◇双子と恭平くんの丸秘写真騒動


【丸秘写真騒動】



「なあ〜、聡平。」
「何?」
「これ、お前だろ。」

聡平は、参考書から顔をあげて良平を見た。ずれた眼鏡を元に戻して、目をこらす。
10分ほど前からゴソゴソと部屋の隅で整理を始めた良平が、手に紙切れのようなものをちらつかせて聡平を見ていた。
「何が?」
「ここに写ってるの、お前だろ?兄貴と、とんでもな〜いこと、してるよ。」
「は?」
いぶかしげに眉をひそめ、しおりをはさんで本を閉じる。近寄ってみると、紙切れに見えたものはスナップ写真で、そこに写っていたのは確かにトンデモナイことをしている幼い自分と兄の恭平だった。
いや、一目に自分とはわからない。
幼い頃の自分は、良平と瓜二つであることは重々承知している。

「…キス?」
「うん。ほっぺにチュー☆」
「うわー。…恥ずかしいな、これは。」
聡平は思わず口元に手をかざして瞬きを繰り返す。手にとってみると殊更に恥ずかしい。
小学生低学年くらいの恭平はソファに座り、膝に双子のどちらかを抱え、その柔らかそうな頬に弟のキスを受けていた。くすぐったそうに片目を閉じて、しかしどうしてか楽しそうだ。
聡平はまじまじと手元を見つめながら、思った疑問を口にする。
「つーかこれ、本当に俺か?良平じゃないの。」
「はぁ?ヤメロよ、俺がこんなこっ恥ずかしいことするかってぇの。」
「俺もやんないよ。」
「いぃや、お前だねっ、聡平。」
「なんでだよ…言い切るなよ。良平だろ〜。」
お互い自分ではないと言い合っていると、制服姿のままの明美がドアを開けた。
「ちょっと〜、うるさいんだけど!静かにしてくんない。」
短く切ったひだつきスカートの下から透けるように色の白い足が伸びている。靴下は履かず、裸足である。
思わず聡平はさっと目をそらした。
「勝手に入ってくんな!」
良平は気にしない。
「だってうるさいんだもん。…何見てんの?」
あ、と良平が漏らした時には、余所見をしていた聡平の手から明美が写真を奪っていた。
あ、と振り返った聡平が、初めてコトの重大さを知る。

面倒なヤツに見られた。

「えーーー!!何コレ!いつの写真?」
「う…、うるさい、返せよ。」
「イヤよ。ねえ、いつの写真?」
ひらりと身をかわし、明美が尋ねる。兄二人はこの時ばかりは同時に立ち上がり、自分が写っているかもしれない写真の奪回を目指した。
「明美、返しなさい。」
「やーだっ!そうだ、兄さんにいつの写真か聞いてこようっと。」
「くぉら!明美!!」
「きゃ〜っ!」
明美はどこか楽しそうに叫び、脱兎の如く部屋から飛び出した。
反射的に聡平がすぐさま後を追い、良平がそれに続く。
階段を足音高く三人連なって駆け下りた。
「に〜いさ〜ん!」
「こらっ、明美!マジよせ、ばか!」
「聡平、捕まえろ!」
叫び声が交差する。
夕飯の準備をしていた恭平は、びっくりしてコンロの火を止めた。
「な、何?」
「なんでもねーよっ!明美、こっち来い。」
「やだっ!や〜だ!」
聡平は追いついて妹の手を引っ張った。それに良平が加勢する。
「いったいよ〜!離して!」
「いや離すのはお前だろ、返せよ!」
良平が叫ぶ。
「明美、頼むよ。」
聡平が頼む。
「やだ〜!!兄さん助けて〜!」
明美は求める。兄に、助けを。

恭平はその構図を見て、さすがに大の男が2人で寄ってたかって女子高生を襲っているのはマズイだろうと慌てて台所から飛び出した。
明美が手に握っているものが何なのかはわからない。だがこのままでは力任せにぎゅうぎゅうと押されて引っ張られて怪我をしないとも限らない。
「良!聡!とりあえず、やめなさい!」
恭平の仲裁によって明美は離された。
明美が恭平の背に回りこみ、その影から首だけを傾ける。肩で息をして、にらみ合った。

間で恭平が、呆れたため息をつく。
「…どういうことだ。」
「なんでもないって。兄貴には関係ない。」
「そうそう。」
双子は息の合ったところを見せつけ、二人同時にウンウンと頷く。
次に恭平は明美を見た。
「明美、どういうこと。兄さんたちを怒らせるようなことをしちゃったのか。」
「してないわよ。兄さん、これ見て。」
「わーーーー!見なくていい!見なくていいと思う!!」

恭平は見た。明美が手に持っていた写真には自分が写っている。
その瞬間にこの問答の全体像を理解し、笑い出した。明美も声を殺して半笑いだ。
反対に双子は絶句する。うわー、と呟いて、良平が天井を仰いだ。
「あはっ、あはは、なつかしいなこの写真。どこにあった?」
「……良平の、引き出し。」
「へーえ?じゃあ、隠してたんだ。道理で見つからないと思ってた。」
「え?どういうこと。」
恭平は笑いながら食卓の奥にある棚の最下段を開き、そこから古いアルバムを引っ張り出した。
久しぶりに目にする、というか、あまり見たことのない代物だった。
「母さんが生きてたときに作ってたアルバムなんだけど。ここにもう一枚、同じような写真があるんだよね。この写真は良平が右からで…」
「え。」
「ああ、これ良平だよ。」

あっさり断定され、良平の顔の血の気が引く。

「ん〜と…。あ、あった。こっちが聡平だね。左に写ってる。ほら、右下に良平の後頭部も一緒に写ってるだろ。こっちを先に撮ったんだ、確か。」
問題の写真をそっくりそのまま左右反転したような、色あせた写真がそこにはあった。明美が弾けたように笑い出す。
良平も聡平も小さかったとはいえ、兄にベッタリでほっぺたに接吻をほどこしているその姿は、21歳の今から見ても微笑ましいどころか恥ずかしさで顔が火照る。
頭の中が真っ白になった。

恭平は邪気のない笑顔を向けて、二人を見た。
「二人とも、この頃は明美に負けない甘えん坊さんだったよ。」
「…………。」
「聞けばなんでも話して聞かせてくれたのになあ。今じゃ、兄貴には関係ない、だもんな。」
「………。」
「あの頃の二人はドコへ行っちゃったのかなぁ。」
「ここにいるわよ。」
「もっと可愛かったよ。ごめんなさいって、ちゃんと言えたし。」
「……。」
「明美、手首痛かった。」
「掴まれたから?可哀想に…謝ってくれた?」
「まだ。」
「そうか。謝ってくれるよ、あの頃の二人と同じなら。」
「…。」
「良平?聡平?言えるだろ。謝りなさい。」

…ごめんなさい。

最後に良平がチッと大きく舌打ちをして、もう一回怒られた。


後日。

佐久間家へ遊びに来た杉野拓巳は、恭平に見せられた問題の写真を地団太を踏んで悔しがった。
この頃の恭平さんに自分もなりたい、とまで言った。
良平は横でまたもや「こんな兄貴二人もいらねー」発言をこぼし、無駄に睨まれたのである。
これも全てが明美のせいだ。

明美はと言えば、わざわざ透明の写真たてを買ってきて、問題の写真を2枚とも飾っていた。しかもリビングの、全員の目に付くところに置いた。
双子が抗議し隠してしまうと、明美が恭平に言いつけるのでどけることもできない。結局、佐久間家において一番強いのはやはり長兄なのであった。

「…この写真は?」
ただ一つ。
この写真を見て、佐久間家大黒柱、佐久間孝平はいささか機嫌を悪くした。
「可愛いよね、良平も聡平も。」
尋ねられた恭平は小さく微笑み、双子を褒める。
しかし孝平の言っているのは、そこではない。
「気に入らないなあ。」
そう呟いて。
父は息子を、半ば強引な理屈をこねて寝室へと引きずり込んだ。

佐久間家において一番強い長兄を、これでもかというくらい自由に鳴かせることができるのは、彼しかいない。
その事実は未だ伏せられたままである。


***


◇後書き

リクエストありがとうございました。

虎の威を借る明美ちゃんです。蛇に睨まれた双子です。お兄ちゃんは虎で蛇で、ネコです…(* ̄3 ̄*)問題の写真を撮るに至った流れは、愛さんが仕向けたものではないと信じたい。聡平くんは自発的、良平くんは悔しくて…というのが本音でしょうかね。二人ともお兄ちゃん子でした。

これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
四年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m


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