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◇良平&聡平の双子デュエットライブ
「聡平は歌わねえのかなあ。」
2杯目のアイスティーをストローですすりながら、岡田瑞樹は良平に言った。
カラオケボックスの中で、良平は選曲リモコンから目を離した。
瑞樹を見る。
「…あ?」
「聡平は、歌わねえのかなあ。」
「聡平?」
良平は片眉を釣り上げて瑞樹に顔を近付けた。瑞樹が頷く。
隣ではトーコが少し線の細い声で椎名林檎を熱唱している。
部屋は薄暗く、赤や青の照明がチカチカしていた。
「お前聞いたことあるか?聡平の。」
「しっかりとはねえけど…音楽の授業とか?」
「そんなんじゃなくてさあ。聞いてみたいな。」
「…どうせ俺と同じだぜ?」
「それならそれでいいんだよ。」
「あっそう。」
良平は興味をなくしてリモコンに目を戻した。
瑞樹は携帯をいじり始める。
「なんで急に?」
「今度のライブで、良平とハモったら面白いかなあと。」
「あいつ楽器できないぜ。」
「だから、歌。」
「……やんないと思う。少し前に、人前で歌うことについて感心されたもん。それに…」
「説き伏せる。とりあえず呼び出そう。」
「ごーいんだな。」
「まーね。」
瑞樹は笑って部屋を出た。
ほどなくして。
瑞樹に引きずられるように腕を組まれた聡平がやって来た。
「来たよ〜ん!聡平連れてきた〜!」
瑞樹が上機嫌に声を上げる。
その横で聡平が迷惑そうな顔で目をそらす。逃げようとする肩を瑞樹が強引に引き戻した。
マイクを握っていた良平もタンバリンを持っていたトーコも、そしていちごのパフェを食べていた祐也も一瞬フリーズ。
「…えー?!聡平くんっ!」
トーコがいち早く立ち上がって席を譲った。
「や、なんで呼ばれたのかイマイチ…。すぐ帰るから。」
「なんでー?一緒に歌おう?」
天然なのか計算なのか、トーコが笑顔で自然な流れを作った。
にやりと瑞樹がほくそ笑む。
「そうだぜっ!聡平!」
「つーか岡田、お前なあ…」
そう言いつつ目線は良平を捉え、どーいうことだよっと睨んでくる。
良平はとっさに、何故かにやけた。
「俺らじゃ似たような曲ばっかになってさー。たまには新しい風をって瑞樹が。」
「そうそう!」
良平、ナイスフォロー!
「はあ?勝手になんでも歌えよ…」
聡平は呆れ顔を作り、扉に向かってターンした。
すかさず両脇から良平と瑞樹が腕を掴んで引き戻す。有無を言わさずソファーに沈ませた。
「なっ…」
「ご所望は?ご主人様。」
「ミスチルでもコブクロでもなんでも取り揃えておりますよ。」
良平と瑞樹は何故か腕まくりをし、聡平に影を落とす。
口元がニヤリと光り、完全に楽しんでいることがわかる。
聡平は若干怯えながらも平静を装って足を組む。
「取り揃えてんのはココの経営者だろ…」
「つべこべ言わない!」
瑞樹は収録曲リストの書かれた分厚い本を聡平の胸に押し付けた。
イントロが流れる。
「EXILE…」
「…なんか文句あんのか?歌えって言ったの岡田だぜ。」
感心したように呟いた瑞樹に、聡平は疲れた顔をした。
反対側の隣に座った良平も同じ顔で瑞樹を見た。
何か言いたそうだったが、無視して瑞樹は聡平に目をやる。そしてポケットから煙草を取り出して人差し指と中指の間に挟んだ。
「お前こういうのが好きなんだ。」
「悪いか。」
「てっかりコブクロとかミスチルとかそういう路線かと。」
「聞くのと歌えるのとは別なんだよ…」
聡平は画面を見たままマイクを構えた。
自然と足を組んでいた。
瑞樹がライターの火を灯した。
聡平の歌声は、真っ直ぐにマイクに吸収された。
良平より音程がふらつき、音域も狭いようだが、直そうと思えば練習次第で修正できる程度だ。
初めて良平の歌を聞いた時の興奮みたいに、瑞樹は体内の血が騒ぐのを感じた。
他の人がなんと言おうと、瑞樹は彼らの歌声が好きだった。
「祐也、マイク。」
瑞樹は祐也に言ってマイクを取り、トーコとひそひそ話をしていた良平に押し付けた。
脇のくすぐったい場所に当たったのか、良平が反射的にニヤけながら反り返った。マイク、瑞樹の順に睨む。
「ぁにすんだよっ!」
「良平も歌えって。」
「…あ、あぁそうだった。」
良平はマイクを受け取る。それを見て聡平が固まった。
狙いはこれか、と遅ればせながら悟る。
戸惑う聡平の目を一度見て、良平は息を吸った。
同じ歌詞を聡平の音程に揃えて歌い出す。
瑞樹はおろか、聡平にもわかった。
良平の声が音程の全てをさらっていく。
揺れていた聡平の声までも、一音も狂わなくなっているような錯覚に陥る。
息がピタリと合うと、良平は片目を細めて悪戯に微笑んだ。
次の拍で、聡平をメインパートに残したまま、和音を紡いだ。
…ハモっている。
聡平はマイクを落としそうになった。
スピーカーから通して聞こえてくる二重螺旋の音声は、自分と良平の声だとは思えなかった。
背中がジワジワと汗をかく。
良平は調子に乗ってきたのか、悦に入った視線を遠くに投げながら聡平の肩を掴んだ。
祐也とトーコが呆然と二人を見ている。
岡田は、と隣の瑞樹のことが少し気になったが、聡平は急に恥ずかしくなって目を閉じた。
もう、このまま最後まで歌うしかない。
いつも聞いてる音程で歌っていればあとは良平がなんとでもフォローしてくれる。
それだけは信じられた。
良平が、聡平を、押し上げてく。
「ああーっ!ひっさしぶりに鳥肌立ったーっ!」
歌い終わった後、瑞樹は立ち上がって叫んだ。
トーコも祐也も拍手を送ってくれた。
聡平は目の前がチカチカしている気がして瞬きを繰り返した。短時間で絶頂に達したような、妙にすっきりした気分になる。
良平も同じだったのか、聡平の肩から腕を離して笑った。
「同じ声がもういっこあるって便利だわ!」
「物みたいに言わないでよ。」
「まじで。まじで。良かっただろ?」
「……ん、まあ……」
「じゃぁ決まり!」
おもむろに瑞樹が手を打つ。タバコを灰皿に押し付ける、その仕草に聡平は嫌な予感がした。
何が決まりなのかわかりやすく説明してほしい。
「今度のライブ、良平と聡平のツーボーカルで。」
「…は?!」
「練習は週2回な。」
「やだよ。」
「大丈夫、練習すればお前はうまくなる!な、良平!」
「うん、それは絶対。教えんの上手い奴知ってるから紹介するよ。」
「いや、だからヤダって。おい聞いてるか?!」
「あー、次のライブが楽しみだなーっ!」
聞いちゃいない。
聡平は半目で口の片側を釣り上げた。
肩からジャケットがずり落ちる。
彼らの勝手な言い分や羽目を外した行動は今に始まったことではないが、いちいち付き合ってられはしない。
聡平は良平のスネを蹴っ飛ばし、一目散に走り出した。
「いってぇーっ!!」
良平が悲痛な叫び声をあげた頃には、既に部屋に聡平の姿はなかった。
***
◇後書き
流星さま、リクエストありがとうございました。
デュエットライブ、というよりデュエットカラオケになってしまいましたが(^^;) お陰様で初めて二人で歌うことができたようです。本番のライブで二人の二重唱が見られるかは、また別のお話で…!ちなみに、聡平くんがなぜ歌わないかには少し理由がありますが、それも、いつかまた(*-v-)
これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
四年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m
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