薬草師と弟子
〜空賊のいる町〜
第1章 第3話

 

 母親は若い男性が出てきたので、目を丸くして髪をなでつけて整えた。
 うす茶色の髪と、飴色の瞳をした背の高い青年だった。目が合うとにっこりと優しく微笑んだ。嬉しくなったシャルローナもまたにっこりと微笑み返す。
「薬草師のエルスラークと申します。お待ちしておりました。さあ、どうぞこちらへ」
 低く響く聞いていて心地のよい声だとシャルローナは思った。
「お師匠さま!」
 先を歩くエルスラークと名乗った青年にシャルローナは声をかけた。
 青年は驚いたようすで振り返った。
「そうですね……、わたしはあなたの師匠となるわけですが、いきなりそう呼ばれたので驚いてしまいました」
 そう照れたように微笑んだ。
「お師匠さま、わたし、このおうち、とても素敵だと思いました。丘にきたのは初めてだけど、丘の上は見たこともない花や草があって、いっぺんに気に入ってしまいました」
 思ったことを素直に告げ、シャルローナはきらきらとした目を青年に向ける。
「ありがとうございます」
 青年は嬉しそうに微笑んだ。

 椅子を勧められ、シャルローナを中央にはさんで、中年の男女は座った。
「これ、シャルローナ、ちょっと黙っておいで。お前ときたらほんとうに大人しくしてないんだから。薬草師さま、これがうちの娘の十三歳になるシャルローナといいます。見たとおり、落ち着きがなくてお恥ずかしいかぎりで」
 母親がしきりに頭を下げ、話を続ける。
「弟子にしていただけるとお話をいただいたとき、本当になんといっていいか、ありがたいお話だと思いましたよ。ええ。それにしても、薬草師さまはお若いんですね」
「はい、死んだ両親の跡を継いでまだそれほどたちません。わたしもまだ若輩で弟子を取るには早いかと思いました。ですが、わたしがシャルローナさんのお役に立てるなら」
 エルスラークは答えた。
 そのときいままで黙っていた中年の男が初めて口を開いた。
「薬草師さま、シャルローナはうちら夫婦の本当の子どもではありません。わしら夫婦は子どもができませんでしたので、そりゃあ可愛がって育ててきました。ですが、町の学校にも満足に通わせてやれない貧乏暮らしでして。それなら手に職をつけさせてやりたいと思って薬草師さまの門を叩きました」
「はい、初めていらっしゃったときにお話してくださいましたね。シャルローナさんのお父さまがわたしのところにお願いにいらしたときに」
 父親は頷いた。
「どうぞ娘を立派な薬草師にしてやってください」
 父親はテーブルに頭をつけて頼みこんだ。部屋が少しの間、しんと静まり返った。

 シャルローナはどうしたらよいのか分からず、父親と薬草師を代わるがわる見ることしかできなかった。父親はどうしてそれほど一生懸命なのだろうと。

 静寂を最初に破ったのは薬草師だった。

「お父さま、どうぞ頭を上げてください」
 薬草師はにっこりと微笑んだ。なにも不安なことはないと、父親の不安を打ち消すように。
「わたしと一緒に人を助ける薬草師となるべく、頑張りましょうね」
 そして、シャルローナに優しい笑みを向けた。
「はい、お師匠さま!」
 少女は、目を輝かせると身を乗り出して頷いた。

 

前へ 薬草師と弟子メニュー トップ メール 次へ

Copyright (C) 2006- chika ryuyu All rights reserved