▼Under Title 15
└08:快楽


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快楽に溺れるのは簡単で、抜け出すのにはそれの数倍の努力が必要だ。
そんなこと、野田と知り合うまでは知らなかった。
セックスがこんなにも甘いもので、全身を支配し合うことがこんなにも、気持ちのイイことだなんて。
今でもこんな風になった自分が信じられない。

「杉野はな、体格ええし顔もまあまあやし、それでセックスうまかったら絶対好きな人落とし損ねることなくなるで。」

彼は独特の笑顔で、そう言った。
もうだいぶ前のことだ。
その時はこんなことを言った野田自身が俺に興味を持っているなんて露ほども思わなかったし、こいつは冗談ばかり言って人を笑わせるのが得意な奴だったから本気になんて全然してなかった。
俺が2人にフラれたからって、そんなことを言って励ましているものだと思っていた。
フラれたのだって、俺が悪いんじゃないのにさ。
てかセックスが下手だってどうしてお前なんかに言われなきゃなんないんだ。

そう思ってたから、奴のことみくびってた。
経験豊富な野田は俺のことをうまくリードしてくれて、なんだかんだですっごいいっぱい経験させてもらったような気がする。
今の恋人・良平には口が裂けても言えないけど(良平はウブで純粋だから)、俺は中学生にしてセックスの気持ちよさを知ってしまった。
昼間はクラスで馬鹿やって担任をからかって。
夜は野田とずっといけないことしてた。
いけないってわかってるけど、わかってるからこそ夢中になった。
文字通り、溺れていたんだろう。

正気に戻ったのは、野田と初めて喧嘩したとき。
進路のことで、意見が合わなかった。
俺は成績もよかったしもちろん進学を望んでいて、野田は勉強なんてもうこりごりだから働きたいと言った。
進路が一人一人違うことなんて当たり前のことなのに、今から思えばかわい過ぎて笑ってしまうような内容の口げんかをして、そのまましばらく口をきかなかった。
長いこと身体を交えないことは久しぶりで、喧嘩をしているのに無償に会いたくなるときもあった。
今なら、謝って、謝って、機嫌を取って仲直りする自信がある。
良平とこんなにも長く続いているのは一重に俺の涙ぐましい努力の賜物だ。

だけどその時はどうしてもできなかった。
つまらない意地を張って。

溺れたように求め合っていたあの頃がなつかしくなる時もあったが、それは野田も一緒だったらしい。
別れた後もしばらくは野田の存在を引きずっていた。
高校に入ってからも何人かと付き合ったけど、どれも俺の気持ちが長続きしなかった。
付き合ってと言われれば付き合ったけど、どうしても野田と重なってしまう。
このまま溺れてしまったら野田のような存在が二人になるのかと思うと、面倒で億劫で前にいけなかった。

半ば恋愛に疲れたどこかの遊び人みたいになって、このまま俺は大人になるのかーなんて思っていた高3の春。
俺は自分でも驚くほど、運命的な出会いをした。

「100考えるより1動いたほうがよくね?動いてきたあんたは間違ってないでしょ。」

そう言って無邪気に笑った俺より2つも年下の彼は、やたら偉そうで、圧力的で、さらに喧嘩大好き人間だった。
確かこの台詞は俺がいたずらばっかやっては職員室に呼ばれていた過去を知って良平が漏らした台詞だったが、このとき、俺の中では野田との過去のことが一気に清算されたような気がした。

考えるよりも動いた方が。
実に良平らしい意見で、彼の生き方をそのまま象徴しているようだった。
彼となら、また快楽に溺れてもいい。
きっと良平なら、溺れた俺をその自信に溢れた両腕で救い出してくれるに違いない。
そう、思った。


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