第三話 見えない、敵
白衣の少女たちは次の日から、暗黒生徒会執行部の情報を集めるため学校内を散策していた。
時間は二時限目、休み時間。
彼女たちは普段から白衣を愛用している。着ていないと落ち着かない。根っからの化学好きなのだ。
「うーん、さっぱり情報が集まらないな」
海老根翔子はうなる。
「ですわね……、情報収集しないで敵陣に突っ込むわけにはいきませんものね。どうにかしないと」
小林佳子もあいづちを打つ。
「はむはむ、美香ちゃんが思うに、直接、生徒会室に行ったほうがいいと思いまっす」
吉崎美香は歩きながら、購買部で買ったパンを食べている。早弁だ。
「あなたたちを倒しにきました、って? それはちょっとなー」
海老根は賛成しかねて首をかしげた。
正体不明の相手と戦うにはまずは情報が欲しい。
「わたくしたちの化学部にだけ部費を出さないなんて、本当に失礼してしまいますわよね」
佳子が形のよい眉をゆがめる。
科学部にはしっかり部費が出ていると小耳にはさんだため、余計に機嫌が悪い。
化学部と科学部は犬猿の仲なのだ。
「暗黒生徒会執行部、本当に何なんだ……」
海老根は独りごちる。
見えない、敵。暗闇に足を取られたような気分だ。
謎は解けるどころか、深まるばかりだった。
「エビネせんぱーい!」
後ろから声をかけられ、海老根は振り向いた。
そこには見知った少年が一人立っていた。
「やあ、ヨウメイ」
一年生の山中洋明だ。本当は、やまなかひろあき、と読むのだが、海老根からはヨウメイというあだ名をつけられている。部員の少ない化学部に仮入部中の貴重な存在だ。
やたらと海老根に懐き、犬のようにあとをついてまわっている奇特な少年である。
「あら、山中くん。ごきげんよう」
佳子も山中を見て、優雅に会釈をした。
「オッス、山中!」
パンを食べ終わった美香は山中の背中を強くバンバンと叩いた。
かわいそうに、山中はむせている。
美香は後輩になら何をやってもいいと思っているようだ。
「あ、あの、先輩たち、化学部だけ部費がでなかったって本当ですか?」
山中は深呼吸をしたあと、話を切り出した。
「ああ、そうだよ。まったくふざけているね。暗黒生徒会執行部とやらのおかげだよ」
海老根は言葉を返す。
「本当だったんだ……、一年生のあいだでもウワサが流れてたんです。生徒会がいきなり謎の人物に乗っ取られたって」
山中は不安そうな表情だ。
「私たちもソレの正体を調べているところさ」
そのとき、三時限目を知らせるチャイムが鳴った。
「チャイムだ。……それじゃ放課後に、また」
「はい」
四人はそこで話を切り上げ、それぞれの教室へと戻っていった。
そのようすを階段から見ていた一つの影に、彼女たちは気がつかなかった。影はチャイムとともに一階へと消えていった。
放課後、一階の化学室には仮入部中の山中を含め、四人の生徒たちが集まった。
ほそぼそと、実験の用意をしていた。ジエチルエーテルの実験だ。
化学部で使える薬液も残り少ない。授業で使う分と、化学部で使う分はきっちりわけられているのだ。わびしい研究となりそうだった。
「ねー、ねー、山中にも言っておいたほうがいいんじゃないのー?」
換気扇のスイッチを入れながら、美香が小声で海老根に耳打ちした。
「あー……、確かにな」
海老根はうなずく。
三人が化学戦隊・ケミカレンジャーになったことを、だ。
「山中くんだけ仲間外れでは、仮入部中だからといって失礼ですものね」
佳子もそれに賛同する。
三人の白衣の少女たちが、ヒソヒソと話をしていたそのときだ。校庭から大音声が響き渡った。
「化学戦隊・ケミカレンジャー、でてこいー! 化学室にいるのは分かっているんだぞー!」
拡声器かメガホンを使っているらしい。
三人は弾かれたように窓の外を見やった。運動部の男子たちの姿が何人か見えた。だが、ようすがおかしい。どこか不自然な筋肉の盛り上がりがある。
「わー、筋肉マッスルーだねー」
美香が感嘆の声をあげる。
「な、なんなんですか、ケミカレンジャーって?」
山中はおろおろするばかりである。
「きたか、暗黒生徒会執行部の刺客たちが。あれは化学薬品かなにかで強化人間と化しているぞ」
神久が険しい表情で化学室に入ってきた。
「なんで私たちのことがばれているんだ!?」
海老根は校庭の外を見ながら、呟いた。
「分かりませんわ。おかしいですわね……」
佳子も首をかしげる。
「とにかく、出動だ! 初仕事だぞ!!」
神久が声を荒らげた。
「はいですー! 戦闘、楽しみー」
美香がぴょんと跳ねて、元気よく手を上げた。
行け、ケミカレンジャー。戦え、ケミカレンジャー。学校を暗黒生徒会執行部から守りぬけ!!
次回予告。
初めての戦いをすることになったケミカルレンジャー。どうなる!?
来週もチャンネル合せるのを忘れるな!
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