▼Under Title 15
└03:舐めて
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良平は酒乱だ。
あまりに飲みすぎると、壊れる。
普段から想像もつかない程、甘い声を出すようになる。
しかも、誰彼構わず。
「み・ず・きぃ〜。」
「…。」
酔いも吹っ飛びそうなほど甘えた声を発して、すがり付いてきた良平をペイッと避けて瑞樹がぐいっと酒を飲み干した。
ころんとこけた良平は、ぼやっとした表情のまま周囲を見渡して、その視界の中に再び瑞樹を捕らえた。
「みずきぃ〜。ろーして、逃げるろ?」
「逃げてねぇ。お前が変な方向に飛んでるんじゃねぇ?」
「ほーかな…?じゃあ、もっかい。み・ず・きぃ〜。」
何度やっても同じことだ。
迫ってきた良平をひょいと避けた瑞樹は、さすがに酔いの回った目で時計を見上げた。
杉野拓巳が帰ってくるまで、あと40分程度。
「おれ、飲みすぎたみたぁ〜い。」
「そうみたいだねー。」
「ね、みずき。みずきは普段、どんなえっちすんの?」
「ぶっ。」
酔いまくった良平の相手をするのも慣れきっていた瑞樹も、これには驚いて飲みかけの酒を吐き出しそうになった。
ああ、これだからこういう奴は手に負えないんだ。
悪乗りして飲ませすぎたと一人後悔する岡田瑞樹。
「ねぇ〜、どんなえっちすんの?コーフンする?」
「…そーですね。」
とりあえず、無難に流すことにした。
杉野拓巳の帰宅まで、あと38分。先輩、早くっ。
「トーコってみりょくてき?」
「…そーですね。」
なんで彼女のことをこんな酔いまくった奴に言わねばならんのか。
「おれと、どっちが、みりょくてき?」
「…そーですね。…って、オイ。」
さすがにこれは聞き流せなかった。
「おれ、これでもけっこー体型に自信があるんらけど。ね、みずき。」
「…なに。」
「舐めて。」
…。
「キス、しようか、瑞樹。」
…。
せ ん ぱ い は や く ・ ・ ・ !
「ね。舐めて。」
「…おい、良平。いい加減に…」
「あ、逆がいい?おれ、舐めるほうでもいいよ。やる、やる。」
「やるな!…て、こらーっ!!」
目を閉じて迫ってきた良平を必死の形相で避けて、良平の頭にチョップを食らわせた。
「目を覚ませ!俺は瑞樹で、先輩じゃねぇんだ!」
「…せんぱい?」
「杉野、拓巳。」
「…え〜っすぎの?すぎの〜★」
へらっと表情を崩して幸せそうに笑う良平に、瑞樹はがくしと肩を落とした。
あああ、この酒乱めっ。
「じゃあさ、良平は、普段先輩とどんなエッチすんの。」
「ん〜?それはね、」
「うん。」
「まずね、あいつがね、おれにキスしてきてね、そんでね、服をね、脱がすの。」
「ほうほう。それで?」
「それでね、おれのね、ほっぺとかね、首とかね、ここ、とかね。舐めるの。」
ここ、の部分で胸の辺りを指差した良平に瑞樹がニヤリと笑った。
「どこ?」
「ここ。」
「言わなきゃわかんないよ、良平。」
「んーとね。ちく…」
「瑞樹ーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!」
あ、帰ってきた。
コンビニの袋と鞄を両手に持って、鬼のような形相で家の中に駆け込んできた杉野拓巳は、帰宅で胸を撫で下ろすこともできない。
靴を脱いで、そのまま瑞樹の方向へ投げつけた。
「な、なんてことを!なんてことを!良平になんてことさせてるんだてめぇはっ!!」
「いてぇ!しらねぇっすよ、こいつが勝手に酔っ払ったんすから!!」
「良平のえっち話を煽ってんじゃねぇよっ!」
「だって面白いんだもん!」
「もん、じゃねぇ〜っ!!」
「あ、杉野だ。おかえりぃ。」
のほほんとした良平の声で言葉を止め、杉野は良平の方を向いた。
顔を真っ赤にして、普段絶対に見せないぽやんとした間の抜けたような表情をしている。
「たっ、ただいま。」
一瞬くらりときたことを瑞樹に悟られまいと、平常心で答える杉野。
だがしかし、次の発言で彼は壊れることを覚悟しなければならなかった。
「杉野…。舐めて。」
「ぐはっ。」
「俺、帰りま〜す。」
そそくさと抜け出そうとする瑞樹の胸倉を掴んで、良平から遠ざかった杉野は、充血した目で瑞樹に言った。
「て、てめぇ、何を飲ました。」
「日本酒。」
「…。よ、」
「…。」
杉野がちらりと良平に視線を投げ、瞬時に瑞樹を見直した。
顔が赤くなっている。
「よ、よくやった!」
「褒められて光栄です。では、これにて俺は。」
「不本意だが、今度飯をおごってやろう。」
「遠慮なくいただきます。」
瑞樹の台詞に、少し離れていたはずの良平が、反応した。
「いっただっきまーす!杉野!食べて〜♪」
余りの発言に絶句する杉野を冷静な目で見つめたのを最後に、瑞樹は玄関を出て行った。
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