![]()
◇杉×良のHを見てしまう聡平くん
聡平は、予定より早い夜の8時に、無言で帰宅した。
玄関に二足の靴があるのを見て、ふと顔をしかめた。
良平が一人で留守番をしているはずの家に、もう一足、男物の靴があるということは、言わずもがなその相手は予測できる。
聡平は気配を探るように、耳からイヤホンを外した。しかしリビングからは物音が何も聞こえないので、二人は部屋にいるものだと思われた。
いつもいるはずの兄の恭平は沖田という友人の家に出かけていて、それだけで家の中は冷ややかに静まり返っているように感じる。
聡平はなんとなく薄気味悪く思い、急いで靴を脱いだ。
噛んでいたガムをティッシュにくるんでゴミ箱に捨て、二階への階段を上がる。
その時、部屋の中からかすかな息遣いが聞こえたような気がして、これはマズイ、と嫌な予感が背筋を走った。
同じ遺伝子を持った相棒が、この中で誰といるかなんて、明白だ。さらにそのもう一人と、一体何をしているかといえば、考えなくてもわかる。
一階で物音がひとつもしなかったのがその証拠だ。
一瞬、引き返そうかと思ったが、せめて鞄を置くだけでもしたい、と思い直した。
ここは良平の部屋であると同時に、聡平の部屋でもあるのだから。
静かにドアノブを回し、ゆっくりと押す。
中は薄暗くて、いよいよ嫌な予感は強くなった。
ここで良平の艶っぽい喘ぎ声が飛び込んできたら、聡平は一目散に逃げ出したに違いない。
しかし、第一声に聞こえてきたのは予想に反したものだった。
「てめっ、離せよ…!」
いかにも不機嫌そうな良平の声。
ばさっと布団のようなものが擦れる音。
相手の男…杉野拓巳の低い声が、良平に答える。
「いやだよ。まだ、良平は約束を守ってないじゃないか。」
「うぅっ。もう、許せよ!心が狭いぞバカ杉野!」
「逃げてもダ〜メ。逃がさないよ。」
「あのなぁ…!!」
どうやら喧嘩でもしているらしい。
聡平はひとまず安心して、おそるおおそる、ドアの端から顔を出すことにした。
自分のベッドを確かめて、次いで反対側の、二人の声のする良平のベッドに視線を移した。
ベッドが跳ねた。
「あ、う…っ」
小さく聞こえた息を呑む声は、一体誰のものなのか。
暗闇に浮かび上がったのは全裸の男、二人の重なり合った姿だった。肝心の部分は上に乗っている男の腰と、仰向けに組み敷かれている男のもがく両足で隠れているから、辛うじて目に入らなかったが、性交中なのは火を見るより明らかである。
枕元に置かれたオレンジの弱い光が、二人の肢体を妖艶に浮かび上がらせている。
杉野は良平の足の裏に落としていたキスをやめて、その伸ばした足を愛でるように優しく撫でた。
「すぎ…っ」
暗がりで、かつ枕に顔を埋めるように足掻いている良平の顔は見えないが、嫌がる素振りを見せているようだ。
杉野は黙って、その様子を面白がるように観察している。
良平を慈しむ柔らかい瞳に、聡平は動きを失った。
音を立てずにとはいえ、聡平が部屋に入ってきたことに二人はまるで気付いていない。
それほどまでに、杉野は良平の仕草に夢中だった。
「良平の足、キレイ…。」
「嬉しく、ねぇ、っ!」
「もっと触りたい。」
「あ……っ!」
良平が、普段の彼とはかけ離れた甘い声を発して、腰を浮かした。
よく見れば彼のウエストは締まっていて、杉野を受け入れている場所のラインは、この時ばかりは女のそれのように丸みを帯びているように見える。
しかし、いくら足が美しいと杉野が褒めようとも、上半身は紛れもなく男のそれで、程よく筋肉のついた男らしい肩が微かに汗を浮かべながらひきつっている。
湿った呼吸が、浅く速く繰り返された。
「や…っやめ、すぎ…杉野…っあぁっ…」
うわ言のように良平が呻く。杉野は彼の感情を煽るように、わざと緩やかに、緩急をつけて内側の肌を撫でていた。
聡平は何も言えない。
ただ、立ち尽くした。
「頼む、杉野…!もう…、ごめん…っ」
「もうイく?」
「キツい…っ、イくかも…っ」
「早いよ。さっきイったばかりなのに、良平ってば。」
「お前…お前が悪いんだぁ…!!」
もはや良平は泣いているのか鳴いているのかわからない、情けない声を出して杉野に腕を伸ばした。
その手を掴んで、引き寄せ、口付けを落とす。
「やだ…やだ、杉野。」
「何が、イヤ?」
「…ッ」
良平は一度黙った。
どうやら何かを我慢しているような、躊躇しているような、そういう間だった。
聡平は無意識に息を止め、口を塞いだ。
今、自分は真っ赤であろうことが予想できる。耳まで熱い。
でもそれ以上に、良平の心の葛藤が手に取るように感じられた。
彼が言わんとしていること。彼の欲していること。
その何もかもが、この場の異様な空気を伝って聡平に流れ込んできているようだった。
聡平が息を吐き、辛うじて足を一歩元に戻した。
それと同時に良平が意を決したように、甘えた声で杉野に懇願する。
自分の支配者に、自ら服従を誓うのだ。
「来て、杉野…っ、一人は嫌だ…!!」
「うん。」
杉野の満足そうな相槌を、聡平は聞かずに部屋を飛び出した。
なるべく足音をさせないように急いだつもりだが、階段が少し軋んだかもしれない。
そういえば、ドアを開けたままにしてきてしまった。
二人の様子から、それに気付くのはもう少し後のような気がするが、今はそれどころではなかった。
慌ててトイレに駆け込んで、しばらくの間出てこなかった。
佐久間家に再び、つかぬ間の静寂が訪れた。
数分後、少し酔いの回った恭平が帰宅した頃には、聡平は一階のリビングでテレビを見ていた。ぼーっと生気の抜けたような顔をしている。
弟妹の不調に敏感な恭平はすぐにそれに気付いた。
「聡平?どうしたの、元気ないじゃないか。」
兄の声に聡平は振り向いて、眉根に皺を寄せた。
「……ありえねぇ。」
「え?」
「俺、サイアク……」
恭平は弟の自責の意味がわからず、きょとんとしたまま首を傾げていた。
***
◇後書き
リクエストありがとうございました。
いろんな意味で自己嫌悪にかられる聡平くんなのでありました…(=∀=*) 双子のシンクロはエチ中にも起こってしまったみたいですv 男に興味のない聡平くんにとっては本当に勘弁してほしい悩みでしょうね(笑)
これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m
+戻る+