▼衣装指定15題
└11:特攻服
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友人に酒井という女子がいて、奴は、高校を卒業したら自衛隊に入ると言った。
「忙しくなるからさあ〜、良平と遊べるのももうこれが最後かもしれないよ。」
酒井は明るく笑っていたけど、正直俺は複雑だった。
気の合う友人が減るかもしれないのは、寂しい。
「そんなことねぇよ。また遊ぼうぜ。」
「どうかなぁ〜。」
「大体、なんでお前が自衛隊なわけ。」
「ははっ。確かに。」
酒井はまた笑って、昔からずっと流れている川の流れに逆らうように、小石を投げた。
バシャンッと水飛沫を立てて、小石が沈む。
酒井とは中学の時、喧嘩仲間とよく行ったゲーセンで出会った。
女にしては喧嘩っ早くて、でも腕力では男に敵わないから逃げるのも早くて。
よく真島っていうおとなしめの女と一緒にいたような。
掴みにくい奴だったけど、高校に入ってまで顔を合わせることになろうとは思ってなかった。
中学の頃つるんでた奴等は、瑞樹以外とは手を切ったし、連絡も取っていなかったから。
俺にしては猛勉強して、あの聡平と同じ高校になんとか入れたわけだから、そんなところに酒井がいたのが驚きだった。
てっきり勉強はできないものだと信じていた。
「よく、中学から喧嘩したりして遊んだじゃん。何度か良平と瑞樹には助けてもらったし。」
「ああ…あったな。」
「高校に来てまで、あんたたちと一緒になれるとは思ってなかったよ。楽しかった。」
「…なんだよ、急に。」
「真島ちゃんって、いたじゃん。覚えてないかなぁ…おとなしくて、喧嘩なんか全然できなくて。」
「ああ、いたな。よくお前が一緒にいた。」
「そうそう。あの子…病気になっちゃった。」
「…え?」
「あの子、どうもあんたのこと好きだったみたいよ。」
「…。」
「もう外に出てはしゃいだりはできないだろうって。かわいそうじゃん〜。」
酒井は初めて目をそらし、頭の後ろで手を組んで草の上に寝そべった。
青く澄み渡った空に、薄い雲がぽつりぽつりと浮かんでいる。
「あたしが自衛隊に入ろうと決めたのは、それ聞いてから。真島ちゃんの分まで、命懸けて生きなきゃって思ったんだ〜。」
「…ふーん。偉いじゃん。」
はっきり言って、真島という女のことはほとんど覚えてない。
話したこともないと思う。
「そだ…」
「あん?」
「前に迷彩服着てたじゃん。あんた。」
「え?」
「特攻隊みたいな…」
「…どうだったかな。」
「着てたよぉ。途中から、やめたみたいだったけど。」
「目立つからじゃねぇ?」
「他人事みたいに…。あれ、まだ家にある?」
「もうねぇよ。捨てた。」
この言葉に、酒井は少し寂しそうな顔をした。
「そっか…そうだよね。あれ、好きだったのに。」
「…自衛隊に入れば、普通に着られるだろ。」
俺は、酒井の言いたいことの真意がいまいちよくわからなかった。
俺が一番見境のなくなっていた時の服なんて、どうでもいいじゃないか。
「自衛隊に入ろうと思ったのはね、もう一つ理由があって。」
「…へぇ?」
「真島ちゃんの好きな良平の…いや、あたしも好きだったあの頃の良平の、一番似合う服があの服だったからなんだ。」
「…はぁ?」
「馬鹿やって喧嘩ばっかで…それでも、何かを探してるって感じで。すごいかっこよかった。近付いたら壊されそう、でも近付きたい…みたいな。」
…褒められてる気がしねぇ…
自衛隊より詩人になりなさい、酒井サン。
「あたし、あの時の良平みたいにかっこよくなるまで帰って来ないから。」
「どうぞ、ご自由に。」
「だから…帰ってきたら、一皮向けたあたしとまた会って。良平が結婚してても、借金にまみれてても、またあたしと会ってほしいの。」
「…結婚して借金まみれって、俺はどんな風に見られてんだ、馬鹿。」
「ふふ。」
俺はむすっとして言い返したはずなのに、酒井は楽しそうに目を細めて笑っていた。
まあ…いいか。
「杉野先輩と仲いいんでしょ?あの人、いま元気?」
「…この前大学出たとこで自転車で2ケツしてたら、警察に捕まったらしいぞ。」
「ぷははは!先輩らしい〜!」
酒井の笑い声は中学の頃と変わりなく、明るく済んだ空に響き渡っていた。
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