゅっと握った。
 リラとスカッシュは顔を見合せる。思わぬものを手に入れて実感がわかない、信じられないといった表情だ。
 無理もない、二人は竜の宝を手にしているのだ。
 
「では行くかの」
 一陣の風が吹く。
 アリアカンテは羽ばたいた。
 風に乗るアリアカンテの声は、まるで歌のようだった。
 

 

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