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◇杉野×良平で杉野家両親にご対面
「今年のお盆は、どうする?」
良平はポテチをポリポリと噛み砕きながら尋ねた。
冷房を切った昼下がりの室内はじっとりと暑い。窓から吹き抜ける微かな風だけが慰みだった。
良平はテレビの前にあぐらを掻き、右手で団扇を操っている。
問われた杉野はベッドの上に寝そべりながら良平を見やった。投げ出した手足は暑さを最小限に抑えるためだ。
「仕事だよ。」
「えっ?休みねぇの?」
小さな落胆の色を見せた良平に、杉野は口元を緩ませた。同時に申し訳なさそうに眉を寄せる。
「その前の週にどっかりと。言ってあったろ?」
「あぁ…そうか。」
良平の大学やバイトの都合も考慮して、二人は土日を挟んで旅行する計画をたてていた。
「じゃあ…それ以外は俺ヒマなのかー。どうしよっかなー。」
良平は独り言のように呟いて、またポテチを口に放り込んだ。
杉野は良平がヒマであることに少なからず安心し、大きく息を吸い込んだ。
「家族と出かけたりすれば?」
「んな仲良くねぇよ。聡平はバイトだろうしなぁ…」
「恭平さんは?」
「兄貴ィ?だめ、だめ。そりゃ最大の出資者だし?俺としちゃ願ったり叶ったりだけどな。明美が黙っちゃいねぇもん。兄貴もほっとけねぇだろうし。」
「明美ちゃんは。」
「断固むり。面倒くせぇ。」
「…じゃ、お父さん。」
「ばーかッ!もっと無理!」
良平が眉を吊り上げて怒ったので杉野は首を引っ込めた。腹筋の要領で起き上がり、汗を払って伸び上がる。
Tシャツの隙間からお腹が見えて、良平はふいと視線を逃がした。汗ばんだ筋肉やヘソって、なんだかすごく心臓に悪い。
反対に杉野は、目をそらした良平の背中、同じくTシャツとジーンズの間から覗く少し焼けた肌に、動きを止めていた。
ああ、すごくトキメく…
「俺…」
「え?」
下心を見透かしたようなタイミングで良平が口を開く。
目は窓の外を見たまま、足の上に肘をついている。
「杉野の親父の墓参りしよっかな。」
「………は?」
二の句が告げず、口を開けたままポカンと良平を見る。
その間に良平の思考回路を、なぜそんな発言が飛び出したのか考えてみた。が、杉野が結論にたどり着く前に、良平が答えを与えた。
「お盆だしな。妙子さんにも会いたいし。」
杉野は黙ったまま。
不審そうに良平が振り向く。
「…何か言えよ。だめかな、やっぱ?」
「だめじゃないけど…いいの?」
「いいよ。親父ってお前に似てる?」
「似てない…どっちかっつぅと俺、妙子さん系の顔だもん。」
「そうだなあ。髪質とか二宮とそっくりだもんな。」
「咲斗は関係ない…。それよかなんで良平があいつの髪質のことなんて知ってるんだよ?」
「えっ?あ〜…いや〜…、な、なんでだろうね…」
「目が泳いでる!ちょっ…、どういうことだよ!何?!」
「見たらわかるだろ!今更ガタガタ騒ぐな!」
「今更っ?!そんな昔から隠し事があんの?!」
「ばかっ、いてっ…、なんもねぇよっ…落ち着け!」
ハッと気が付けば鼻息がかかりそうなほど杉野の顔が良平に迫っていた。いつのまにか背中が床にくっついてるし。
良平は辛うじて両手で彼の顔を遠ざける。
が、体の密着度はさほど変わらない。
二人は顔を見合わせたまま、どちらかが口を開くのを待った。
しばし沈黙。
「……目の感じがね、」
先に折れたのはやっぱり杉野だった。
「似てるんだって、俺と親父。」
ふぅん、と良平は頷いて、すぐそこにある杉野の瞳を覗き込んだ。
全体的に黒っぽい二つのそれは、どちらも良平の姿を捉え、映し出している。
まっすぐで頑固で、一途な視線が良平を射抜く。
すっと伸びた鼻筋。形の整ったクチビル。
赤い舌…
途端にギクリと息を止め、良平の体は硬直した。
つい油断した隙に、杉野の手が良平前方、下腹部に伸びていた。
「ちょっ、…ま、どこ触ってんだよっ」
「だってあまりにも、良平の顔がエロくって。」
杉野は笑った。
いや、良平は気付いていた、両の眼だけは笑っていないことを。
逃げようものなら全力で押さえつけ、なし崩しに弄ばれてしまうだろう。
そんな獣のような瞳をしていた。
「俺のせいかよっ!…ちょっ…待ってよ…!」
「待ってたら何かイイコトある?」
「……ぁ、あっ…」
微かに奥をさすられたくらいで弱った声を出してしまう自分が憎い。
杉野の指がジーンズの上から絡みついてくるイメージが、ムラムラと頭を煮やしていく。ひっ、と小さく鳴いて、良平は杉野の肩にしがみついた。
「ぅ、くっ…」
強く閉じた両目から涙が滲む。頬を上気させ、睫を濡らしてどこかに助けを求める様は、杉野の視床下部を確実に興奮させた。
手早くベルトを外し、ジーンズを脱がせにかかる。
知り尽くした弱い場所を可愛がり続けているのでさしたる抵抗もなく、杉野の意図通りコトが進む。
良平は悔しそうに、時折杉野を睨みつける。しかし、すぐにそれどころではなくなって喉をひきつらせるのだ。
その反応が、たまらない。
「親父の墓前に行ったらさ…」
「……っ。」
「ちゃんと報告しようね。良平はこんなに可愛いんだって。上も下も泣いちゃうくらい、ものすっげー可愛いんだって。」
「や、だぁ…っ。ふざけ、な、ばかやろ…っ」
「死んじゃってるんだもん、文句は言わせないね。」
「あ、んくっ、ぁあっ!あぅっ!」
もはや杉野が何を言ってるのか理解できない。
どうでもいい。
文句?誰であろうと言わせるわけねーだろ。お前はお前、俺は俺だぜ?
だがしかし、今はそれどころではない。
身体が言うことをきかないんだよ!!
「良平、もうヤバい?」
杉野が聞いてきた。まさに天の声。その天の声が自分を窮地に陥れている悪魔の指先を持つ者と同一人物だと、しばし忘れる。
良平は必死にしがみついた。
「ヤバいっ……」
「イく?」
「…ッ」
「声、出して。」
「…は、ぁあ…っ」
「イく?」
ぶんぶん首を縦に振って肯定の意を伝えるが、杉野はすぐに納得しない。
裏筋を執拗に攻め立てながら、良平を追い込み、肝心なところで根元を押さえ、刺激を弱める。
イくにイけない、欲望が出口を見失う。身体中を快感を多分に含んだ毒素が駆け巡る。
良平は服を乱し、身体を捩って逃げようともがいた。
目の前の獣はみすみす獲物を逃すほど甘くはないことを忘れて。
器用に良平の体を配下に押さえつけた杉野は、抑揚を隠せない顔をして良平の耳元に寄った。
「声。出してくれなきゃ、自由にしてあげないよ。」
「…っ、」
低ボイスにゾクリとし、背中に鳥肌が浮かんだ。毛穴が開いた。汗が滲む。
「良、平。」
「アッ。」
反射的に小さな声。迂闊だった。
杉野が喜ぶ。
「もう一度聞くよ?」
「ァアッ…」
もはやまな板の上のナントヤラである。
勝手にしてくれ!
杉野の指先がぐぃっと折れた。唇が耳朶を甘噛みした。
仰け反って痙攣する。ビクビク不規則に、杉野に操られて妖しく踊る。酸素が欲しい、酸素が。
「イく?」
「…っイクぅ……!!」
良平は理性やプライドをここぞとばかりにかなぐり捨てて、叫んだ。
悲鳴に近い。
ほとなくし、杉野に押さえつけられた腹の下で良平の欲望が吐き出された。
数日後のお盆の日は、雨だった。
良平は杉野と彼の母、妙子と共に都内にある有名墓地に現れた。
妙子は息子の連れてきた友人が、少し前に風邪で寝込んでいた後輩だと知って少しばかり驚いた様子だったが、笑顔で迎えてくれた。
「久しぶりね。私も会いたかったのよ。」
そう言ってコロコロと笑う妙子に良平は照れた。
笑う拍子がどことなく実母の愛に似ていて、好きである。
良平は杉野家の墓の前で手を合わせ、冥福を祈った。
それからもう一つ。
(拓巳クンのセックス回数を控えさせてください。誰に似たんですか。あなたですか。あなたでしょう。頼みますよ。そのせいで俺が死んだら、恨みますからね。)
良平は合掌を解いて、片手を腰に当てた。
この日の計画を立てた頃から、何がどうなったのか杉野は盛りっぱなしだった。仕事の疲れも忘れ、嬉々として毎夜ベッドへ引きずり込んでくる。
何がそんなに嬉しいのだろう。
どうなってんだ。
チラリと片目で隣の杉野を盗み見る。
神妙な顔をして目を閉じていた。
たった一人の父親と、一体何を話しているんだろう。
ちゃんと紹介してくれているかな…?
「拓巳、言い忘れてたけど。」
呑気な声で妙子が言った。杉野は目を開けて母を見下ろした。
良平もつられて視線を移す。
妙子は肘で息子の脇をつついて、わざとらしく手を合わせた。
パスンッと気の抜けた音がした。
「ちゃんと良平くんのこともお願いしときなさいね。」
『え?』
ハミングで聞き返す。
良平の目の前で杉野の背中が凍るのがわかった。
彼は母親に自分の性癖を未だ打ち明けていないので、この話題には敏感なのだ。できれば避けたい。
あくまで普通の青年として振る舞っている身としては、今の台詞は痛かった。妙子の様子からして、何かを察しているようには思えないのだが……
良平はゴクリと息を飲み込んだ。一瞬の沈黙がやたらと長く感じられた。
妙子は杉野の顔を覗き込んだ。良平からは見えなくなる。
無邪気な声だけが聞こえてきた。
「ずっとお友達でいられますようにってね♪拓巳が2回以上、私に会わせてくれたお友達って良平くんくらいのものじゃない?」
「あ、はぁ。なるほど…ハハ…。」
杉野の乾いた笑いが続く。
痛い。痛すぎるよ杉野。
「昔はね〜、友達いないんじゃないかって、心配してたのよ。お父さんも。」
「うっそ〜。見えない。そんなこと心配する?」
「本当よ。私たちのせいで他の子より苦労して、それはそれはマセた小学生だったわよ。」
「あ、小学生の話か。なぁんだ。」
杉野は少し笑った。
ひきつってない、いつもの笑い方だった。
良平が黙って杉野家之墓を見下ろしていると、妙子が杉野の肩越しに顔を出した。
視線を感じて振り向く。
「良平くん、今日はありがとう。また来年も来てあげてね。」
「はい。」
「もちろん時間があったらでいいんだけど。」
「はい。喜んで。」
良平は目を細めて頷き、杉野を見た。
彼も良平を見ていた。
写真で見せてもらった杉野の父親に、やはり少し似ている気がした。雰囲気とか。目の、感じが。
良平は妙子に見えないように少し角度を変えて、申し訳なさそうに眉尻を下げている杉野に対して片目を閉じて魅せた。
***
◇後書き
リクエストありがとうございました。
杉野・父は既に亡くなっているので、お墓参りをしてもらいました。幽霊にして喋ってもらおうかなあとも考えたのですけど(笑)どんな人だったのか、拓巳くん自身にあまり記憶がなさそうですが、いつか書けたらいいです。な〜んて、また無謀なことを…。。。心をこめて巴さんに捧げますv(まだ訪れてくれていらっしゃるでしょうか……;;;)
これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
四年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m
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