◇清二くん+明美ちゃん+恭平くん!清二くん嫉妬☆


【今井清二の目下の悩み】



今井清二、18歳。
花盛りの高校生だが、学業の成績は悪く、顔がまあまあイイのと体育がそこそこできるという以外は、特に取り得もなく、目立ちもしない少年である。それをコンプレックスに感じているどころかどちらかといえば開き直っているので、そういう点では潔い性格の持ち主だった。
そんな彼が、体操部の元部長と付き合うことになった、というニュースはセンセーショナルに学内に広まった。
他人から見ると、それだけ接点がなく、友人関係にも格差があり、まるで釣り合いのとれないカップルだったからだ。
付き合い始めてこの方、二人への話題はといえば、「今井はどうやってあの佐久間明美をおとしたのか」と、「佐久間はどうして今井を選んだのか」であった。

そんな今井清二の目下の悩みは、輝く彼女のブラコンっぷりであった。

彼女曰く、大好きな兄は彼女にとって両親以上の存在であるらしい。その勢いはただのブラコンには止まらない。服や音楽の趣味までが兄の好みに傾倒している、筋金入りのお兄ちゃん子なのである。

清二の得意な体育祭に、明美の兄の聡平が顔を出した。
卒業しても部の後輩の応援にくる律儀な彼は、清二を見つけて声をかけた。
「よっ、頑張ってるな。」
長年クラスの学級委員を務めてきた聡平は教師陣に対しても顔が広い。ちゃっかり日除け付のOB席におさまりながら、清二に向かって手を振っていた。
「聡平先輩。何してるんですか、明美の応援?」
「明美はついでかな。サッカー部の後輩に招待されたんだよね。なつかしくて嬉しくなってくるよ。」
聡平は目を細めてグラウンドを見渡した。

明美の兄は、聡平を含めて三人いる。
他の兄たちのことは話を聞いたことがある程度なので、清二にとって目の前の寡黙な三男は唯一話のできる身近な存在と言っていい。

清二は聡平の隣に座ってキャップのついた帽子を深くかぶっている人物にちらりと目をやった。
その視線に気付いて、聡平が彼を紹介した。
「こちら、兄の恭平。兄貴、こいつは明美の彼氏の今井清二だよ。」
清二は恭平の名前を聞いて慌てて頭を下げた。
聡平に声をかけられて振り向いた恭平は、帽子を取り、屈託のない笑顔で清二に笑いかけた。
「こんにちは。初めまして、明美がお世話になっています。」
丁寧な挨拶。
清二はそんな挨拶に答えることも忘れて、恭平の顔を穴の開くほど見つめた。
どことなく明美と似たような雰囲気を醸し出す目鼻立ちに、彼女とはかけ離れた優しさと奥深さが足されている。全体が整っていて、トゲがない。

「なあ清二、お前何の競技に出るの?」
聡平の声でハッと我に返った。
女子に受ける顔は確実に聡平の方だろうが、恭平にはそれとは違った何かを感じる、と清二は思った。
何かの正体は、清二にはわからない。
ただ、嫌いなものではないことは確かだと思う。
「うーんと、大ムカデと、騎馬戦です。あと最後のリレー。」
「勝てよ。」
聡平は明るく笑ってプログラムを兄へと手渡した。
「あけちゃんは大ムカデと、借り物競争とリレーですよ。」
「知ってる。昨日、散々わめいてたから。な、兄貴。」
「うん。優勝するって意気込んでたな。」
「気合入れ過ぎて怪我しなきゃいいけど。つ〜か負けたら罰ゲームやらせようぜ。」
「こらこら…」
聡平は胸の前で拳と手の平をパンと合わせた。恭平はそれに笑ったものの、本気で止める仕草はない。

清二はその場を離れ、応援席に戻った。
旗を振って競技に夢中になっている明美の腕を引き、人波をかわける。
「せ、清二?どうしたの、痛いよぉ。」
「おま…」

わぁっ

清二が口を開いたのと同時にグラウンド全体が浮き足立った歓声を上げた。
二人は競技の行方が気になりつつも、目を合わせた。明美は黙って清二の次の言葉に耳を傾けている。
清二は声のボリュームを少し上げて、言った。
「お前の、兄貴が、来てるぜ。」
「ん〜?…あ、どうせ聡ちゃんでしょ。」
「違うよ。いや、聡平先輩もだけど、一番上の。ほら…」
「えっ……恭平兄さんも来てるの?!」
明美は大きな瞳を見開いて、手に持っていた旗を嬉しそうに横に振った。
「どこ?どこにいるの?」
「あそこのOB席…」
清二の言い終わるのを待たず、明美はさっさと走り出した。グラウンドをぐるーっと半周し、数人の教師の横を突っ切って、OB席に乗り込んでいる。
清二は小さくなった明美の背中を追い、彼女が兄の背中に抱きついて驚かせたところまでを見届けた。
無邪気に喜ぶ様子から、本当に心から好きなんだろうな、と思い知る。

それから清二は、しばらく明美の兄たちのことを忘れていた。
持ち前の負けん気の強さと体格の良さで、騎馬戦では大活躍をおさめた。白い体操着が泥に汚れ、引っ張られて伸びるのも、互いに健闘をした証である。
中学の時は陸上部だった実績もあり、走るのも校内で10番以内に速い猛者である。清二の注目度はこの日一番に盛り上がるわけで、本人は自覚していないが、毎日が体育祭だったならば彼氏にしたい候補ナンバー5あたりに上り詰めることができるだろうと思われる。
清二自身も、例えば明美の元彼、学年一の秀才クンを負かすことができるのはこの日だけだと信じていた。

体育祭が終わり、制服に着替えたところで清二は明美を帰り道に誘った。
クラスは優勝したし、清二が一番でバトンをゴールに運んだ時は明美も飛び跳ねて喜んでいた。
いいムードで、二人並んで帰れるはずだったのだが……

「今日ね、にい…えっと、恭平兄さんと聡平兄さんも帰り道一緒でいいかなあ?」

明美は邪気のない笑顔で、開口一番、清二にとても残酷なことを言った。
一瞬脳内がスパークして、清二は後ろに引っ張られそうになった。
どうにか平静を装って、明美に向き直る。
「な、なんで?お兄さんたち、まだいるの?」
「うん。聡ちゃんがね、サッカー部の飲み会パスするって言って。」
「ふ、ふ〜ん?」

だめだ、俺。声が震えてるぞ。

「それに兄さん…というか聡ちゃんが、清二と話したいって言ってるの。本当は明美もそういうの、恥ずかしいから嫌なんだけど。せっかくだし、いいでしょ?」
「う、う〜ん…。」
清二は返事を渋って考えた。
明美と一緒に帰りたい。
すると彼女の兄たちがくっついてくる。
兄たちを拒めば、万が一に明美は兄の元へと行ってしまうかもしれない。
仮に清二の手元に残ってくれたとしても、兄たちを拒んだという心の溝は残ったまま、二人の間にくすぶることになるだろう。

結局、清二には頷くしか残された道がなかった。

四人で歩く帰り道。
肩身の狭い思いをしながら歩いていた清二に、恭平が声をかけた。
「明美、清二くんに迷惑かけてない?」
「えっ?あ、いやそんな、特には…」
「時々わがままが過ぎるだろうから、その時は遠慮せずに叱ってやってね。俺が言っても、全然聞かなくて。」
恭平は苦笑して、明美の背中に目をやった。

その視線は優しい母そのもので、それでいて父親のように力強いものがあった。
横では聡平ともう一人の兄が平行して歩いていて、きっとこの長兄は少し離れたところから妹のことを眺めているのだろう。
誰かがそばにいて、その優しさに包まれていると感じられることほど居心地のいいものはない。


今井清二18歳の、目下の悩みは、輝く彼女のブラコンっぷり。

かつ、彼女の兄たちのシスコンっぷりだ。

前途多難だな、と清二は恨めしそうな上目遣いを、佐久間恭平へと向けた。


***


◇後書き

リクエストありがとうございました。

体育祭の帰り道、彼氏/彼女と帰ろうとしている時に、その相手の父兄さんが一緒だったら、気まずいことこの上ないですよね…。ちょっと青春をイメージして書きました。友達を超えることは容易くとも、家族以上になるにはちょっと大変ですよね。清二くんの運命や、いかに!
恭平くん、貫禄あり過ぎでなんかイヤです(笑)

これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m


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