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◇スカトロ系
アルバイトである恭平の退社時刻が迫る午後、恭平は浮かない顔をして席に座った。
今日の仕事は思ったように進まず、少し残業をしなければ、と思うと自然とため息が落ちた。
それも仕方ない。
「佐久間くん、はいどうぞ。」
気を利かせて、女性社員がお茶を煎れてくれた。
ついでに恭平の顔を覗き込み、心配そうに聞いた。
「お腹の調子でも悪いの?今日はトイレの回数が多いみたいだけど。」
「うわっ…」
思わず恭平は絶句して頬を赤らめた。
「すみません。」
図星ね、と彼女は笑って、恭平の肩を叩いて去った。
しばらくして、二つの箱を持って戻ってくる。
「便秘ですか、下痢ですか。」
「……」
恭平は恥ずかしくて、サラリと言えてしまったこの女性が信じられない、とでも言いたげなほど顔を真っ赤に染めた。
無言で下痢薬を指差す。
「はい。」
彼女はそちらを恭平に手渡し、さっさとその場を離れていった。
気を遣ってもらったのはありがたいが、職場の空気が痛すぎる。
被害妄想かな、と恭平は気を取り直して箱を開け、薬を飲み下した。
1時間ほど残業して、恭平は帰途についた。
薬のお陰か、あれ以降、今のところは便意を催す気配はない。
一日中腹の具合と格闘していたと言っても過言ではないので、無駄に疲労感のたまった体を引きずって、家にたどり着く。
休む暇もなく冷蔵庫を開け、見たくもない食材を手にして自分と明美を除く3人分の夕飯の支度を整えた。
孝平が帰ってくるはずなので、明美はきっと帰ってこない。どうにかしなきゃなぁと思いつつ、明美の帰宅は良くて週に4日以下だった。
風呂も入れ、洗濯物を取り込んでから、少し仮眠を取った。
部屋で眠っていると、騒がしく双子が帰ってきた音がして、さらにしばらくウトウトしていると、今度は無言で、父の孝平が帰宅した。
さすがにその頃には目を開けて、恭平は孝平を出迎えた。
「おかえりなさい。」
「うん、ただいま。」
孝平は疲れた顔に少し笑みを浮かべて、恭平に鞄を預けた。
背広を脱ぎながら廊下を行き、夕飯にちらりと目をやりながら自室に入る。
後からついてきた恭平は鞄を決まった場所に置いて、孝平のネクタイを外す手伝いをした。
シャツのボタンに手をかけたところで、孝平に肩を軽く掴まれた。
半ば予想していたのか、恭平は孝平の目を覗き込む。その漆黒の瞳に吸い込まれるように、孝平は少し首を傾けて恭平の唇を奪った。
恭平は束の間ネクタイを強く握り締め、ゆっくりと目を閉じた。
孝平のキスは、恭平の少ない経験からもわかるくらいに優しくて、時折強引で、少ししつこい。
重ねた唇を少し離し、目を合わせる。
唾液がはかなく糸を引くが、今度は反対に首を傾げて再び唇を塞がれる際に、それは消えて見えなくなる。
「…んっ」
急に恭平が呻くように口を閉ざし、拒否するように孝平から離れた。
残された呼吸が荒く室内をこだまする。
「どうした…?」
孝平が不思議そうに尋ねた。
手落ちはなかったはずだ、と思いつつもしばらくキスの過程を考えてみる。
恭平は首を振って、頬を赤らめた。
「な、なんでもない…。今日は、ちょっと…」
「ちょっと、なんだい。」
「…ちょっと、エッチなことは無理…」
我ながら変な言い回しだな、と後から気付いた。
孝平は予想外なことを言われたという顔をして、きょとんとした。
「…特にそういう要望をした覚えはないけど。」
「うわ!だよね!ごめん!」
恭平は慌てて首と手を振った。
女性社員に薬をもらった時と同様、焦りと羞恥と共に顔が熱くなる。
しかし、深いことを聞いてこなかった彼女と違い、相手は孝平だ。しかも恭平のことになると、ただの息子に対する愛情とは異常なほどかけ離れた執拗さをみせる心の狭い男である。
案の定、孝平は眉をしかめて疑惑の目を恭平に向けた。
「そう改めて言われると、気になってしまうな。」
「何が?」
「どうして無理なんだい?何か隠し事があるのかな。」
一瞬、怖い顔を恭平に向けた孝平は、恭平の返答次第では何をしてくるかわからない恐ろしさがあった。
過去に数度、こんな怖い顔で“お仕置きだよ”と言われ、無理な酷使を強要されたことがある。抱きしめたくてもさせてもらえなくて、恭平にとっては苦痛だけが残るものだった。
恭平は彼の逆鱗に触れないように、言葉を慎重に選ぶ。
「お腹の調子が、悪いんだ。今日はトイレから離れられなかった。」
「ふーん…今は?」
「今は薬で…。でもね、さっき…あの、キスしてる時、ゴロゴロって鳴った気がして。」
そう言いながら恭平はお腹の辺りを擦った。
孝平は目を細め、顔をしかめたままだ。
「そういうわけだから…」
「下痢ってことかい?」
「うっ、うん。そう。」
「風邪かな。熱は?」
「熱はないよ。と、思うけど…」
「それとも、心当たりは?」
「…え、何の?」
「下痢の原因。下手な奴とやると、間違いなく下痢になる。」
孝平は思いっきり不快な顔をして、恭平を睨んだ。
雲行きの怪しさに恭平は焦った。だが、孝平の言っている意味がよくわからない。
なぜなら、恭平は幸運なことに男同士のセックスの産物としてそういう結果になったことがなかったからだ。
後処理が上手い相手としか寝たことがなかった。
ポカンとして立ち尽くす鈍感な恭平にため息をつき、孝平は一歩ずつ、恭平ににじり寄った。それに合わせる様に恭平が身を引き、背中が壁に当たって追い詰められる。
「本当に心当たりはないんだな。」
「うん。ただの風邪だよ…」
恭平は“風邪”を強調して頷いた。
納得のいかない孝平は、恭平の顎を持ち上げて、その首筋に顔を寄せた。
恭平の動きが止まる。
「うわ…っ父さん、マジ…」
ヤメテ、と訴える前に孝平の手が恭平の腰を捕らえ、後ろの双璧の隙間へと指が進んだ。
恭平は咄嗟に壁に手をついて、ともすれば震えそうになる身体を支える。逃げるように腰を浮かすと、孝平とぴったりとくっつく形になった。
「父さんっ!」
恭平は叫んだ。
しかし無遠慮な指がズボンの上から股間を弄る。
「…だっ、め、ぁあぁ!や、やばいっ!!」
恭平は、醜態を晒すより、意を決して恐怖の原因を撃退することを選んだ。
左手に渾身の力をこめて、孝平の右頬に叩き付ける。
パンッ
孝平の部屋を越えて隣のリビングまで、おそろしく軽い高音が響き渡った。
そして、ドンッ、ガシャン、と派手な音が続く。
部屋から飛び出した恭平は、慌てふためいてトイレへと駆け込んだ。
「信じられない!父さんのばか…呪ってやる〜!」
トイレの中から恭平の、情けなくも怒りの呪いの呪文が聞こえてくる。
孝平はというと、はたかれた右頬を押さえながら、この男にしては珍しく思考の止まったような顔をして、しばらくの間立ち尽くしていた。
床に落ちた目覚まし時計の針が、孝平を見て笑った気がした。
***
◇後書き
リクエストありがとうございました。
スカトロ系の作品を初めて書きました(^^ゞ 他の作家さんの作品もあまり読んだことがないので、精一杯書いてみましたがやはり本場ものとは程遠いのでしょうね(><;) 軽めですみません。サイト全体の傾向から外れないよう、下品なものにはならないようにだけは心がけました。(…つもりです!)
これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m
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