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◇寺崎くんのその後
寺崎の元に、三日前、東京本社に出張する機会が舞い降りた。
会津に来て数ヶ月経ち、生活にも慣れ始めたところにやって来た報せだった。
まず頭に浮かんだものは実家で、次に矢吹の力強くお人好しの笑顔だった。
矢吹とは時折連絡を取っている。相変わらず峰山部長の下で汗をかいているらしい。
東京が近付くにつれて、あの日の記憶が蘇る。
矢吹の部屋で、無理矢理とは言え拝んだハダカ。
他人の、しかも男の肉体を見て目が離せなくなった。小さな感動のようなものすら覚えた。
首筋が細くて、筋肉は標準なのにどこか華奢で、服を脱がす手が震えた。
女のように隆起していない胸には、しかし同じ位置に紅い果実が小さく熟れて出迎えていた。
少し触れてみたが、柔らかい、と思った途端に神聖なほど熱いため息が彼の口から漏れたので、すぐに手を離した。
身じろいだ彼はゆっくりと腕を枕の下に忍ばせ、無垢な横顔を向けてきた。
首から鎖骨にかけてのラインが魅惑的な色気を放つ。
幻想を抱いていたのだ。
彼なら許してくれると。
少し変かもしれないな、と感じていた自分の性癖を受け入れてくれると。
だってどう考えても、ただの男にこんなにも下半身が疼くなんてオカシイ。
ハダカを見たいなんて。
乳首に触れたいなんて。
挙げ句の果てに、全裸に剥がして彼の弱い場所を弄り、どんな反応を示すのか知りたいなんて。
そんなの絶対、オカシイ。
あの日にあんなことをしでかす前にも、どれだけ自分を押さえ込んできたか知れない。
食堂で毎日見かける度に、後ろから抱きしめたいと思っていた。
ロッカーですれ違う度に、その背広を脱がしてキスをしたいと思っていた。
給湯室ではその後ろ姿に妄想が膨らんで、腰から下への視線を外せなかった。
彼が微笑み、優しい言葉をかけてくる度に罪悪感が膨らんだ。
日中はそれとわからないくらい親しくしているのに、夜は彼の服を脱がしてまるで女にするようにしつこく犯すという想像を止められない。
そういう妄想を膨らませているときの彼は、寺崎自身が驚くくらいリアルな声で鳴くのだ。
東京駅にたどり着いたのは夜の9時を回っていて、寺崎はまっすぐビジネスホテルへ向かった。
明日は本社に出向き峰山部長たちと会議だ。
もしかしたら社長も同席するかもしれないと、事前の電話で言っていた。
うちの社長はデキがいい分、腹の中では何を考えているのかわからない節がある。
恭平くんも資料配りで顔を出してくれないかな、だったら少しでも気が楽になるのに。
寺崎は胸を抑えた。
チクリと痛んだからだ。
これは罪悪感か、それとも未だに憧れている表れか。
寺崎はスーツケースを開けた。
早くシャワーを浴びて寝てしまおう。朝は早いのだ。
準備をしていると充電していた携帯電話が着信メロディーを鳴らした。
反射的に手を伸ばし、表示を確かめる。
そこに表示された名を見た寺崎は口の端をニタリと緩ませて窓際へ寄った。
少しでも電波が良くなる気がする。
窓から見える東京の夜景は恐ろしいほど美しく、そして虚ろな気がした。
携帯電話を耳にあてる。
「もしもし…」
『あっ、寺崎?お前、今日だろこっち来るの。もう着いた?』
「ああ。今ホテルでシャワー浴びようとしてるとこ。」
受話器の向こう側から聞こえてくるのは久しぶり過ぎるノー天気な声。
矢吹博人。
学生時代からの親友だ。
『明日飲もうぜ。同期も何人か誘うからよー。』
「いいよ。なつかしいなあ。」
矢吹は見かけによらず小心者なところがあるが、絶対、好みが似ている。
彼も同じ人に興味を抱き、そして惹かれたに違いない。
それを人は恋と呼ぶのかどうかは、わからないが。
「矢吹…」
『ん?』
「どうせなら恭平くんも誘って。」
『え…。……たぶん来ねぇよ、知ってるだろ。』
「いいから誘ってよ。来るか来ないかは別問題だろ?」
矢吹はしばしの沈黙の後、しょ〜がね〜な〜っ、とぶつぶつ言いながら約束してくれた。
名前を言ってくれるだけでいいんだ。
そうしたら寺崎圭の名前と顔と、もしかしたら話したことなんかを思い出してくれるかもしれない。
彼の記憶の中で再会できるかもしれない。
そんなことを考えて、自分も矢吹に負けず劣らず小心者だと思い出した。
自嘲の笑みがこぼれる。
「じゃあ、また明日な。」
『オーライ。頑張れよう。』
寺崎は相手が切るのを待ってから携帯電話を閉じた。
急にソワソワし、ウズウズし、手に汗を握る。
明日はハメを外さないように努力しないと。
いろんな種類の緊張が一気に押し寄せてくる予感がする。
その夜、寺崎は早めに入った床のなかで、ご無沙汰していた甘い夢を見た。
***
◇後書き
リクエストありがとうございました。
ご無沙汰していた寺崎くんでしたー。会津に行って、少し賢くなったんでしょうか。私の文章は一人称で書くと妙に落ち着いて見えます…もっとオバカなキャラのはずなのにぃ(>Д<)相変わらず理性は弱いままのようなので、か弱い子羊は狼さんに近寄らない方がいいかもですネ★
これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
四年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m
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