◇寝惚けた恭平くんが聡平くんをパパさんと間違えてキスしてしまう


【夢見心地】



恭平は、彼にしては珍しく、普段なら恥ずかしくて決して口には出せないような、甘い夢を見ていた。
春の陽気に誘われて、昼間の誰もいない家の一室で眠っている。
「ん、ん〜……」
小さく呻いて、寝返りをうっても、それに気付く者は誰もいない。
心地良い風が、部屋の中を撫でた。
ふわふわした気持ちのいい昼下がりだった。

そのとき、ドアを開ける者がいた。
佐久間聡平は兄に似た端整な顔を澄ませたまま、眠る兄のそばに寄った。
「兄貴?寝てるの。」
声をかけてみるが、よほど良い夢を見ているのか、恭平はご機嫌な微笑みを浮かべたまま返事をしない。
聡平は小さく嘆息し、歩いていって窓を閉めた。
風が、止む。

聡平は腕にはめた時計を見た。
午後の3時半。
「少し早すぎたなぁ…どこかで暇でもつぶしてくればよかった。」
この日、聡平は授業の休講になった時間をもてあまし、いつもよりずいぶん早くに帰宅したのだった。

当然、知らされていない恭平はぐっすり昼寝を貪っているという有様だし、この様子だと夕飯の準備もまだであろう。
玄関にはこの兄の分の靴しかなかったから、他の兄妹が帰宅していないのは明白だった。

弟が困り果てた表情を浮かべているとは露知らず、恭平が首をかしげるようにして枕に沈む。
「ぅん…」
「…。」
聡平は黙って兄の寝顔を観察した。

見てわかるほど、恭平が幸せそうな寝顔を見せることは珍しい。
頬をピンクに染めて、まるで子供みたいだ。
「ふっ…。」
聡平は目を細め、口元に手を当てた。
恭平がまたもや寝返りを打つためにもぞもぞと蠢く。
ふと心配になり、覗き込むために近寄ってみる。

首筋に、赤い、虫に噛まれたような跡を見つけた。
「あれ…?」
兄のことを悪く言うつもりはないが、最近の彼には目に見えてわかるほどの相手はいないはずだ。
ここ数年、それこそ大学を卒業してからの兄に彼女がいるという話を聞いたことがない。
もちろん、聡平は恭平の秘密の相手のことは知らないし、まさかその相手が男で、実の父であることなど予想にも及ばない。

「兄貴もやることやってんな……」

あきれる様な、喜ぶような、半ば弾んだ声で言ってその場を離れようとする。
すると恭平がゆっくりと目を開けた。
「あ、兄貴?」
よこしまなことを考えていた自分がひどく恥ずかしく感じ、聡平の声は思わず裏返った。
恭平は普段の半分くらいの開眼で、弟の瞳を捕らえた。
「あ…おかえり…」
満面の笑顔。極上の微笑みだった。
「ただいま。まだ寝てていいよ…ごめんね。」
聡平は後ろめたさも相重なって、なるべく感情を抑えて言った。
「うん…」
そうとは知らず、兄は小さくうなずいて布団の中から腕を出した。
スポーツをしている聡平とは一回りも二回りも細そうな、恭平の腕。
それが聡平の首の裏を捕らえた。
「兄貴?ちょ…」
弱い力で引き寄せられる。
反抗するにも儚いほどの力だったので、聡平は抗うことをしなかった。
「ちょっと…何?」
聡平の問いに答えることなどなく、恭平は目を閉じた。

また寝入ったのか…

と思ったのも束の間、恭平は今までとは違った強い力で聡平にしがみつくように、唇をねだった。
両腕で聡平の体ごと引き寄せる。
吸い付いた唇は、眠っていたこともあり、思ったよりも冷たかった。
「ん…っ」
遠慮がちに、舌が触れた。
恭平は寝ぼけているとはいえ、本気のようだ。

聡平はいくらなんでも耐え切れず、恭平の腕をはがすように体を離した。
「ぷはっ……兄貴!!寝ぼけてるからって…」
叱ってやろうと恭平を睨む。
が、当の本人は再び楽しい夢の中へ堕ちているようで、何事もなかったかのような安らかな寝顔を聡平へと向けていた。

「……この男……」

聡平は無意識に舌打ちし、口元をぬぐった。
拒否しなければ、舌を使ったディープな口付けに変わっていたかもしれない。
「一体、誰と間違えてんだよ…、まったく。」

聡平は、このことは自分一人の胸にとどめておこう、と堅く決意したのだった。


***


◇後書き

リクエストありがとうございました。

ぼんやり兄・恭平くんと、クールな弟・聡平くんのキス・シーンでした(^^;ゞ 聡平くんは兄の相手が女であることをこれっぽっちも疑っていない様子です。罪な兄貴ですよねえ…(笑)

これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m


+戻る+