魔法病院

 

 

「具合はどうですか? マリンさん」

「あ、はい、良いです」

 医師の問いかけにあたしは頷いて見せた。

 

 あたし、マリン・アーティアは今年17才になる。職業は戦士。

 2週間前、かの有名な海上城塞タータルス城のタイタン王の討伐クエストに参加して、レベルの足りなかったあたしはもれなく重傷を負い、こうして今、大陸の魔法病院に入院中だったりする。

 魔法病院というのは回復系魔法使いの医師が多くそろう病院で、その名の通り魔法治療を主とする病院である。

 

 入院生活はとても退屈だった。何もすることが無く、腕の骨を折ってしまっていて治療中だから、トレーニングするわけにはいかない。もともと戦士をやっている身だから、じっとしてるのは苦手だった。

 そして病院食も予想したとおり、不味かった。

 だけど、そんな入院生活で唯一の楽しみがあった。

 巡回に来る担当医師のハイド先生と話をすることだった。

 ハイド先生はあたしがこの魔法病院に運ばれて来た日、苦しむあたしを一生懸命介抱してくれた。

 大丈夫だよと優しく笑いかけてくれた。

 忙しいはずなのにあたしの話を色々と聴いてくれた。

 スラリと高い背、中世的な顔立ち、小首をかしげるしぐさ、優しい声、綺麗な手。

 あたしはハイド先生が好きだった。

 

「そろそろ退院して大丈夫ですね、マリンさん」

 入院して3週間目、ハイド先生があたしにそう告げた。

「そうですか……」

 あたしは言って呆然としてしまった。

 ここを退院したらもうハイド先生に会えなくなってしまう。

「退院、嬉しくないんですか?」

 あたしの表情を見てハイド先生は心配そうに言った。

「だって」

 俯き、布団をぎゅっと握ったまま、あたしは続けた。一世一代の告白を。

「だって、もうハイド先生に会えなくなっちゃうじゃないですか、退院したら」

 顔を上げる。

 ハイド先生は、びっくりしたようにあたしを見て、その後、悲しそうに微笑んだ。

「マリンさん、退院したら会えなくなってしまって寂しいですね」

 ああ、振られたか。

 あたしは直感的に思った。

 でも、先生の言葉には続きがあった。

「ですから、私は、マリンさんについていこうと思うんです」

 ぎゅっと、あたしの両手を、ハイド先生の暖かい両手が包んだ。

「好きです、マリンさん。私がついていったら、迷惑ですか?」

 ハイド先生のまじめな顔。真摯に見つめてくる。

「あ、あたしも、ハイド先生のこと、だ、大好きです」

 もうあたしは耳まで真っ赤だった。

 こんな、こんな幸せなことがあたしの殺伐とした戦士人生にもあったなんて!

「で、でも、ハイド先生、病院やめちゃっていいんですか?」

 そうだ、大事なこと。

「ああ、いいんです。皆の役に立つより、貴方だけの役に立ちたんです」

 染み入るような暖かな笑顔。

 そんな嬉しすぎるお言葉。うう。

「それに私は役に立つかも知れませんよ。こうみえても私……」

 唖然とした。

 ハイド先生の背中からふわりと白い翼が。

「天使ですから」

 ハイド先生はちょっと小首をかしげて微笑んだ。

 

 そう、ハイド先生は、白衣の天使だったのだ。

 


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