◇良&聡の魂が入れ替わる、杉野くんお預け


【双子の中身】



今日は杉野とデートの日。
一ヶ月前から決めていた、映画館デートの日だ。
映画の上映時間が割と早めだったので、俺は久しぶりに早起きした。

俺はあんまり朝が得意じゃないから、これはかなりキツい。
基本的に目が開かない。
なんとかベッドから這い出て、手探りで部屋のドアを探す。
いて。手が壁に当たって痺れた。
しばらく経つとだいぶ頭もしっかりしてくる。
が、まだ目は開かない。
ふらふらとした手がドアノブを掴んだ。
下げて開けて、外の光に眉がよる。目を閉じてても眩しいものは眩しいのだと再確認。
片目を開けたら欠伸がしたくなって。
その場で「ふぁ〜…」と口を開けた。

と、その時。
階段から誰かが駆け上がってくる音が聞こえてきた。
誰だろう。軽快過ぎる足取りからとりあえず兄貴ではないことは判別できる。
欠伸を終えて口を閉じ、おまけにまた目も閉じた俺に、そいつは正面衝突してきた。

どーん!
ごちッ☆


ってー!!頭打ったぞ、このやろォ!

しかもどう転んだのか俺の方が相手よりも上側になっていた。
ぶつけた箇所を手で押さえながら俺はなんとか起き上がった。
「ってーな…」
文句を言いながら相手を見ると……

「良!ぼぉっと突っ立ってないでよ!」
と叫ぶ、俺がいた。

あ、あれ?


「聡…お前、聡平か?」
「なに寝ぼけてるのさ!見りゃわかるだろ、俺以外に誰が……って、アレ?」
聡平も異変に気付いたらしい。
いくら俺たちが一卵性双生児で見た目そっくりだったとしても。
お互いのことをわからなくなるほど、似てはいない。
小さい頃はともかく、今じゃ髪型にも服の趣味にもアクセサリーにも、違いがある。

おまけに今この時に限定すれば、俺はパジャマで、早起きの聡平はすでに服を着替えて出かける準備をしていたはずだ。
俺は自分の服を見た。
ボーダーのポロシャツにきっちりとしたジーンズ。
ぶつかる直前は目を閉じてたからわからないけど、 明らかに自分の物ではなく、聡平が着ていたものだと想像がつく。

同じことを思っていたのか、俺は俺の腕に思いっきし掴まれた。
「ど、ど、どういうこと!?」
「知らねぇよ…何の冗談?っつか視界がぼやける…」
眠いから?
「め、眼鏡。落ちてる。」
聡平は床に落ちていた眼鏡を拾い上げた。
いや聡平っつーか、それ俺の体?
「え?眼鏡はお前のだろ。」
「だ、だってそれ、俺の体だもん…」

視力悪いよ俺、と情けない声で付け足して、目の前の俺が俺のことを指差した。

な、なんだこれ…


「状況を整理しよう。」

腕を組んで杉野が言った。
「問題はどっちが俺と一緒に映画を見るのかってとこだ。」
「そこじゃねーだろ問題は!!」
すかさず弱めの力で鋭いパンチを杉野の顔にお見舞いしてやる。
調子乗るのも大概にしろ!
「ってー…さすが良平。間違いない。」
杉野は殴られた箇所を一生懸命さすっていた。
「間髪入れないツッコミに惚れ惚れするな。」
「んっとに緊迫感ねーな!俺達にとっては一大事なんだよ!」
「俺にとっても一大事だぞ?」
「…どうせ、映画を見れないとか今日のデートがオシャカだとかそんなとこだろ。」
「んー、後半なんか惜しいね。でも違う。」
杉野は得意げに、そして少し寂しそうに微笑んだ。
聡平は黙って俺達のやり取りを見ている。

服はお互いのものをそのまま着ていた。
突然、いつどこで元に戻るかわからないから、という聡平の判断である。
相変わらず頭いーよなー。
で、ところでどうやって戻るんだ?
いつ、何をすればいいの?

さすがの聡平もこの質問には困ったように口を閉ざした。

問題はそこなんだぞ、杉野。


杉野は俺達二人を交互に見やった。
考えるフリでもしてるのか、腕を組んだりしている。
やがて口を開いたのは意外と的を得ていた。フリじゃなかったらしい。
「きっかけは、ぶつかったところだろ?」
「うん。」
「そうです。」
「じゃ、もう一度ぶつかってみればいいんじゃないか。ドーンって。」
言ってることは単純だが、俺も聡平も、それしかないと思っていた。
「やったんですよ、家で。」
「あ、やっぱ?」
「でも戻らなかったんです。」
聡平が成り行きを説明した。
そのままもう一度、二人で頭をぶつけてみたのだ。
お陰でたんこぶが二個もできて、痛いったらない。
「恭平さんや明美ちゃんには話したの?」
「言ってないです。」
「あら…。じゃ、なんで俺に?あ、デートがあったからか。」
「…。」
聡平は黙って俺を見た。
う…、なんだよ、俺のせいかよ。

「違うよ。お前なら見分けてくれると思ったんだよ。俺と聡平を。」

杉野が目を輝かせて俺を見た。
いや、正確には聡平を見たのだろう。
俺の体は隣で俺を変な目付きで見ている。
やめろ聡平。俺、思った以上に目付き悪いのかも…

「あ…やばい。」
杉野が言った。
「何が?」
「やばい。やっぱ俺、良平の中身に惚れてるんだ。再確認した。」
「は?」
「見た目が聡平だろうと何だろうと、良平が言うとすっげぇ、胸に来る。」
「……は?」
俺は思わず後ずさりした。
と言ってもファミレスの奥の背もたれが壁にくっついている席だから、大して後ろには下がれない。
「やばい。良平、大好き。めっちゃ好き。好き過ぎる!!」
「ちょ、ちょ…うるせぇよ!」
俺は慌てて反論したが、顔が熱くなるのを止められない。
きっと真っ赤だ。恥ずかしい…!

俺の隣では、俺とは逆に、聡平が真っ青になっていた。
正確に言うと真っ青になっているのは俺の顔だ。
杉野がこのままエスカレートしていったら、聡平から見れば杉野に襲われるのはあいつの体だ。
魂は俺でも、体は聡平である。
他人事ではない。
「や、やめてください!そういうセクハラ発言は…!」
我慢できなくなったのか、聡平が言った。
「なんで?聡平には関係ないよ。迷惑もかけないよ。」
さらっと言い放つ杉野は、もはやどうやって俺と二人きりになろうか考えている顔付きである。うわー、やばいよ、この人。

「コレ、中身は良平でも体は俺のです!変なことしないでください!」
「いーじゃん、ちょっとくらい貸してあげてよ。」
「全ッ然これっぽっちも良くありません!!いかがわしいコトしか考えてない先輩には絶対お貸しできませんッ!」
「いかがわしいってなんだよ…」
「何でもいいからやめてください。元に戻るまでは手を出さないでください!」

聡平が必死だ。全身全霊をかけて杉野に怒鳴ってる。
…珍しい。ちょっと面白いぞ。

その気迫に押されたのか、杉野は拗ねるように口を尖らせた。
「ちぇ。わかったよぉ。」
おや、諦めちゃうの?

と思ったのも束の間。
杉野は俺の頭を掴み、引き寄せた。肩に腕を回してぐいっと。
「じゃ、キスだけ…」
ひぇ?!
悲鳴を上げる暇さえなかった。
俺は驚いて目を見開いたが、その時には既に杉野の唇がめちゃくちゃ目の前にあったのだ。
「や、やめてくれーーーー!!!」
この世の終わりだと言わんばかりの形相で聡平が俺に掴みかかる。
いてッ!おい、掴み過ぎ…!

すると杉野がいともあっさり、手を離した。
俺はバランスを崩して聡平の方向へ。
そのまま勢いよく…

どーん!
ゴチッ★


ってー!本日二度目!!
ぼーっとしてたところで、聡平の石頭に俺の石頭がごっつんこ。


次に目を開けた時、俺は聡平の横にいた。
聡平の向こうには杉野が真剣な顔をして俺達を見ていた。
「どう、どう?戻った??」
杉野は心配そうに言いながら、俺を見つめた。
言葉を失う。
目の前にいるのは、さっきまで俺が入っていた聡平の体だ。
聡平は二度目の激突と、杉野にキスをされそうになったショックで目を回していた。

「…良平?」
「…杉野。」
俺はなんだか安心しちゃって、思わず口元を緩ませた。
よくわかんないけど、戻ったみたい。

杉野はとっても嬉しそうな顔をして、ファミレスという公衆の面前であるにも関わらず、テーブル越しに俺を引き寄せてキスをした。
一瞬だけ、唇が重なる。
「やっぱ、心も体も良平がいいや。良かった!」

俺はまた、真っ赤になる。
聡平は俺と杉野の間に挟まって、いつまで目が回っているフリをしていたらいいのか、本気で悩んでいたそうな。


***


◇後書き

リクエストありがとうございました。

魂入れ替わりネタです★良平くん視点で書いてみました。
長さの都合で半日足らずで元に戻ってしまいましたが、これが何日も続くようだったら杉野くんが本気で泣いてたかもしれませんね。危なかったね〜杉野くん(*^-^*)
杉、良、聡にいつも愛を注いでくださるエイルさんに捧げます。

これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m


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