真昼の庭園
「本当なのよ、父様。私は見たの!」
少女は訴えるように言った。
「噴水のしぶきが浮かび上がって、いくつも水晶玉のようになったと言うのかね?」
ひげをたくわえた紳士は少女の言い分を信じたようすもなく、ため息を一つついた。
昼の日差しは強く、二人の影を芝生の上に色濃く残す。
「いいかい、わたしは忙しい。遊び相手を探しているなら他の者を呼びなさい」
そう言葉を続けて、彼女の父親は眩しそうに目を細めながら屋敷の中へと戻っていってしまった。
「本当なのよ……」
少女は噴水を仰ぎ見た。
きらきらと光る透明な玉が確かに噴水の中から現れたのだ。それも数え切れぬほど。突然に。
彼女はその球体をいくつか手に取ると慌てて父親に見せに行こうとした。だが屋敷に入ると同時に、それは現れたときと同様にこつ然と消えてしまったのだった。
まだその奇跡のような痕跡が残っているのではと、書斎にいた父親の袖を引っ張り庭の噴水のところまで急ぎ戻ったのはよかったが、期待に反してそれはもうどこにも見当たらなかった。
「なんだったのかしら、あれは。私が白昼夢を見たのかしら。でも……」
しっかりとあの透明な球体の冷たい感触が手に残っている。
「……?」
ふと、スカートのポケットになにか入っている感覚がして、少女はポケットに手を入れた。こつりと手の先になにかがあたる。
「わあ」
取り出してみるとそれは小さなちいさな透明の球体だった。彼女が最初に見たものよりは小さかったが確かに同じものだ。ひんやりとしたその触り心地もそれだ。
やっぱり夢ではなかった。
彼女は一人微笑むとそれをしっかりと握りしめた。これは自分だけの秘密にしておこう。

・作者より
有沢ケイさんの描かれた絵にお話をつけさせていただきました。絵を見てお話を作るって新鮮で楽しい経験でした。ありがとうございます。