薬草師と弟子
〜空賊のいる町〜
第1章 第2話
「わあ、すごい、丘の上は畑だらけだったのね」
少女は先ほどの無表情などどこへやら、感激したようすで声をあげ畑のふちまで走っていった。丘一面が畑だった。どのくらい広いだろうか。見渡す限り畑が続いている。色とりどりの花が咲き、草は天へと葉を伸ばしている。背の高い木には見たこともない青い実がなっていた。
「シャルローナ、ほら薬草師さんの家はこっちだよ。早くおしよ」
母親に言われて、シャルローナと呼ばれた少女はあわてて立ち止まる。
「はーい」
丘の上の景色にすっかり気をよくしたシャルローナはもときた道を走り出す。ゆるく二つに結わえたお日さま色の髪がふわりと揺れた。
丘を上る道は長く、シャルローナを丘の上まで連れてきた夫婦はぜいぜいと息を切らし、それだけで疲れたようすだった。ふくよかな夫人は、さらに疲れたようすだった。
対してシャルローナは元気いっぱいであった。華奢な身体のどこにその体力が詰め込まれているのか、見ているほうも不思議になるほどである。彼女は生まれて初めてきた丘の、見たこともない花や草木に感激し、青い空色の瞳をくるくると輝かせていた。丘の下の町にはない草木ばかりだった。それは全て薬となるもの――薬草と呼ばれるたぐいのもの――だったが、シャルローナは知らなかった。その顔にはもう丘を上る前のどこかふてくされた表情は消えていた。
母親のところまで戻ってきたシャルローナは、きちんと刈り込まれた芝生を踏みながらまた感嘆の声をあげた。
「素敵なおうちね。ねえ、おかあさん……」
白いレンガの壁を蔦が這い、二階にあたるだろう窓までそのつるを伸ばしている。その白いレンガの壁の後ろに住居部分だろうか、木造の入り組んだ作りの建物が続いていた。煙突が二本ついている。暖炉があるのだろう。庭にある何本かの木にも蔦が這いあがり、ちょっとした森のような家であった。
「ほら、待たせちゃいけないよ」
夫人は家を見上げたままうっとりと固まってしまった娘の肩を押す。
シャルローナはうながされ、どきどきと高鳴る胸を押さえながら、木の板を組み合わせて作られた、まるで柵のような門を押した。全体的に古いものだろう家の中でも門はとびきり古いようで、シャルローナが押しただけでガサガサと音を立て、壊れてしまいそうになった。
「いらっしゃい。ようこそお越しくださいました」
そのガサガサという音を聞いてか、家の扉がシャルローナがノックをするより早く開いた。
そこには深い緑色のローブを着た青年が立っていた。
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