◇孝平さんに甘えてる所を兄弟に目撃される恭平くん


【挙動不審の朝】



近所のコンビニへアイスを買いに行こうと、明美は服を着替えてサンダルを履き、外へ出た。庭を横切ると、ポン、ポン、とボールの音がしていた。
気になって見てみると、聡平がサッカーボールでリフティングをしていた。

「聡ちゃん。コンビニ行くけど、何か買ってこようか。」
聡平が反応し、ボールを地面に左足で押さえて顔を上げた。
「んー。そうだな、明美は何買いに行くの?」
「アイス。」
「じゃ、俺も。」
「は〜い。」
明美は踵を返した。背後で再び、ポン、ポン、とボールの跳ねる音がする。

明美のヒールがたてるカンカンという音が聞こえなくなった頃、二階の窓を開けて良平が顔を出した。背筋を伸ばし、大きな欠伸をしている。
すぐに庭の聡平に気付いた。
「そ〜う。」
「あ、良。おはよ。つーか、おそよ。」
「っせぇ!黙れ!」
「良、ゴールキーパーやって。」
「あ?」
「着替えて降りて来いよ。」
聡平はボールを高く蹴り上げた。
ポーンとまっすぐ空へと舞い上がったサッカーボールは、良平の目の前で弧を描き、スローモーションのようにゆっくりと、再び地面へ戻っていった。
「…ったく、わかったよ。待ってろ!」
「おう。」
聡平は落ちてきたボールを追いかけて、地面を蹴った。

素早く着替えた良平は階段をダッシュで駆け下りた。寝起きとは思えない行動力である。
台所にいた恭平が驚いて音を追った。
「良平?ご飯は?」
「作っといて!聡平と庭にいるから!」
振り返りもせず、窓を開けて庭へ飛び出た。

恭平は苦笑して、洗い場の水で手を流した。
休日。
今日は珍しく孝平もいて、まだ起きてこないところを見ると熟睡しているらしい。起きてくるまで放っておいてやろうかと思った。
が。
今、明美は買い物へ、双子は庭でサッカーをしている。

「…。」
恭平はエプロンで濡れた手を拭き、静かに孝平の部屋の戸を開けた。
家全体の明るさに比べて、この部屋だけが真っ暗だった。
耳を澄ますと孝平の規則正しい寝息が聞こえてきそうだ。
恭平は優しく微笑んで、中に滑り込んだ。

手探りでベッドまで近付き、膝をつく。
枕で乱れた孝平の髪を、そっと一束摘んで、離した。
「とう、さん。」
遠慮がちに声をかけてみる。反応はない。
「父さん。朝だよ。」
少し大きめの声で言う。孝平が小さく呻いて、寝返りを打った。
顔がこちらに向く。ドキッとして思わず体を引いた。
…起きる気配はない。

恭平は手を伸ばし、孝平の額に手を当てた。
「父さん…朝だよ。起きて。」
「ん…」
「まだ寝たい?」
「…っ」
眉を寄せて、布団から腕を出し、顔を隠す。
恭平の手に触れたので、その手を握った。
「と…」
「起きる…カーテンを開けて。」
「はい。」
恭平は頷いて、左足から立ち上がった。
手を繋いだまま、窓の方へ反対の手を伸ばす。カーテンを掴むと、外の光が部屋の中を照らした。

「眩しい…」
「朝だもん。」
「うん…、ちょっと、こっちへおいで。」
孝平が繋いだ手を自分の方へ引いた。恭平は引っ張られ、バランスを崩した体をどうにか、ベッドに手と足をついて支える。
「父さん?」
恭平は覗き込んだ。
もう少しで開らきそうな、父親の目を……


その時。

「兄さ〜ぁん!アイス買ってきたよアイス♪」
明美が帰って来た。
「おっせ〜ぞ、明美!」
「はい、聡ちゃんの分。あれ?良ちゃん起きてたの?」
「ちょ…おい。なんだその言い方は。まさかお前、俺の分…」
「いち、に、さん…うん、三個しかない。これは兄さんの分、これは明美の分。」
「てぇめぇ〜〜!!」
庭からドカドカと足音を立てて居間へと入る三人。
恭平の姿がないことに気づいた時、明美が父親の部屋の戸が開いていることに気付いた。
「あれ?あそこ…」
「親父起こしてんのか?」
良平が近付く。
聡平も同時に覗き込んだ。

「兄貴っ?」


恭平は慌てて顔を上げた。
繋いだ手を、布団の中に滑り込ませる。
「は。はいっ?」

きょとんとした良平と聡平と目が合った。
みるみるうちに、顔が赤くなっていくのがわかる。
わー!わー!!

双子の後ろから、明美が背伸びをしながら声を上げる。
「ちょっと!二人とも!入るなら入る、出るなら出るでどっちかにしてよ!明美が見えないよ!!」
聡平が振り向いた。
「アイス食お。」
「へ?」
きょとんとした明美からコンビニの袋を奪い取り、中のアイスを吟味し始める。良平は逆に、部屋の中に入って行った。
「兄貴っ!」
「は、はいぃ?何、良平くん?」
孝平が手を離した。恭平の後ろで、笑いを堪えている。
良平は恭平の目の前まで来て、父親の寝顔を覗き込み、それからカーテンを全て開け放った。
「あ、ありがと…」
「兄貴!!」
「はいぃぃ!怒鳴らないで!」
「暗い中で起こしてたって、起きるわけないだろ!!」
「…は、はい。」
「しかも、俺のことは起こしてくんなかったのに!飯は?!」
「…途中…」
「腹減ったから!早く作ってよ!!」
良平は恭平の手を引っ張って、部屋を出た。
明美がそれを見送って、きょとんと立ち尽くす。

「明美ー。これ、お前の分も食っていい?」
聡平の声にはっとした。
なんか…誤魔化されてる気がするけど、まぁいっか??
「だめ!!!明美が買ってきたんだから。モナカは私の!!」

部屋に残された孝平は、一人布団の中で笑いを堪えて震えていた。


***


◇後書き

リクエストありがとうございました。

なんとなく見てはいけないものにフタをする聡平くんと、自分より父親に手をかけていることに嫉妬する良平くんと、二人にうまく誤魔化されている明美ちゃん。恭平くんは慌てるだけで頭真っ白、孝平さんはわかってて含み笑い。佐久間家家族模様(* ̄∀ ̄*)いかがだったでしょうか??

これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m

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