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◇停電、良平くんが聡平くんを押し倒す、孝平さんに見られる
夕方から降り始めた雨は、地面を叩くように激しかった。
良平は傘代わりにバッグを頭の上に担いで家への道を走っていた。
その後ろを追いかけるのは制服姿の明美。
持っていた手提げ袋を落としてしまい、慌てて引き返した。
良平も振り返る。
「何やってんだよ。早く!」
「待って…落とした!」
二人とも、駅から走り出して5分も経っていないのに既に服が水を含んでいた。
良平は走って戻ってきた明美の両手の持ち物を全て取り上げた。
「ったく、お前先走れ。」
「寒いよー。やっぱ傘買おうよっ。」
「走れるっつったのお前だろ!つべこべ言わねぇで行け!」
「ふぁ〜い。」
明美は腕を抱くようにして寒さに耐えながら走り出した。
その後を良平が追う。
二人は転がり込むように家にたどり着いた。
「はぁ…っ、つめてーっ!!」
「濡れたぁ〜ッ。兄さん、タオル〜ッ。」
ドタバタと騒がしく靴を脱ぐ。二人の服や髪の毛からポタポタと滴が落ちた。
バスタオルを持って恭平が駆けつけた。
「わぁすごい。大丈夫?」
恭平は目を丸くして驚き、明美の頭にタオルをかけた。もう一枚は、良平に手渡す。
「ありがと。」
「傘は?持ってないなら買えば良かったのに。」
「こんな土砂降りになるとは思わなくて。」
「はっくしょーん!」
身震いをした明美は大きなくしゃみをした。ずずっと鼻をすすって、タオルで顔を拭く。
良平はその明美を押しのけて廊下を進んだ。
洗面所に入って濡れたシャツを頭から脱いだ。ジーパンはここで脱ぐわけには行かないので膝のあたりまで捲り上げる。靴下は脱ぎ捨てた。
「明美!」
「ふぁい?」
恭平と一緒についてきた妹に、良平は風呂場を指差した。
「先にシャワー。ソッコーで浴びな。」
「いいの?」
「さみぃんだよ、早くしろ。」
タオルで体を包み、良平は首を振った。水の滴が髪の毛から頬や肩を伝って転がり落ちる。
明美は頷いて、素早くシャワー室の扉を締めた。
「あったかい飲み物作ってあげる。」
「うん。」
良平は頷いて、着替えるために二階へ上がった。
部屋の電気がついていて、珍しく聡平がいた。机に向かってシャーペンを走らせていた。
部屋に良平が入ってきたことで顔を上げる。びしょびしょに濡れている上、半裸なことから状況を察することができた。
「おかえり。」
「ただいま。」
「だいぶ濡れたな。」
「うん。」
良平は返事もそこそこに、タンスを開けて着替え始めた。
聡平は再び机に目を戻す。
「何してんの?」
「勉強。来週テストなんだ。」
「珍しいね。お前がこんな時間に家にいるなんてさ。」
時計は午後の6時を少し回った位置をさしていた。
聡平は肩をすくめてテキストを捲った。ずれた眼鏡を整える。
「そぉかな。意識してなかった。」
「バイトは?」
「休み。」
良平がタンスを締めた。脱いだジーパンを放り投げる。
「さみぃ〜ッ。」
ぶつぶつ言いながら着替える良平を、聡平はちらりと盗み見た。
眼鏡越しに目を細めて、視線をさまよわせる。
「良平。」
「ん?」
「背中に…あるよ。」
「何が?」
「…キスマーク。」
「っ!?」
良平は、驚いた弾みにタンスに頭をぶつけて崩れ落ちた。
恭平はホットココアを5つのマグカップに注いだ。
兄弟4人と、父の分だ。
平日だと言うのに家族が全員揃っていることが妙に嬉しかった。
二階から良平が降りてきた。一緒に聡平も部屋から出てきたようだ。ココアを入れ終えたカップを2つ取って、1つを良平に渡した。
二人してソファーに座る。
恭平は孝平の部屋をノックした。中に入り、話す声が聞こえた。
「あれ?親父いるの。」
「みたい。俺より早く帰ってきてた。」
「ふーん…。」
良平は興味なさそうに頷いた。ココアに目を移し、息を吹きかける。白い湯気が踊った。
聡平は窓の外を眺めた。
「それにしてもすごい雨だな。」
雨粒が地面を打つ音が室内にいる人間にまで聞こえてくる。外は真っ暗であった。
良平はマグカップに口をつけた。
つられて聡平も、ココアをすする。
その時だった。
窓の外がピカッと一瞬だけ光り、庭が見えたのだ。
「あ。」
聡平が人差し指を窓に向けた。
その途端、照明が落ちた。
「わぁ!?」
「なんだ?停電?!」
聡平は慌ててカップを机に置いた。もっとも、真っ暗なのでほぼ勘で動いた。隣で良平も立ち上がった気がした。
「きゃーっ!」
風呂場で明美が叫んでいる。
反射的に良平が声の方向へ動き出した気がしたので、聡平は動かなかった。
「あ、いて。」
「良?」
「つまづいた…なんだこれ。」
暗闇でもたついている間に。
どがががーん!!!
雷の音がした。
と、同時にあちこちで聞こえる物の落ちる音や驚いた悲鳴。
聡平は隣にいた良平にしがみつかれて床に頭をぶつけた。
ガィン!!!
「いって!!」
「………びっ…くりしたぁ!!」
声を裏返している。
聡平はぶつけた頭を押さえてもがいた。
「聡、大丈夫?」
「いてぇ〜〜!」
「ごめん。立てる?…見えないけど。」
良平が手探りで起き上がろうともがいた。自分の下で聡平がくの字になって痛みに耐えているのがわかる。
「っつ〜…最近頭打ちすぎ…。いいから明美を。っていうか兄貴は?」
「あ。兄貴!どこにいる!大丈夫?」
良平が叫ぶと、隣の部屋から声がした。
「大丈夫だよ〜。」
なんとも切迫感のない返事である。
二人は思わず脱力した。
「今、父さんが明かり持ってそっちに行くから。」
「え?」
言うが早いか、懐中電灯の黄色い光が二人を照らした。
眩しくて目をしかめる。
光を持った持ち主は、興味深い様子で二人に近付き、しゃがみこんだ。
良平は身構えて、辛うじて見える孝平の顔を睨んだ。
「なんだよっ。」
彼は笑った。
顔を懐中電灯で下から照らされているからかなり不気味だった。
「押し倒すなら、もっと優しくしなきゃだぞ、良平。」
「あ?」
「相手が頭を打ってるじゃないか。」
「…?……。」
ハッ。
良平と聡平は同時にひらめき、同時に叫んだ。
『違う!!!』
するとタイミング良く照明が戻った。
当たりが正常に戻り始める。
良平は聡平の上から即座にどいて、聡平は頭を押さえてソファーにすがった。
孝平は懐中電灯の光を消し、笑みを含んだまま自分の部屋を覗いた。無駄に動かず手近なベッドに腰掛けていた恭平は不思議な顔をし、風呂場の明美は、何事もなかったかのようにシャワーを続けた。
その日はしばらく雷と豪雨が続き、各地で落雷による停電が相次いだらしい。
***
◇後書き
リクエストありがとうございました。
停電リクエスト、いかがでしたでしょうか(^^;)押し倒すというよりは、もつれて事故ったという方が正しいかもしれません(汗)孝平さんがどうして押し倒したのが良平だと判別できたのかは、また別の問題ということで…☆
これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m
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