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◇酔った杉野さんと聡平くんの一夜の過ち
記憶がない。
昨日、久しぶりに長電話した相手、佐久間良平とは最後の最後、あと五分で切るよっていう時に口論してしまったような気がする。
仕事でのストレスもたまっていたし、次の日忘れてしまうくらい小さな出来事だったのだろう。
とにかく、杉野はその後どうしたかというと。
バイクに乗って最寄のコンビニに行き、お酒を買った。
飲んでたら、良平が来た。
…ん?
聡平だったっけ?
二人で飲んで、そのまま…押し倒したような。
…あれ?
ハッとして杉野は目を開けた。天井が目に入る。自分の家だ。
ムクリと起き上がり、ボリボリと頭を掻く。
「ふあ…」
大あくびをし、布団から出ようとして、服を着ていないことに気が付いた。
…あれ?
やっぱり良平が来たのは間違いないらしい。
記憶なくすなんて、悔しいことしたなぁ。せっかく…せっかく…
…今日は休みだし、もう一回くらい付き合ってくれないかなぁ?
そんなことを企んで、隣で眠る人間を見た。
…あれ。
何か違和感。
良平ってば、こんなに髪の毛短かったっけ。今日はピアスしてないのね…背中のホクロ、なくなっちゃった?
…ていうか
コレ
良平じゃねーーーよ!!!
「うそっ。…聡平!?」
慌てて揺り起こす。
ん…と小さく呻いて、彼は目を開けた。
良平と同じ黒い瞳。良平より視力の弱い聡平は、目を細めて杉野の顔を凝視した。やがて頭の中で判別できたのか、二、三度瞬きをした。
「あー、…先輩?お早うございます…」
「お…おはよう。」
「何してんすか、こんなとこで……、ってええぇぇえエ!?!」
「ぅおっ!?」
「な…なんで裸!?え…えっ!?」
「そう言うお前もなんで裸…?」
「えっ!?……ハァ?」
自分と杉野を交互に見て、聡平は混乱を表した。とりあえず、布団で自分の体を隠す。
杉野は泣きたくなった。
「じょ…っ状況を整理しよう。」
「う、うん。」
「何故、聡がうちにいる?」
「えっと、昨日、借りてたCDを返しに来ました。」
「何時ごろ?」
「バイト終わってからだから…深夜かなぁ?時計見てなかった…」
それは杉野の記憶とも一致する。
しかし…
「その時間に来たの、良平じゃなかった?」
「いえ、俺だけでしたよ?先輩すごーく酔ってて、一人じゃ寂しいから一緒に飲んでけって言って、俺、……お、れ…」
…お、
思い出した。
昨日の出来事が脳内にすごい勢いでフラッシュバック。
バイト後、CDを返しに行った先の玄関で、杉野がぼやいていた。
「良平がさ、最近会いに来てくれないんだよね…」
聡平はちょっと困ったような顔をしたが、すぐに改めた。
「良平は今、テストと戦っているんです。」
「…うん。知ってる。」
「先輩のために落第させるわけにはいきませんから。」
冷たいともとれる一言に、杉野はガクリとうなだれた。
「きついこと言うなぁ。」
「…。ごめんなさい。」
さすがに悪いと思ったのか、聡平は靴を脱いで杉野の家に上がりこんだ。
「それじゃ、今夜は俺が晩酌に付き合ってあげます。」
「えっ?でも、聡平はテストないの?」
「うちはあと二週間後なんですよ。良平の大学とは時期がずれてるんです。」
「へえ。じゃ、飲もうよ!優しいなぁ、聡平くん!」
先輩は調子いいなぁ、と聡平は苦笑した。
二人で缶ビールを七本あけた。
そろそろ…と思って腕時計を見やる。その手を杉野が握ってきた。
え?と思って顔を上げる。
すると、唇が重なった。
「す…」
触れた後、少し離れて目を見る。まっすぐで整った睫毛に一瞬、魅了された。
こんな真剣な表情、少なくとも聡平は見たことがなかった。
杉野が眼鏡に手をかけた。ゆっくりとした動作で外す。
びくりと身を引くと、角度を変えて、再び唇が重なった。
体温が混ざる。
先輩はキスが上手いのかもしれない…
ちらりとそんなことが脳裏を過ぎった。
生温かい舌が唇を撫でる。勢いで押されて、それを受け入れた。
「…ん…っ」
拒んでみるが、拒みきれない。
甘い誘惑が聡平を支配した。ゆっくりと角度を変えながら何度も重ね合わせる杉野に優しさすら感じた。
「はっ…」
唇が離れた。今度は首筋を這って行く。
「せ、せんぱ…っ」
妙な感覚にドキドキした。体中を弄られ、服が脱がされる。
やめて…それ以上は……!!
「…ッ!」
「良、平…」
小さな呟き声に。
思考が止まった。
「覚えてねぇなぁ〜〜〜。良平が来た、と思ってたもんなぁ。」
杉野はベランダで頭を抱えて空を見ていた。
起きたっきりだんまりを決め込んだ聡平は今、シャワーを浴びている。
記憶があるのは聡平だけなのに、唯一の証人の彼が黙秘したのでは、杉野が真実を知る術はない。
「はぁ…どうしよ。」
深い溜息。
窓を開けて部屋の中から煙草を取り出す。腕を伸ばしたところで聡平が出てくる音がした。
気にせずベランダに戻り、ライターで火をつけて、ふーっと吐いた。
やがて、シャンプーの匂いを纏った聡平が窓を開けた。
杉野は煙草を咥えながら彼を見上げた。
「俺、帰りますね。つっても家じゃないけど。」
「おう…いいぞ。昨日はありがとね。」
「ありがと…?」
「晩酌付き合ってくれたんでしょ。」
「…はい。」
聡平は頷いて遠くの空を見た。妙に晴れ渡っている感じが、気分に合わなかった。
「それから…」
杉野も遠くを見て、煙草をふかした。
「覚えてないけど、悪かった。ごめん。」
聡平は空から目を離し、杉野を見た。
あの時のように、真剣な顔をしている。よく見ればこの人のこういう顔は何度も見てきたのかもしれない。意識していなかっただけで。
「許してくれとは言わないけど…嫌ってもいいよ。」
「…じゃあそうします。」
ハッキリ言い過ぎた。
杉野が恐々と見上げてくる。聡平は苦笑した。
それを見て、杉野も少しだけ口元を緩めた。煙草を摘んで煙を吐きながら、ポリポリと頭を掻く。
聡平は窓から離れた。
「…帰ります。」
「ああ、気をつけて。」
聡平は踵を返し、荷物を取って足早に玄関を出た。
靴を突っかけ、階段を降り、下まで来て上を見上げる。
謝られるとは思わなかった。
良平に黙っててね、とお願いされるか、
お酒に酔ってて覚えてないからなかったことにしてくれ、と見苦しい言い訳をされるかと思っていた。
携帯電話が鳴った。双子の兄からだ。
『聡平?今、ドコ?!』
耳越しの声が、心に痛い。
聡平は携帯電話を握り直して、咳払いをした。足早に駅へと歩き出す。
「えっと…なんで?どうした?」
『数学教えて〜っ!!ってことで早く帰って来い!』
「うそ…今日は用事が。」
『なんでもいいから帰って来い!元気な良ちゃんが泣いてもいいのかっ!』
「…てめ…俺の予定は無視かよ。」
『いいから、教えてください聡平様。神様仏様聡平様。お願いっ!!』
受話器の向こうで手を合わせて拝んでいる良平の姿が目に浮かぶ。
聡平はふっ、と小さく笑みを浮かべて目を閉じた。
***
◇後書き
リクエストありがとうございました。
あひゃ〜〜!なんか、中途半端でごめんなさい…っ
全然性描写がありません( ̄Д ̄;)酔った先輩がそんな流れになるまでと、その後の展開に必死になってしまいました。まだまだ度胸が足りません…(_ _;)
聡平くんは全部覚えてるんでしょうかねぇ?汗
これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m
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