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◇些細なことで双子大喧嘩、とことん周りを振り回し、いつの間にか仲直りしてる
雪が降った。
庭や道路や木の枝が一面真っ白になるくらい。
朝起きてカーテンを開けたら別世界でした、ってくらい。
「雪だるま作ろうぜ。」
庭で転げ回っていた杉野が言った。
土曜の朝9時だというのに元気なものだ。
早起きに慣れると休日でも遅くまで眠れないらしい。
まだパジャマのままパーカーを羽織っただけの格好で縁側に座っていた良平は、少しいやな顔をした。
「いくつだよお前。」
「えー?若々しい23歳ですが?」
「あっそ…」
聞くだけ無駄だった。
「早く着替えて来いよ、一人で遊んでてもつまんない。」
「…。」
「ほ〜ら。な?な?」
ぺち、と雪が顔に当たった。杉野が次々と、積もったばかりのサラサラの雪を投げつけてくる。
良平は渋々立ち上がり、仕返しに雪の塊を杉野の頭にクリーンヒットさせてから、一度室内に戻った。
代わりに恭平が、熱いお茶を盆に乗せて運んできた。
「おおっ。ありがとうございますっ!」
「はいどうぞ。雪、積もったね。どうやって来たの?」
「普通に電車と歩きで来ましたよ。遅れてたけど動いてたから。」
「へえ。すごいな。」
電車を誉めたのか杉野に感心したのか、恭平は微笑んだ。
杉野が年甲斐もなく雪だるまの下準備とばかりに雪を丸めていると、室内を激しく駆け回る足音が聞こえてきた。
バンッと派手に玄関が開き、着替えた良平が飛び出してきた。
その後を同じ顔にメガネをかけて、少々髪の毛に寝癖の残る聡平がパジャマ姿のまま追いかけている。
彼は眉を釣り上げて叫んだ。
「先輩っ、そいつ捕まえて!」
「えっ?」
杉野は、雪に足を取られて転びそうになった良平の腕をとっさに掴んだ。
彼は彼で、必死の形相で杉野の腕にしがみついた。
「助けろ!!」
「えぇっ?」
そして杉野の背中に回る。
聡平が靴を履いて外へ出てきたのはほぼ同時だった。
「人が気持ち良く寝てるって時に!なんで雪なんか入れるんだよ!」
「んなに怒ることねーじゃん?!気持ちかったろ?」
「まじっ……ふざけんっ……」
聡平が怒りで言葉を詰まらせている。
しきりに首の裏の水を払っている様子から、そこに雪の塊を落とされたものと見られる。
それは確かに嫌かも、と杉野は背中の良平を見た。
「良平…謝っとけよ。」
「いやだ。これは昨日のお返しだから!」
「あれはわざとじゃないって昨日から言ってんだろー!」
「昨日?何かあったの。」
「頭の上からアイスコーヒーが降ってきたんだよ。」
「うわぁ…」
それも嫌だな、と杉野が今度は聡平を見やる。
聡平は足元にあった雪を両手で掴み、ギュギュッと固めていた。
それを見て背後で良平もしゃがみこむ。
杉野が立ち尽くしていると、一足早く聡平が第一投を投げた。
無駄のないフォーム。体がバネのように気持ちよく伸びて、腕がしなった。
と、同時に良平が後ろにジャンプした。
杉野の右斜め後ろでぐしゃっと雪が弾けた。
「な…っ」
首をひねると、ジャンプしたまま宙に浮いた良平の右腕がない。
…ように見えたのは錯覚で、上から下へ、右の肩から肘と手首へ、体全体を効率よく連動させて良平も雪の塊を聡平に放った。
聡平はしゃがんでそれを避ける。
良平は着地。雪が跳ね上がる。
お互い見つめ合い、二人はニヤリと笑った。
「いい度胸じゃねぇかてめぇ〜…。」
「良平こそ。普段運動してない割には頑張るじゃん。」
「なめんな。」
「そっちこそ。」
パチパチッと火花が散るのと、お互いの第二投が放たれたのはほぼ同時だった。
杉野は右へ左へ、雪が溶けてしまいそうなほど闘志を燃やす二人を眺めて呆然と立ち尽くす。
すると恭平が動いた。
「いいなぁ、楽しそうだね。」
「え?!でもこれ…ケンカしてんですよ?」
「ケンカするほど仲が良いって言うだろ。」
恭平は悠長に笑って、手袋をはめた。
ど、どこからそんな物を。
「恭平さん…?」
「杉野くんはやっぱり良平がいいよなぁ?じゃ、俺聡平につこ。」
勝手に決めて、庭へ出るためのサンダルをつっかける。
少し右へよろけた。
普段は忘れてしまっているが、恭平は右足が普通の人より自由にできない。
危ないっすよ、と杉野が声をかけようとしたところ、大股1歩で聡平が近付いた。
「兄貴は雪を固める係な。」
言いながら両手で転ばないように支え、兄を自分の後ろに導いた。
「こけんなよ。」
「わかってる。」
良平は投げるのをやめていて、せっせと雪を固めている。
杉野は良平に近付いた。
足を踏み出す度にその下の雪がサクサク音を立てる。
「手伝おうか。」
一応声をかけてみる。
良平は顔を上げた。
この、見上げてくる強い瞳が好きだ。
周りの雪が太陽の光に反射してキラキラと輝いてみえた。
「狙うは聡平ただ一人だからな。」
「あいあいさ。」
「足引っ張ったらぶっ殺す。」
「自信あるよ?」
「死ぬ気でやれ!聡平は…手ごわいぞ。」
「それは良平見てればわかる…」
「明美が起きる前に決着をつける!」
「それ賛成!」
向こう側から聡平が同意した。
「じゃ、行くぜっ!!」
良平と聡平が雪投げを再開したのは同じタイミングだった。
窓の外が騒がしい。
良ちゃん、またうるさい。
…聡ちゃんもいるな。同じような声が2つ聞こえる。
何してるんだろ。
明美はもぞもぞと布団の中でもがき、手を突いて起き上がった。
眠い目をこすり、カーテンを開く。
隣の家の屋根は、真っ白に輝いていた。
よく見ると世の中全体が白銀だ。
明美は目を輝かせ、逸る気持ちを抑えてスリッパを履いた。
カーディガンを引っ付かんで部屋を飛び出る。
「兄さーんっ!雪、雪、雪ー!!」
階段を掛け降りると、誰もいない。
明美はすかさず庭に面した窓を開け放った。
「兄さんっ?」
ヒュンッと空気の裂ける音が耳元で弾ける。
わっと悲鳴を上げてしゃがみ込むと、恭平の声がした。
「はい、やめやめやめ〜。」
見上げると鼻を赤くした恭平が笑って立っていた。
肩に雪が乗っている。
白い粉にまみれた手袋を外し、明美に手を振る。
「おはよう、明美。」
「うん…。何してるの?」
「雪合戦?」
「本当はこんなもんじゃねー。」
声に振り返ると恭平以上に雪まみれの良平が服をパンパンと払っていた。
その横で聡平が雪の塊を右から左へ手の中で転がしている。彼もまた、良平に負けず劣らず雪まみれだった。
「…激闘だったのね?」
他に言葉が見つからない。
杉野が派手にくしゃみをした。
「聡、お前すっげー固いの作ったろ。かなり痛かったぞ。」
「だろ?」
「誰に聞いた?」
「サークルの先輩。」
「俺にも教えろよ。」
「えー。どうしよっかな。」
「映画の半券やるから。」
「…まじで?」
「見終わったやつだけど。」
「使えないじゃん。」
だが聡平はしゃがんで雪を掴んだ。
良平もそれに倣って雪を集め始める。
杉野はもう一度くしゃみをし、明美のいる縁側にやってきた。
「先輩が一番雪まみれだね。」
「…やっぱ?」
杉野は首を振って頭の雪を払い落とし、明美の横に座り込んだ。
息を弾ませた恭平もやってきて、少し離れて縁側に腰掛けた。
「こんなに雪が積もったのなんて、何年ぶりかな。」
「良ちゃんたち、楽しそうー…」
明美は双子の兄を眺めながら言った。
二人は雪を固めて、至近距離で投げつけあって反射神経と雪の固さとを勝負している。
雪が良平の額に当たり、聡平が声を上げて笑った。
当てられた良平も、今日は怒らずに笑ってしりもちをついている。
くだらないなあ、と明美は思う。
傍から見れば子供っぽい小さなことでも、彼ら二人が真剣にやり合っているとなんだか羨ましく思えてしまうのだから不思議だ。
「明美も雪合戦やりたい。」
「えっ。やめとけよ〜…良たちの投げる球、結構痛いよ。」
あまり当てられていないはずの恭平が言った。かなり当てられた杉野が横で何度も頷く。
「じゃあ雪だるま作りたい。」
「それなら、まあ…。良平に聞いてみ。」
「良ちゃーん!」
良平の名を呼んだのに、良平と聡平は二人同時に振り向いた。
***
◇後書き
リクエストありがとうございました。
今年は普段雪が積もらない地域でも積雪しましたよね。関東在住のぷゆは、それこそ年甲斐も無く大喜びしましたよ(*^3^*)通学途中にある家の庭に2つの雪だるまが作られていてなんだか微笑ましくなりました。佐久間家の庭にも可愛い雪だるまが座るといいです(*´∀`)
これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
四年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m
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