薬草師と弟子
〜空賊のいる町〜
第1章 第1話

 

「今日のは大切な客人が来る日なんです」
 青年はにっこりと笑い、家の前の畑の植物に水をやりながら言った。それは植物に対して言った言葉だったのか、はたまた独り言だったのか。
「んー、今日もいい天気ですね」
 青年はだいぶ時間のかかった水やりが終わると身体をほぐすように伸びをした。そして、丘に建つ自分の家の前から丘の下の町を見下ろした。
 畑では植物たちが水をもらい気持ちよさそうに葉を天へと広げている。


「いいかい、そそうのないようにするんだよ。行儀よくね。ええ、おまえはそれじゃなくったって、じっとしちゃいないんだから」
「うん。わかってるわ、おかあさん。心配しなくても大丈夫よ」
 町の中央通りの噴水の前を抜けたところで、親と娘が言葉を交わしていた。そわそわと眉根を寄せているのは母親のほうだけのようだ。前かけをはたいてしわをなでている。
 娘のほうは落ち着いたようすだ。ただ、無表情に前だけをまっすぐに見ている。
 その後ろからは痩せた中年の男が肩を落としながら後をついていた。たぶんに少女の父親だろう。
「…………」
 彼は無言だった。罪でも背負うかのように腰を曲げて誰とも口をききたくないといったふうに足もとばかりを見ている。

「ほら、早くおしよ。まったくしかたがない子だね」
 母親が声を張りあげて、自分よりずいぶん後ろを歩く少女をせかした。
「だって丘をゆっくり見ながら歩きたいんですもの」
 少女はよくようなく切り返し、町外れの丘を見やった。
「もうちょっとてきぱきと歩いておくれ。日が暮れちまうよ」
 母親はあきれたようにため息をついた。
 中央通りを抜け、石だたみが終わると舗装されていない砂利と土の道に変わる。その道はなだらかな坂道になっていた。登りきった先に目指す場所がある。
 季節は初夏。むっとする草いきれの中を三人は坂を上っていった。

 空には鳥が飛んでいた。いや、鳥だけではない。船も飛んでいた。ゆうゆうと。
 だがそれはこの町ではしごく普通のできごとであった。

 

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