![]()
◇酔った良平くんに甘えられて不覚にもドキッとしてしまい、自己嫌悪する聡平くん
内輪飲み。居酒屋にて。
「みずきっ!酒!酒ねーぞ!」
「こら、良平。飲み過ぎ。」
聡平が呆れて溜め息を付く。その隣で瑞樹は手を上げて店員を呼んだ。
良平は聡平に振り向いて、ひゃっくりをした。
「…聡平は飲んでるか?」
「お前ほどじゃない。」
「飲め飲め!うまいぞぉ☆」
なかなか可愛い店員に、瑞樹が日本酒を頼んでいる。
これは…やばい。
「聡平もお代わりどーぞ。何がいい?」
「ッおい!瑞樹まで…」
「そーだ飲め。聡平ももっと飲め!」
「ばか、俺も飲んじゃったら誰がベロベロのお前らを連れて帰るんだよっ。」
「気にしなーい!」
「気にするっつーの!」
良平がキャハハと笑い声を上げた。聡平ツッコミ早ぁーい!とかなんとか言っている。
いよいよ、ヤバイ。
瑞樹は調子に乗って良平に飲ませまくっている。良平もそれを断らない。
「んー、これウマーイ☆」
「だぁろ?良平くん、いい飲みっぷりで惚れ惚れするぜ。」
「だぁろ?」
「だぁね。」
「ぶはは!!」
もはや何が面白いのか素面の状態では理解できない。
やがて、仕事を終えた杉野がスーツ姿のままやってきた。
聡平には困り果てた民を救いに来た天使のように、輝いて見えた。
「おーす。」
手を上げて挨拶をした杉野に、良平が立ち上がった。
「杉野っ!おせーぞ!!」
「ごめんね。でも無茶言わないで、これでも急いだんだから。」
「いそいだ?」
「うん。はい良平くん奥に詰めてー。」
「んー?!」
だいぶできあがっている良平を無理矢理押して奥へ寄せ、杉野は良平の隣に腰掛けた。
「杉野!せめぇ!」
「良平くんが幅取り過ぎなの。」
「杉野がでかいんだろ!」
「でかいのは背だけなの。瑞樹、ビールでいいよ。」
「うい。」
ドリンク表を取りかけていた手を戻し、瑞樹が再び店員を呼ぶ。
杉野はお手拭きの袋を破った。良平がじゃれてその邪魔をする。
「こら、やめろ。」
「手は拭かせないぞ!」
やたらと夢中になってお手拭きを横取りしようとしている。杉野は笑って、良平が取れるか取れないかの高さでそれをヒラヒラさせた。
「じゃあさ、先に良平の手を拭いて上げよう、ね。」
「…は?なめんな!」
途端に敵意をむき出しにして杉野を睨む。アルコールが回ってとろんとした目で睨まれてもてんで怖くないし、むしろ可愛らしく思える。
杉野はニヤリとほくそ笑んだ。
「良のことなら舐めてもいいよ?」
「ふざけんな!!」
「あれ?れ?ここ汚れてるよ…」
「じっ…自分で拭く!!」
良平は杉野の手から逃げるように、素早い動きで自分のお手拭きを取った。必死に汚れてる場所を探す。
その間に杉野拓巳は自分の手を拭き終わる。
さすがに毎日、良平の相手をしているだけある手際の良さだ。
聡平は素直に感心した。
「あれ?聡平、飲んでないんじゃないの?」
杉野が気付いた。聡平が答える前に瑞樹が横から言う。
「良平連れて帰るためだって。」
「えぇ?連れて帰っちゃうの?!」
杉野が心底残念そうな声を出した。瑞樹が思わず吹き出すかと思い、慌てて口を塞いだ。
「聡平、飲んでいいよ。お金出すし。」
「一人で帰れってよ、聡。」
「うん、そう聞こえたね。」
「そう言ったけど?」
「先輩…」
「聡平は一人じゃないぞ!!俺がいる!!」
『はいはい。』
良平を除く三人の声がハミングした。
日本酒を飲んだ良平は、聡平や瑞樹の予想通り、乱れ始めた。
そろそろ記憶は飛んでいると思われる。
杉野がトイレに立った隙に鞄をひっくり返し、手帳の中身を確認している。
「良…それはさすがにやめておけ。」
「なんでー?浮気ちぇっくだよ、うわきちぇっく。」
「してるわけないだろ。」
「あの先輩が、なぁ。」
「ぬ…あ、あ、あーーーーー!!!!」
良平が絶叫した。
思わず席を立ち、口を塞ぎにかかる聡平。ざわざわした店の中で、一瞬だけ注目を浴びてしまう。
は、恥ずかしい!良平の馬鹿!!
「なんだよっ叫ぶなよ良!」
「だって…だって、コレみてよ。」
「あ?」
良平の指先には、先週の土曜日が。
池袋10:00
ほなみさんと食事
「…あ。ほんとだ。」
「え?何?」
瑞樹までが乗り出して、手帳の中を覗き込む。
「…。」
「うわき〜〜〜〜っ!うわきだぁぁぁあ!!」
「そ…そんな。」
「うっそ?まじ?これ…浮気じゃん!!」
「うわきぃぃぃ〜〜〜!!」
酔っ払い三人の思考回路は、もはや“浮気”の二文字に支配されていた。
良平が泣く。手帳を放り出して、聡平に掴みかかった。
「どーゆーことだよっ!」
「し…知るか!怒る相手は俺じゃねぇだろ!」
チョップを食らわし、良平が放り出した手帳を拾い上げる。中身をもう一度見て、その日以外に“ほなみさん”の文字がないことを確認する。
「…一日だけだよ。良平、大丈夫。」
「杉野なんて、すぎのなんて、嫌いだ〜。大人なんて大嫌いだ〜〜。」
半泣きになって聡平にしがみ付く。
ぐへ、と舌を出して聡平が苦しそうに顔をしかめた。
「良…やめて。離れて。」
「聡…おれにはおまえだけだよ。」
「キモ…」
「良平、俺は?俺もお前の味方だよ?」
瑞樹が言う。笑っているから、からかっているに違いない。
聡平の首にしがみ付いたまま、良平はちらりと瑞樹を見やって、首を振った。
わざとなのか、無意識なのか、涙のたまった瞳で聡平を見る。
ドキリ、
と心臓が高鳴った。
「そうへいがいい。」
…いやいや待て待て。
ドキリとかする場面じゃねぇぞ、コレ。
俺も良平は好きだけど、そんな告白は望んじゃいねぇぞ。
普段言わないくせに、こういう時だけストレートになられても困る!!
…早く正気に戻るんだ、良平!!
と、そこへ。
ふ〜、トイレ混んでたぁ、と呑気な台詞と共に杉野が帰って来た。
凍りついたその場の空気に首を傾げる。
…なんで、俺の荷物ひっくり返されてんの?…という心境である。
「すぎの!!」
良平は聡平からがばりと離れ、イスの上に立ち上がって杉野を指差した。
「はいっ?!」
条件反射で後ろへ後ずさり、怯えた表情を見せる杉野拓巳。
「ほなみってだれだ!!!」
「…は?」
「へんとーしだいではゆるさねーから、きっちりせつめーしやがれ〜!!」
聡平が止める暇もなく。
良平は、杉野の胸倉を掴んでそのまま倒れこんだ。イスや皿や料理がその場の中空に舞う。あわや乱闘。
その後、
四人は居酒屋を後にした。
正確に言うと、追い出された。
杉野が必死になって、穂波というのは姉の名で、先週、一年ぶりくらいに会って食事をしたんだ、ということを良平に理解させたのは翌日の朝のことだった……
***
◇後書き
リクエストありがとうございました。
本題よりも前置きの存在感の方が大きくなってしまいました…;良平くん、酔いまくり(汗)よい子は真似しないよう、お酒は節度を持って飲んでくださいね(^_^;A
とにもかくにも、良平くんのわけのかわらない魅力にドキリとし、自己嫌悪に陥る聡平くん、いかがだったでしょうか??
これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m
+戻る+