▼エロポイントで10題
└8.腰
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「腰、いてぇ…。」
朝の満員電車に乗りながら、良平は痛む腰をどうにか楽にしようともがいていた。
「…ご愁傷様。」
たまたま同じ時間の電車に乗った聡平が、刑法と書いた参考書から目を離さずに言った。
「もっと優しい言葉ねぇの?」
拗ねたような良平の口調に、聡平は少し考えるフリをして、なるべく優しそうな口調で言い返した。
「かわいそうに。どうしてそんなに痛くなったの?」
「…。うるせぇ。」
「お前ね。どうしろって言うんだよまったく。」
聡平は溜息をついて参考書に目を戻した。どうせ昨日杉野先輩とヤることヤってたに違いない。
「…っあ!」
満員電車の中で、聡平のすぐ近くまで流れてきた良平が呻いた。
人の波に潰されてどっか打ったのだろうと、聡平は気にせず聞き流した。
しばらく黙っていた良平が、動く手で何とか聡平の腕を掴んだ。参考書が手から滑り落ちそうになる。
「おい!何す…」
顔を上げて良平を見て、言葉が消えた。
良平は顔を青くして、何かを訴えるようにして聡平を見ていた。
「…な、なんだよ。」
「あ、あれ。あれだ。」
「はぁ?」
聡平の手を掴んだ良平の手が微かに震えている。
腹痛でもおこしたのだろうか?
聡平は首を傾げて、良平の方に近づいた。
良平は今にも声を上げそうなほど眉根を寄せて、何かに耐えている。
「何?腹でも痛いのか?」
「違う、違う。あれ、あれだよ…!あ…ッ。」
「情けねぇ声出すなよ。」
「馬鹿、馬鹿。ち…。」
良平は聡平の耳に顔を近付けて、なるべく他の人に聞こえないようにして囁いた。
「痴漢…。」
聞いた聡平は、噴出しそうになったのを必死に堪えて口を手で塞いだ。
「ま、マジかよ。」
「ほんと。ほん…ッ。腰。尻と腰…ッ。」
普段感じる尻よりも、昨日の今日で痛む腰の方が気がかりらしい。
「しかたねぇなぁ。どいつだ。」
「後ろ、右後ろ…ッ。ぅ…ん。」
結構気持ちいいんじゃねぇかコイツ。
そんな気すら感じさせる声をなんとか我慢して、良平は額に脂汗を浮かべていた。
聡平はチラリと良平の後ろを伺って、見るからに鼻の下を伸ばしている40代くらいの男の顔を発見した。
男のケツ触って何が楽しいかね。
「あのー。嫌がってるんですけど、やめてもらえませんかね。」
聡平は臆することなく、その男に話しかけた。
驚いて動揺するその男。
周りの数人が、聡平を見てから聡平の目線の先にいるその男のことを見た。
「今、こいつ腰、怪我してるんですよね。鞄とかが傷に当たって痛いらしいんです。そこにあるもの、どかしてもらえます?」
そこにあるもの、イコール手だろうけど。
目の前にいた良平の顔が、ほっとしたように安らいだ。
目的の駅に着いて、良平は聡平と一緒に電車を降りた。
「サンキューな。あーもう参った。だから満員電車は嫌いなんだ。」
「モテモテだな。」
「嬉しくねぇよ。お前も気をつけろー。」
「お生憎様。俺は腰すら触られたことありません。」
聡平は参考書を鞄にしまって、ニヤリと良平を見た。
「じゃ、感謝の印として、どうして腰が痛いのか、説明してもらおうか。」
「…?!」
良平の顔が見る見るうちに紅く染まっていく。悔しそうに聡平を見た。
「どうでもいいだろ!」
怒鳴りつける良平をからかって、聡平の質問は次の電車が来るまで止むことがなかった。
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