第六話 登場、暗黒生徒会生徒会長
ガラリと、化学室のドアが開いた。
入ってきたのは、見知らぬ少年だった。
「うわあ、カッコ可愛いー。誰かなあ?」
吉崎美香はきょとんとしている。
黒髪を短く切りそろえた少年は、化学室に入ってくるなり丸椅子に座った。当たり前のように。しかも白衣を着ている。
「どなたでしたかしら?」
小林佳子は小首をかしげた。覚えがない。
それを聞いてか、少年は口を開いた。
「一之瀬令です。すみません……普段、部活に出てこなくて」
申し訳なさそうに、まつげを伏せた。
「ああ、本入部した一年の、イチノセレイ君ね。部活に出てきてくれて嬉しいよ」
化学部副部長の海老根翔子は少年の肩をぽんと叩いた。
少年の正体は、普段は幽霊部員の一之瀬だった。
はじめの一週間ほど仮入部の状態で姿を見せなくなり、そのまま本入部した、例の少年だった。
「クラスが違うから、僕も分からなかった」
山中洋明も、驚いたようすだ。
「今日は硫酸と水酸化バリウムの中和の実験をやるところだったんだ。やっていくかい?」
「はい」
海老根の問いに、一之瀬はコクリとうなずいた。
身のこなしのよい、顔立ちの整った華奢な少年だった。
(それに……)
と、海老根は口の中で呟く。
「なんだか、妙につやっぽいというか、色香をただよわせた方ですわね……」
こっそりと、佳子が海老根に耳打ちした。
海老根は小さくうなずく。
確かにそれは海老根も思っていたところだ。
(こんな、自分より年下の少年が……)
そんなことを思う。
短く切りそろえた黒髪の下から見えるえりあしは、ほっそりと白い。
単純に美しいと、海老根は思った。
と、そのときだった。
放送を知らせる音とともに、スピーカーから荒々しい声が響く。
「えー、暗黒生徒会からの刺客からのお知らせです。化学戦隊・ケミカレンジャー、至急、グラウンドまでお越しください。繰り返します、化学戦隊・ケミカレンジャー、至急、グラウンドまでお越しください」
それを聞いて、白衣の少女たちはため息をついた。
「いつものですわ。わたくしたちだって、ヒマじゃありませんのに」
佳子が肩にかかる髪を払い、いまいましげに言った。
「あー、美香ちゃん、ちょっと今日はそんな気分じゃないなー」
美香もほおづえをついて、めんどくさそうにしている。
「仕方がないだろう、行こう」
そういう海老根も立ち上がる気配がない。
白衣の少女たちは窓の外に目を向けた。もう五月に入り、外は夕方だというのに日の光が眩しい。桜の木は青々と葉を茂らせている。
このごろ、暗黒生徒会執行部からの戦いがひんぱんに申し込まれており、そのたびに呼び出されては戦っている状態であった。そのため、彼女たちは少し疲れていた。楽しい化学の実験の邪魔をされるので、ストレスが溜まっているのである。
いくら学校を悪の手から救うとはいえ、正義の味方も楽ではないなと海老根は思った。
「はーい、それじゃ刺客さんたちで実験しちゃうっていうのはどうですかー?」
美香が可愛らしく小首をかしげて手を上げる。
「あ、それ賛成。二週間後の中間テストで化学があるしなー」
海老根がすかさず手を上げた。
「わたくしも賛成します」
佳子も手を上げる。
「じゃ、決まりだな、行くか」
海老根がゆっくりと立ち上がった。
「僕も観戦に行きます、エビネ先輩!」
ガタリと椅子を鳴らして、あわてたようすで山中も立ち上がる。
「遊びじゃないんだよ、ヨウメイ」
観戦と言われて、海老根は顔をしかめて山中をたしなめる。
「はい、すみません。エビネ先輩!」
叱られても山中は笑顔でしっぽを振り、海老根のあとに続く。
スピーカーから再び催促の放送がかかり、白衣の少女たちは昇降口へと走り出した。
だが、少女たちは気がつかない。一之瀬がついてこないことに。
「ケミカ変身!」
昇降口を出たところで、かけ声とともに白衣の少女たちは化学戦隊・ケミカレンジャーに変身した。
超装甲白衣・一式と、超強化制服は今日も健在だ。
グラウンドに到着した彼女たちを待っていたのは、野球部の部員たちだった。やはりご丁寧に『暗黒生徒会・刺客』と書かれたタスキをかけている。
「まっするまっするー」
どこか棒読みに無表情の美香が呟いた。
刺客たちはいつもの通り、化学薬品を使ってか筋肉強化しているようだ。不自然な筋肉の盛り上がりを自慢するかのようにポーズを作っている。
「ボディービルダーじゃないんだからさ、そのポーズやめろ」
海老根もなかばあきれたように言った。
「化学の使者、ケミカレンジャー推参!」
白衣の少女たちはそれぞれにポーズを決める。
「推して参る!」
海老根が怪しげな色の試験管を突き出し叫んだ。
「ふははは、よくきたな、ケミカレンジャー!」
そのときだ、いきなり上から男の声が響き渡った。
「屋上ですわ」
佳子が指を指し、その男を見てわなないた。
「……!」
海老根は弾かれたように上を見る。
驚き、声を出すこともできない。目を大きく見開き、その男を凝視した。
「はにゃあ」
美香も目をしばたかせ、よく分からない声を上げる。
屋上に立っていたのは白い学ランを着て、白衣をまとった人物だった。三人がもっともよく知る、その人物の名は。
「正臣……なんで……?」
海老根が熱にうかされたように呟く。
「久しぶりだね、翔子。いや、今はケミカレッドか」
男は、かけていた眼鏡をちょいと指で押し上げる。
それは化学部部長である宮迫正臣だった。
「一之瀬くんですわ」
そして、その隣には寄り添うようにして一之瀬令が立っている。彼もまた白い学ランを着ていた。
「なんで……、なんで、学ラン着ているんだ? うちの学校はブレザーじゃないか」
海老根は問うた。
二ヶ月ぶりに会ったというのに、海老根の頭をかけめぐるのはその疑問だった。
「趣味だから」
即答し、宮迫は腕をかかげる。その手首には白いブレスレットがあった。
海老根たちケミカレンジャーが持つものと形が酷似している。
「宮迫、なぜお前がそれを! それは封印されていたはず!」
神久が叫んだ。
「封印を解いたのですよ、先生。そう、これはケミカイザーに変身するためのブレスレット」
ふふ、と宮迫は微笑んだ。
「ケミカ変身!」
かけ声とともに宮迫は変身した。
「変身、完了。暗黒生徒会生徒会長ケミカイザー、見参!」
宮迫の身体を包むのは、ケミカレンジャーたちと同じく、謎の生地でできた白衣と、超強化白ガクラン、そして白い手袋。
「超装甲白衣・零式……! それはあまりにも危険すぎるために封印されていたんだぞ」
神久がいまいましげに言って、顔をゆがめる。
「な……、そんな、部長が暗黒生徒会生徒会長でしたなんて」
佳子の顔が、青ざめる。
「それじゃ……美香ちゃんたち、部長と戦うの?」
美香も驚きを隠しえない。泣きそうになっている。
「……正臣、まさか君が暗黒生徒会生徒会長だっとは」
海老根はぎりぎりと睨む。
「どうしてだ、正臣。なぜ、こんなことを!」
声を張り上げた。
「刺客に勝ったら教えてあげてもいいよ、翔子」
ひどく優しい声で言って、宮迫は刺客に合図を送る。
「行ってください、野球部の皆さん!」
その声を合図に刺客たちが海老根たちに向かっていっせいに走り出した。
「行くぞ、ケミカブルー、ケミカイエロー!」
白衣の少女たちも走り出した。
そこは戦場と化す。
次回予告。
暗黒生徒会生徒会長の正体はなんと化学部部長の宮迫正臣だった。驚きと戸惑いを隠せない少女たち。なんと刺客たちはある作戦に出た。
来週もチャンネル合せるのを忘れるな!
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