◇良平くんの恭平くんに対するブラコン話☆


【兄弟】



中学生時代の良平は、コンプレックスの固まりだった。
母親がいない、父親に愛されない、目つきが悪い、喧嘩っ早い、女にモテない。
さらに秀才でサッカー部エースの双子の弟・聡平と、常に比較されることを余儀なくされていた。
「聡平を見習いなさい」という言葉は虫酸が走るほど嫌いな言葉だった。

そもそも聡平側にも問題があった、と良平は思っている。
唯一の理解者であるはずの聡平は、ある時期を境に、狂ったみたいに机に向かい、自ら優等生であるために努力をするようになった。
授業以外は部活でスポーツに励み、爽やかな優等生に成長していく聡平に反比例するように、良平はどうしようもなく落ちぶれていく。

もちろん、聡平にも言い分がある。
双子の兄と同じく、「良平のようになってはならない」という比較の言葉が、この世で一番嫌いだった。
違ったのは、反発する気がなかったことだ。
言いたい奴には言わせておけばいいんだと、割り切ることができるくらいの自信も人望も聡平にはあった。


親も教師も友達も、とにかく全員が嫌いだった。
かけられる言葉は妙にわかったふりをする無遠慮なものか、説教くさいものばかりだった。

思慮深い兄も、この時期ばかりはやはり他と同じ非難めいた目で良平を見ていた。
「良…。お前最近、ちゃんと食べてるの。」

口から出るのは心配することばかりだった。
ちゃんと寝てるか、怪我は直ったか、授業に出なさい、etc...

「少し痩せてきた。」
「…っせーな。どうでもいいだろ。」
髪に触れた兄の手を、わざと乱暴に振り払った。
「夜くらいは毎日、帰ってこいよ。」
「なんで。」
「なんでって…」
「聡平がいるからいいだろ。わざわざ俺がいることねぇじゃん。」
「…。」

兄の顔が見れなかった。

当時、高校生だった恭平は家事や弟妹の世話、父親とのコミュニケーションを一手に担って、文字通り苦労していた。
それがわかっているだけに良平としても兄にだけは遠慮みたいなものがあったのだが。
心とは裏腹に態度には遠慮など微塵も感じられない。

黙った恭平はやがて、小さな声で囁いた。
「聡平を見てたって、良平が元気でいるかなんてわからないだろ。」

小さいが強い声音に、良平は顔を上げた。
目が合う。
睨むように自分を非難する瞳が痛かった。
耐えきれず、良平はすぐに視線を反らした。

「…関係ねぇよ。」
「あるよ。」
「…ねぇよ!俺はこの家にいたって何もできねぇし、何かする気もねぇ!かといって…行くとこもねぇから、たまたまここにいるだけだ!」
「…どうして…」
「それに、俺がいなくたって聡平が全部やってくれるだろ。あいつはイイ子チャンだからな!」
「良平にしかできないこともある!」
「それって、なんだよ?!ねぇよそんなもんは…中学卒業したら、目の前から消えてやるよ!邪魔なだけだからなあ!!」

バンッ、と机を叩いて舌打ちをする。
イライラする気持ちを押さえられない。
兄のお節介がどうしようもなく煩わしい。

目の端に辛うじて写る恭平は、動かなかった。
反論もない。
泣いているかもしれなかった。

長い沈黙………


それを破ったのは、兄・恭平の静かな言葉だった。

「俺には、弟が二人いるんだよ……」

良平は答えない。

「どちらかがいなくなるなんて、やだ……」

最後は消え入るように言葉を紡ぎ、恭平は手の甲を額に当てた。
涙を拭ったのかもしれなかったが、良平には見えていない。
「たまたまなんかじゃない…必要なんだよ、俺にも、聡平にも、明美にも。父さんや、母さんにだって……」
「…。」
「どうしてそんな悲しいこと……」

恭平は鼻をすすって、言葉を殺した。
必死に息を止めていないと嗚咽が漏れてしまいそうだった。

肩を震わせて静かに涙を流す兄を、良平は振り向いて、ぼんやりと眺めていた。
恭平が泣くのを見たのは二度目だ。
意識が離脱して、まるで第三の立場から見ているような気分になる。

一生かなうことはないだろう、この人には…


ふとそんな想いが意識によぎった。
その途端、良平の両の瞳から熱い滴が溢れ、止めどなく零れ落ちたのだった。


***


◇後書き

リクエストありがとうございました。

悩みに悩まされたブラコン話…でした!!普段からちょこちょことお兄ちゃん贔屓なところを小出ししてただけに、それをテーマにすると、話がまとまらなくて困りました。。。良平くんはいろんな意味で、恭平くんに頭が上がらないので、いつまでたってもブラザーコンプレックスだけは解消できないのでしょうね…☆(希望もこめて)

これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m


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