◇孝平×恭平で兄弟の誰かに関係を知られてしまう修羅場話


【禁忌】



…見てしまった。

聞いてしまった。

何も無かったことになんてできなかった。
頭が拒否する前に、理解してしまった。


あれは兄だ。


必死に誰かの体に犯されながら、それでもなおしがみついていたのは、兄以外にありえない。
少しでも理解の範疇を広げられるのなら、兄は決して不幸せで行為に及んでいるわけではないだろうということだ。甘い声で喘いでいた…いや喘がされていた彼は、少なくとも相手を慈しんでいる感じがした。
それが何よりの救いだ。

そしてそんな兄を犯していたのは。


あいつだった。


「…って。」
もぞもぞと布団の中を這い回る何かに聡平は目を覚ます。
考えなくとも答えは知れている。
「…りょぉ。んだよ〜。も…どいて…」
寝ぼけながらも押し出そうと努力するが、ものすごい勢いでしがみついてくる彼は容易に剥がれなかった。
「つめて…良…冷たい…」
布団の中でもぞもぞと、無言のままシーツに顔を埋めている良平の体は外に出ていたかのように冷たかった。
不快だが眠気が勝り、仕方なしに抵抗をやめた。
まぁ慣れてるし、このまま眠れないわけでもない。

良平は頑なに何も言わず、巻き込まれた聡平が再びまどろんでも、どうやっても眠れなかった。

脳裏に憑いて離れない光景がぐるぐると何度も眼下に現れ、消しても消しても襲ってきた。
どうして。どうして。…どうして?
理解できない。
なんで。どうして。
何がどうしてどうなったらこんなことに。
彼は…実の叔父に散々嫌な目に合わされ、繰り返し弄ばれ、傷つけられて、泣いていたのではなかったか。
眠っている時さえ悪夢にうなされるくらい、嫌っていたのではなかったのか。
それなのに。

叔父とあいつと、何が違うのだ?
叔父とあいつは実の兄弟だ。歳も近い。
あいつは父親というには子供に無関心過ぎるし。親切という点ではむしろ叔父に軍配があるように良平は思う。

では何故?

何故彼に許す。なんで…好きなようにさせる。
どうしてそれを望む?


兄貴…兄貴……


じんわりと目の前が熱くなった。



朝が来たことも気付かなかった。
良平は皮肉な運命の瞬間からずっと、聡平の布団の中で息を殺して固まっていた。
ずっと聡平の背中の心臓の音を聞いていた。
ぬくもりを感じていた。
そうでないと、手が、足が、肩が、唇が、震えてしまって平静を保てない気がした。
時が動いたのだと知ったのは、当の聡平が目を覚ましたからだ。
目覚ましを止めたのか少し布団から起き上がり、眼鏡をかけてため息をついたのが気配でわかった。
彼が少し布団をめくった。
「…りょぉ?どうしたのさ。何事?」
言いたくなかった。

…というか言えない。
聡平には言えない。
兄に関して良平以上に心配性な聡平には絶対に言ってはならない。
明美なんて言語道断、世界が終わるに等しい。

黙っていると聡平が少し心配そうだけどかなり呆れた口調で言った。
「おぉい。黙ってたらわからないよ。杉野先輩と喧嘩したの?」
してない。
首を振る。
「本当か?だって昨日、泊まるから帰ってこないって言ってたじゃないか。それなのに夜中に安眠してた人の布団侵入してきてさ?」
そう、
昨日は急に、杉野が実家に帰ると言うから。
ちょっとだけわがままを言って早めの夕飯に付き合わせ、それから泊まると言った手前すぐに帰るのが憚られたからいつもの仲間を呼び出してカラオケして。
深夜にこっそり帰宅した。

…それがいけなかったんだ。

だから余計なことを知った。
見てはいけないもの、聞かなくても良かったものを……


良平は聡平の腰辺りにしがみついて俯いたまま、やはり何も言わず動かなかった。
「……言いたくなけりゃ無理に聞かないけどさ。」
聡平は諦めて布団を出ようとした。
しかし良平は手を離さない。
握り締めた拳が痛そうに色を変えている。

困ったな。

聡平も黙って良平の背をポンポンと叩いた。
いつも少し早めに起きているから大丈夫だとは思うけど、バイトに遅刻するなんてことにはなりたくない。
かと言って、なんだか追い詰められて打ちひしがれてる良平を放り出すことも、聡平にはできなかった。
どうしたと聞いても答えてくれないのだから、聡平は本当にすることがない。ただベッドに座り、良平の傍にいてぼんやりとしていた。

やがて、予定の時間になっても起きてこないことを心配した兄が、呼びに来てくれるだろう。
…案の定。

コンコン。

ドアがノックされて、予想通りの顔が覗いた。
聡平は手を上げて挨拶した。
「おはよう、兄貴。」
兄は少し疲れた顔をして微笑んだ。
気のせいか良平がわずかに身構えた気がする。
…なんだろう。
「どうした?お腹でも痛いのか。」
「違うよ。ただ…」

良平が。

説明しようとしたら、明らかに良平がそれを拒んだ。
別に特別何をしたわけでもない。相変わらず顔は伏せたままだし拳も力いっぱい握ったまんまだ。
だけど。

「…聡平?大丈夫か、風邪でも…」
恭平は心配そうに首を傾げて聡平を見た。

優しい兄を騙すような気がして、何故嘘を吐かなけりゃいけないんだと片割れを恨みながらも聡平は言う。

「や、なんていうかー。…うん、ちょっと腹が痛いかも。」
「えっ。薬持ってこようか。立てないくらい痛いのか?」
「そんな心配しないで。そうだな、念のため薬を…くれる?あと水が欲しい。喉がかわいた。」
「いいよ、持ってくる。もし苦しいのならバイト休めよ。無理して行くことなんかないんだから。」
「オッケー。わかってるよ。」

聡平の演技のお陰か、恭平の洞察力が足りなかった所為か、部屋には再び束の間の沈黙が訪れた。
良平はまだ動かない。
「良…いつまで隠れてんだ。どうせそのうちバレるんだぞ。」

いやだ。
顔を上げたくない。
一晩中泣いていたから顔はぐちゃぐちゃだ。
第一、兄と話せる気分ではない。彼の顔をまともに見れる自信がない。

「もう、仕方ないな。杉野さんを呼ぶぞ。」
「…め。だめ。」
「…なんだよ、喋れるじゃないか。何悪いことしたんだよ。」
「してねぇ…」
「兄貴に見せられない顔なんて今更無いだろ。」

それが、あるんだよ。


恭平は再びやってきた。
変わったところは一つもない。
いつもの歩き方で。
いつもの優しい声で。
いつもの柔らかな笑顔で。
「はい、お水。薬もここに置いておくから。」
二言三言、聡平と話している。

いつもの口調で。


そうやって、何年隠してきたのだろう。
いつまで続けるつもりなのだろう。


それが如何にも周囲に心配をかけまいと涙ぐましい努力をする兄らしく、同時に強く裏切られたような失望も感じつつ、良平は、聡平の隣で少し眠った。


***


◇後書き

リクエストありがとうございました。

げ……限界です(T∀T;;;)良平くんの気持ちを考えると胸が張り裂けそうでした。。。改めてうちのメイン2人はなんだかスゴイ設定の2人だなと思ったわけであります。あぁ、なんだか無性にごめんなさい。こんな場所に来てくださって話を読んでくださってリクエストまでくださって、本当にありがとうございます(汗)

これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
四年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m


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