▼衣装指定15題
└06:バニー


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カラオケ屋でバイト。
よりによって選んだ時期がクリスマス前だったため、良平は街頭でのチラシ配りを任された。
サンタの赤と白の服を着て、行き交う人にカラオケやりませんかと声をかけるのだ。
そこまでは、まだいい。
「あ。」
良平に着せる服をダンボールの中から探していた店長のこの一声に、良平は嫌な予感がした。

「男子用の、もうないや。良平くん、君ちょっと華奢な顔だから、」
「嫌です。」
「…まだ、何も言ってないけど。」
「本能が否定しろと告げています。嫌です。」
「…女の子サンタ?」
「い・や・で・す。」
思った通りだ。
良平は断固として口を結び、これでもかというくらい首を左右に振り続けた。
「しょうがないな〜…。あっ、じゃあ、これは。」
「…なんすか?」
「トナカイ。」

…。

まあ、悪くないかも。
「ああ、いいっすよ。」
「じゃ、なかった。ウサギ。」
「…は?サンタにはトナカイでしょう。ってかウサギにソリ引かせるの無理だし。」
「だーかーらー。男子用の、もうないって言ったじゃん。女子用ウサギ。」
「…まさかとは思いますけど。」
「着ぐるみ、ではないよ。」
「お断りします。」
「あはっ。さすがに客も引くかなー。」
「ガン引きに決まってます!」
「じゃあ、せめて耳だけでもつけて。クリスマスムード出ないでしょ〜?」
「…。俺、今日限りでやめ」
「給料分働いてからにしてね。ハイ、これ。」
敵を惹きつけないくらいの無敵の笑顔でニッコリと微笑んで、店長は良平にウサギの耳を手渡した。
ふわふわで、まっすぐに伸びた黒い耳。

どの面下げてこんなもの付けろって言うんだっ!

良平がわなわなと震えていると、短期の募集だったので一緒に応募していた杉野がサンタ姿で、控え室にひょっこりと顔を出した。
「良、まだ服決まんないの?ってまだ全然着替えてないじゃ…」
杉野の視線が、良平の手の中のものの前で止まった。

血の気の引く音が、良平の体内でしたような気がした。

「付けてっ!良平、それ付けて!すぐに付けろ!今すぐ付けろ!」
「い、いやだっ。」
「店長命令だろ。付けろ。マジ。」
真剣な台詞とは裏腹に、杉野の目の奥は妖しく輝いている。

「ぼけが!絶対やらないっ!」
「いいのかなあ〜?そんなこと言って。」
「な…。」
「男・良平、21歳。バニーちゃん初体験。やっとくことはいいことよ。」
「……。」

良平は目を閉じて、青いんだか赤いんだかわからない表情を杉野に向けた。
杉野はニヤニヤとして、良平が葛藤し終えるのを待った。

「よし。」
来たっ。

「一時間だけだ、やってやるぜ!!」
「やったー!」
「やったあ?」
「いやっ、それでこそ良平。男の中の男だ!」
「よしっ。」

杉野の巧みな誘導によって、その日、良平は一日中ウサギの耳を頭に付けて、カラオケ屋の店頭に立っていた。


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