◇ひどい風邪をひいた恭平くんと看病する孝平さん


【風邪にはお粥で】



孝平は台所に立ち、おたまを持っていた。
ぐつぐつなり始めた鍋を見つめる。

恭平が、風邪をひいたからだ。

今からおよそ三十分程、前。
「父さん、起きて!時間だよ!」
朝、自室の入口辺りから聞こえてきた声に、孝平は目を開けた。いつもの恭平の起こし方ではないことに違和感を覚え、体を起こす。
「…?」
「起きた?ちょっと、俺もう行くから!あとテキトーにやっといて!」
リビングでドタバタと音がしている。
返事をしないでいると、ドアに聡平が顔を出した。
「聞いてる?」
「ああ。…恭平は?」
「昨日言ったじゃん。一昨日から熱で寝込んでる。」
「ああ…」
昨日は出張から帰ってすぐに寝てしまったから、あまり覚えていない。

風邪か…
これでは褒美もいただけそうにないな。

「俺学校あるから。あとよろしく!」
すちゃっと手を上げた後、聡平は急いで家を出て行った。


のそりと起き上がり、洗面台へ。
顔を洗うとすっきりとして、記憶もよみがえってきた。そういえば、昨日、つらそうにせきをしていた。病院には行ったのだろうか?
孝平は音をたてないようにして、彼の長男の部屋を開けた。
ベッドに近付き、恭平の顔色を伺う。
こちらに背を向けて眠る恭平は、死んだように静かな寝息だった。

一瞬、くらりとした。

「…恭平。」
思わず声をかける。
熱があるのなら、もう少し、苦しそうにしていてもいい。
もう少し、頬が赤くても。汗をかいている様子も、ない。

「恭平。起きろ。」
応答がないので、肩に手を触れて揺さぶってみる。
「起きなさい。」
しつこく声をかけると、恭平がうっすらと目を開けた。溜息のような息を吐いて、声の主を探す。
やがて孝平と目が合った。
「あれ…父さん…」

喋った。
いつもより数倍も弱々しかったが、そんな小さなことに孝平は安堵した。
恭平の額に手を当てる。
「熱があるのか?」
「うん…薬飲んだんだけど、ひかなくて。」
「何か食べるか?」
「いらない…。それより、父さんはご飯食べた?」
「いや。」
「作ろうか。」
「…心臓に悪いことを言うな。」

孝平は溜息をついた。
どこまでも、人の心配ばかりしている。
この性格はいつ頃身についたのだろう?
亡き妻・愛の遺伝子が目に見えるようだ、と思った。

孝平は息子の額から手を離し、窓に近付いてカーテンを開けた。鍵を外し、外の空気を取り入れる。
「寒いだろうが、五分ほど我慢しなさい。空気を入れ替えたほうがいい。」
そう言って恭平を見る。
彼は眩しそうに窓を見て、孝平と目を合わせた。

「ごめんなさい…」
「気にするな。幸い、今日竹本が迎えに来るのは午後なんだ。」
「仕事行くの…?」
「うん。でもその時間までは、恭平の看病だ。」
「…。」

恭平は黙った。
泣くのかと思ったが、思いのほか元気そうな笑顔を見せた。
日の光の当たる明るい場所で見ると、恭平の頬は赤みが差しているように見えた。時折咳き込む以外は呼吸も普通にしている。
「汗はかいたのか?」
「うん…夜は。」
「着替えなさい。どこに入ってる?」
「そこ…」
恭平の指差した洋服箪笥から代えのパジャマを取り出してやり、それから孝平は自分も服を着替えた。
自分のトーストを焼き、恭平には何か消化のいいものを、と思った。

そして、今に至るというわけだ。


出来上がったお粥を持って恭平の部屋に入った。
彼は着替え終わり、ベッドの上に座っていた。気管系の風邪なのか、しきりにつらそうなせきをしていた。
寝ている時は治まっていたのだから、起こさない方がよかったのかもしれない。

「お粥だよ。」
「けほ…え?父さん、そんなもの作れたっけ?」
「ああ。ただし味は保障しない。」
恭平の脳裏に、明美の料理音痴が過ぎる。

う…だ、大丈夫かな?

しかし恭平の危惧を気にもかけずに孝平は言う。
「熱いうちに食べればウマい。」
「冷めると…?」
「さあ、冷めてから食べたことがない。」
「はは…」
恭平は苦笑して、孝平からそれを受け取った。
「あんまり食欲ないんだ。」
「構わないよ。食べるだけ食べて、寝るといい。」
「…優しいね。」
ぽつりと言った恭平に。
孝平はいたずらに笑った。
恭平の耳元に口を寄せて、甘い声で囁く。
「元気になったら、ご褒美が欲しいな。」
「…!」
げほげほ!!
恭平は持っていたお粥を取り落としそうになった。


しかし、病は気からである。
恭平は美味いか不味いかわからないお粥を熱いうちに食べ、言われた通り薬を飲み、それからさらに二日ほど寝込んだ。
心配しまくり、毎日のように恭平の面倒をみていた明美が、彼の熱が下がった日、ぽつりと言った。
「なんか兄さん、父さんといると嬉しそうなのよね。」
それを聞いた良平が、ハ?と顔をしかめる。
「目の錯覚だろ。」
「ううん。絶対そう。」
「…やっぱり親子だからなぁ。」
まるで他人事のような口ぶりである。自分も孝平の息子であることなど、良平の中では棚の上なのかもしれない。
「妹の私が毎日こんなに尽くしてるのに、父さんが帰ってきてからの三十分の方が元気な気がするんだもん…」
「…まさか妬いてんの?」
「うん。」
「うはっ!ちょーブラコ〜ン★馬鹿みた〜い★」
良平はふざけて楽しそうに笑い、明美はぷくっと頬を膨らませてそっぽを向いた。


***


◇後書き

リクエストありがとうございました。

孝平さん自作のお粥、お味の方はどうだったんでしょうね??笑
手取り足取り優しく看病、というのは性格上やってくれない孝平さんでしたが、それでも恭平くんは満足してくれたみたいです(*^3^*)/ いかがだったでしょうか?
いつも団欒掲示板でお世話になっているるるさんへ、佐久間家オールキャラで感謝を申し上げます。

これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m


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