![]()
◇イギリス仕込のテクで泰史×聡平
イギリスに留学していた時の話。
聡平はデジカメを片手に大学の敷地内を彷徨いていた。
講義が休みの一コマを利用して、一人で散歩を楽しんでいたのだ。
広場の中の池に太陽の光が反射して眩しいほど天気が良かった。
良平たちのところはどんなかな。
そんなことを思いながら、良いアングルを探してカメラを構えた。
その時、液晶画面の端に言い争う男女の姿が入り込んだ。
自然と二人に目が行き、フレームから外れる距離まで移動する。
ふと、その男女のうちの男の方に見覚えがあることに気付いた。
「あれ…?泰史じゃないか。」
呟いて、目を凝らした。
池を挟んでほぼ反対側に位置しているから数メートル距離がある。
ベンチに座った金髪の女性は小柄で、泰史の方が縦も横も一回り以上大きく見えた。
…実際はそこまで大きな差はないけれど。
泰史とは講義の中で知り合った。見た目は明らかに東洋系なのに、話す英語が流暢で驚いた。
聞けば家庭の事情で物心ついた頃からイギリスに住んでいるらしい。
イギリスでの生活に不慣れな聡平の世話をよくしてくれる、親切な青年だった。
見ていると彼のピンチのようなので、助け船を出そうかと考えた。
しかし痴話喧嘩に第三者が口を挟むものではないことはわかっている。
聡平はしばしぼんやりと、何もできずに二人の光景を眺めていた。
泰史が何か言う。
すると女は二倍も三倍もたくさん言い返す。
困り果てた泰史は身振り手振りを加えるが、女はそれすらも跳ね退けて、泣きながら喚いた。
あ〜あ…。
聡平が思わず目を反らそうとした、その瞬間。
泰史は彼女のことをがばっと抱きしめた。
「!!」
落としそうになったカメラを掴み直し、ニヤ付く口元を隠した。
初めは暴れていた彼女が、泰史の腕の中で大人しくなる。
彼女の腕がヤスシの背中に回され、ぎゅうっと抱擁。
聡平はそこまで見ると、その場をそそくさと退散した。
金髪の彼女、可愛かったな。明日にでもからかってやろう。
次の日。
「昨日見てたでしょ〜、聡平。」
「…えっ?」
教授を待つ講義室の中で、中央前寄りに座った聡平に、泰史が英語で話しかけてきた。
思わずペンを取り落とす。
「昨日、池のところで俺たちのこと見てたでしょ〜?」
「…知ってたの?」
「途中で。恥ずかしくなったから抱きしめちゃった。」
「な〜んだ。からかってやろうと思ってたのに。」
聡平も負けじと英語で切り返し、残念、と肩をすくめた。
「可愛い子だったな。」
「いいでしょ?でももう別れたいんだ。」
「なんで?」
「最近喧嘩ばっかり。」
「ああ。」
アレね、と昨日の光景を思い出す。
「それに、可愛いけどちょっと疲れたの。すぐ甘えてくるし。」
「あ〜、わからなくもないけど。頼りにされてるってことだろ。」
「聡平は、頼りにされると嬉しい?」
「そりゃ…うん。嬉しいよ。」
「優しいんだなぁ。」
泰史は目を細めて微笑んで聡平を見た。
つられて聡平も目を細める。
それを見て、泰史はまじまじと聡平を見つめた。体を乗り出して、顔を近付ける。
反射的に聡平は仰け反った。
「な、何?」
「聡平、メガネ外してみて。」
「え?」
「なんだか、エリーゼを思い出す。目が素敵だね。」
「エリーゼ?」
誰だよ、それは。
聡平は眉をしかめて泰史を見た。
彼の瞳は聡平の心の中を覗き込むようにまっすぐで、少し戸惑う。
「とってもプリティー。世界のどこを探したって、君ほどカワイイ目を持った人はいないよ。」
泰史は囁いて、聡平の背中に腕を伸ばしてぎゅっと抱き締めた。
前日、池のほとりで彼女を抱き締めた時と同じように。
生憎、女性だったら心臓を高鳴らせてコロリと恋に堕ちたかもしれないが、幸か不幸か、抱き締められたのは聡平である。
男に抱き締められる趣味は、全て双子の兄に受け渡して生まれてきた。
「甘い言葉を囁いてくれてるところ悪いんだけど、」
抱き締められたまま、呆れたように、冷たく言う。
「痛いから離して。エリーゼが泣くよ。」
「抱き締め甲斐がないなぁ!ノって来いよ〜!」
「無理だね。」
泰史は泣く泣く聡平から腕を離した。
服を整えて聡平が言う。
「なぁ、エリーゼって誰?」
「ノー!教えてあげないっ。あ、教授が来た。」
教室のドアを開けて入って来た比較的若い教授から隠れるように、泰史は聡平の隣から席を移動した。
後から聞いたことだが、エリーゼというのは泰史の目に留まったカワイイものの総称らしい。
日本に帰る際付いてきた泰史が、聡平と同じ顔をして裸眼の良平に妙に求愛活動をしたことは、周知の事実である。
***
◇後書き
リクエストありがとうございました。
イギリス仕込みのテクって…どんなのですか?!?!(◎д◎;)イメージ的にはストレートに求愛表現をしそうだなと…。日本人はまわりくどいと言いますからね。変化球といいますか。それにしてもエリーゼって…(悩)
これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m
+戻る+