薬草師と弟子
〜空賊のいる町〜
第1章 第4話
シャルローナの両親が帰っていったあとのこと。
薬草師エルスラークと二人きりになってしまった家の中はシャルローナにとってまだ心細く、なんとも寂しく思えた。それにシャルローナはまだ師匠となった青年に話しておかなければならない大事なことがある。いつ話そうか。話すことはためらわれたが、話しておかなければなるまい。
そうぼんやりとドアを見ながら考えていたところ、エルスラークに声をかけられた。
「シャルローナさんは住みこみになるわけですから、お部屋を用意しておいたのですよ」
エルスラークは言って、シャルローナについてくるようにうながした。
この薬草師の家は外から見て、建て増したうえにさらに建て増したようであったが、中に入ればそのせいか、やはり入りくんでいることがよく分かった。ややせまい感のある廊下を通り、階段を一つ上がり、少し歩いて今度は階段を下がったところの突き当たりの左側の部屋の扉を青年は開けた。つまり一階の部屋であった。
「さあ、シャルローナさん、ここがあなたの部屋です」
「わあ……」
シャルローナは部屋に入るなり笑顔になった。
部屋は質素ではあったが、暖かみがある木の壁と床で、机と椅子、それから寝台が置いてあり、机の上には畑で見たよい香りのする花が花びんに活けられていた。子どものシャルローナには十分な広さの部屋だ。
それになんといっても正面の開け放たれた窓からシャルローナが初めて丘の上にきたときに綺麗だと思った畑も見えた。
「気に入っていただけたらよいのですが」
不安げな表情で言った薬草師の言葉に、シャルローナは力いっぱい頷いた。
「お師匠さま、私、とても気に入りました。だって、うんと素敵なんですもの。本当に、この素敵なお部屋を私が一人で使っていいの?」
「ええ、そうですよ。ここはシャルローナさんのお部屋です」
薬草師エルスラークが言うと、シャルローナは満面の笑みでそれに応えた。
「ありがとうございます、お師匠さま!」
エルスラークもにっこりと笑った。
「気に入っていただけたようでよかったです。では、お荷物を置いたら居間に戻ってきてくださいね。少し休んでからでかまいませんから」
エルスラークは言うと、先に部屋を出ていった。
遠ざかる足音を聞きながら、シャルローナは荷物を置いて窓辺に歩み寄る。
(私、もしかして、おとうさんとおかあさんにやっかい払いされちゃったのかな? おとうさんがここにくるまでなんだか元気がなかったのって、私をいらないから捨てようと思って後ろめたく思っていたからかな?)
一人になりだいぶ興奮もさめてみると、ふとそんな考えが浮かび不安になった。
それは残念ながら、シャルローナが考えてたとおりのことであった。だがすでに両親は丘を下りて町へ戻ってしまっている。部屋にいて答えるものはいなかった。シャルローナの耳に聞こえるのは丘を通り過ぎる風の音と、畑の花や草が揺れる音だけだ。
これから自分はどうなっていくのだろうか。
シャルローナはぼんやりと外を眺めていたが、考えごとを頭から追い払うように首を横に振った。
「そんなことないわ。私がしっかり一人前の薬草師として身を立てられるようになったら大手を振って戻ればいいんだもの」
口に出して言うと、だいぶ元気がわいてきた。
立派な薬草師になるまで家には帰れない。帰らない。
シャルローナは自分に言い聞かせるように握りこぶしを作ると、部屋から出てあわただしく居間に向かった。
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