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◇良平くん「聡平は俺のものだ!」
高校時代、初めに恋人ができたのは、良平だった。
相手は誰もが予想しなかった、2つ年上の先輩の、しかも男だった。共通点は何もなく、ただ一方的に彼に好かれた良平は幸せだったのかどうなのか。
外から見ていた聡平には、半ば強引に半身をもぎ取られたような気がしていたが、結ばれたことに照れくさそうに笑う良平を見たら何も言えなくなった。
彼が杉野拓巳という人間を真っ向から認めて付き合っているのは一目瞭然だったからだ。
「俺は認めないぞ。」
なのに、良平は言った。
聡平に高校では初めての彼女ができたその当日に。
「俺は、認めない。何度も言うけど、嫌だからな。」
「…。」
勝手なことを言ってるんじゃないよ。
先に俺から離れたのはお前じゃないか。
そんな考えが脳裏をよぎる。
「こら良平、お前が決めることじゃないだろ。聡平が選んだ彼女なんだから、お前も仲良くしなきゃ。」
隣で兄が良平をなだめている。
しかし、そんなもので今の良平は黙らない。
「聡が選んだわけじゃないんだぜ?どちらかというとあっちがお熱なんだよっ。教室でもしょっちゅう色目使っててさ!」
「お前、聡平とクラス違うだろ。そんなに見てるのか。」
「…わかるんだよ!そういうのは!」
いつもながらに勝手な理屈である。
しかしおそらく嘘を吐いているわけではない。本当にそんな気がしているのだ。
聡平も感じたことがないわけではない。
本当は数ヶ月前から気付いていた。もしかしたらこの子は俺のことを好きなのかもしれない、と。
知らぬふりを続けてきたら、告白された。それだけのことだった。
「でも聡も好きだから付き合ってみようと思ったんだ。そうだろ、聡平?」
「ああ……まあ。」
「煮え切らない返事だな。」
「いや、好きだよ。可愛いし。」
「可愛い?!可愛けりゃいいのか?」
「なんなんだよ…性格も悪くないよ。」
「メールは?電話は?」
「は?…するよ。そりゃな。でもそれは付き合う前からしてるよ。」
「これからはもっと頻繁になるんだぞ。土日も関わらずメールくるぞ!」
「お前だって杉野先輩とやってるだろ?」
「今はあいつの話ではない!俺と聡平の話をしている!」
「何、ガイジンみたいになってんの…」
恭平が笑った。
彼にとっては他人事であるから、まぁ仕方ない。
問題は良平である、と聡平は初めからわかっていることを再認識した。
「良平、待てよ。なんだ、俺とお前の問題って。それこそこの問題には関係ないよ。彼女は俺たちには関係ない。」
「当たり前だ!関係あってたまるか!」
「…何焦ってんだ?」
「だってお前、彼女ができたら夜帰ってくるの遅くなるだろ。そしたら兄貴がいない時の夕飯はどうすりゃいいわけ?一人で寝るときは?土曜日、朝起きられなかったら?日曜日のちびまるこちゃんは?!俺の立場はどーなるよ!」
「…いや…どうもならないよ。」
「いいや!お前はどこか冷たいから、俺のことなんてきっと忘れる!どっちが大事なんだって問題にきっとなる!!」
「はぁ?じゃ、お前は杉野先輩と俺と、どっちが大事なんだ?」
「お前に決まってるじゃん。」
「………。あ、そう…。」
「俺はお前!お前は俺!…そうだ、お前は俺のものなんだから、勝手なことすんな!!!」
「え?なんだって?」
すかさず恭平が聞き返した。
呑気な口調が笑えてさえくる。それくらい、間の抜けた声だった。
「だから、聡平は俺のものなの。だから勝手なことは許さないって話なの!!兄貴は黙っててよ、ややこしいからっ!」
いや、ややこしいのはお前だよ、良平。
キャハハハハハハハ!
明美の笑い声がお茶の間に響く。
良平は相変わらず機嫌の悪い顔をして、お茶碗を突いている。
聡平は恭平が明美に話すこれまでのいきさつを、右耳から左耳へ流すように聞いていた。
「あは、あはははは…!ひ〜。聡ちゃんも大変だね、モテモテで☆」
「…。」
「良ちゃんも、早く彼女作ったらいいんじゃない?」
「彼女なんていらねぇ!」
「へ〜?一生、聡ちゃんと生きてくつもりってこと?」
「きもいこと言うなっ!」
「え〜?だってそういうことよね、兄さん?」
明美が目に涙をためつつ兄を見る。
困ったように、恭平は唇を歪めた。笑いを堪えているのは間違いない。
恭平の微妙な表情を見て、良平は少し焦ったようだ。
忙しなく目線を泳がせて、聡平、恭平、明美と交互に顔を見た。
「だからぁ、言いたいのは、俺は聡平があの女と付き合うのは反対だって話で…」
「あの女とか言うなよ。」
「だって。あの女じゃん…」
「良ちゃんってさ、昔っからそうだよねー。中学は知らないけどさ、小学校の時とか、一緒に遊んでた女の子の中で、聡ちゃんに好意を持ってる女の子を特にいじめたりしてさ。」
「え?!」
「幼いながらに明美、あ〜、って思って見てたんだよ。」
「はぁ?…そうだったか?」
「大体、独占欲が強すぎるんだよ良ちゃんは。ある程度は自由にしてあげないと聡ちゃんが可哀想だよ。」
そうだったのか。
それは、聡平も知らなかった。
自由に恋愛もできないなんて、そう考えると少し可哀想かもしれない、俺…。
「ばぁか!そんなことねぇよ、なぁ、兄貴?」
「うぅん…。そう言えば、俺の着なくなったTシャツとかズボンとかを、お下がりで譲るとき、良平には1枚でもあげられるのに、聡平には2枚ないとダメなんだよなあ…。」
「え、どういうこと?聡平2枚も着るってコト?」
「違うよ。良平、お前が欲しがるんだよ。聡平だけにやると、お前、泣くんだもん。」
「…。」
さすがの良平も口を開けたまま、言葉が出てこない。
「最悪な時は、聡平から取り上げちゃったりして。だからいっつも2枚用意してたよ、母さん。」
「…。」
「完全にジャイアン理論ね。」
明美が呆れたように言った。そしてまた、声を堪えきれずに笑い出す。
もっともだ。
おそらく良平自身も、顔面を蒼白にしていたから、そう思ったに違いない。
聡平はこれまでのことを思い返してみた。
思い当たる節はある。
聡平よりも自己主張が激しいようだから全て任せている、というつもりでいたが、いつの間にか、良平は聡平自身のことまで主張するようになっていたのか。
聡平はもはやどうでもいい、という心境になっていた。
付き合い始めた彼女とは、もちろん仲良くやりたいが、良平の勝手理論に抗うパワーも今のところ湧いてこない。
それはそれで問題なのかもしれないが、いずれ彼の熱も冷めるだろう。
いつまでも今のままではいられないのだと、良平が自分で気付くのを待てばいいのである。待つ自信はある。
しかし意外と早く、その転機は訪れた。
兄の恭平が、こともあろうにこれら一連のエピソードを父親に話したらしいのだ。
良平は、明美ほどではないが父の孝平が苦手である。
中学生まで全力で反発していたから後には引けなくなっている、という意地も伺えるほどだ。
その苦手な父に、したり顔で囁かれたらしい。
「大丈夫。父さんは味方だからな。」
その時の良平の表情は、情けないったらなかったらしい。
恭平が言っていた。
天の母も思わずお腹を抱えてしまうんじゃないかってくらい、泣きそうな顔をしていたそうだ。
それから、良平が聡平の彼女についてあーだこーだ言ってくることはなくなった。あっけないほどあっさりと引いたものだ。
なんだ、そんな程度か、と聡平が少し残念に思ったことは、まだ誰にも言っていない。
しばらく離れていると、良平が時折聡平のベッドに忍び込んできて眠ることも、おそらく誰も知らないだろう。
少なくとも聡平は、今までもこれからも誰にだって話すつもりは、ない。
***
◇後書き
リクエストありがとうございました。
良平くんの独占欲のお話でしたが、聡平くんも満更でもないというか。内心、そうでなくっちゃと思っている節があります。本心を言う子ではないので、本当のところはわかりませんが。じゃれてくる良平くんを、迷惑だとは思ったことのない聡平くんです。いつまでも二人一緒に生きていきたいのはお互い様のご様子です(*^-^*)v
これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
四年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m
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