▼リクエスト小説
└3位:高校生恭平


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「兄貴ー。弁当。」
大あくびをしながら二階から降りてきた中学生の聡平が、ベランダで洗濯物を干していた3つ離れた兄の恭平に声をかけた。
「そこにないー?」
「あ…あった。」
食卓の上に置いてあった自分の弁当を取り上げて、聡平はそこに余ったもう一つの弁当箱を見た。

「兄貴ー。これ、誰の?」
「えー?」
聞かれて恭平がベランダから顔を出した。
「ああ、父さんの。今日会社寄るから渡そうと思って。」
「ふぅん…。よくやるねぇ。」
「え?」
「や、なんでもない。行って来ま〜す!」
「行ってらっしゃい!」
高校生の恭平は、今日は創立記念日で休みだったが、午前中は補講があるので登校しなければならなかった。
なので洗濯物を干し終わってから急いで制服に着替えた。


授業を終えた恭平はそのままの格好で会社へ行った。
数回しか来たことのない父の会社のビルはまだ慣れない。
受付へ行って社長室へ繋いでもらい、エレベーターで社長室まで上がった。
高校生が一人で来る場所ではないため、事情を知らない社員らの目が少し痛かった。

14階でエレベーターを降り、秘書室の隣を通って社長室へ。
ノックをしてノブをひねると、扉はすんなりと開いた。
緊張しながら中へ入ると、父の孝平は知らない誰かと打ち合わせしていた。
恭平を見て、ああ、と声を上げて話していた相手に紹介する。

「長男の恭平です。今高校2年生ですよ。」
「あ…どうも、初めまして。」
こういう風に孝平に紹介されたのは初めてだった。
なんだか嬉しいような恥ずかしいような、不思議な気持ち…。

客が帰ると孝平は疲れたようにデスクの机に座り込んで深い溜息をついた。
そんな父を気遣うように側に行き、恭平は持っていた紙袋から弁当箱を取り出した。

「お弁当。作ったから、食べて。」
「え?…ああ、ありがとう。」
孝平は少し驚いたようだがそれでも嬉しそうに頷いて、その弁当箱を受け取った。

「お前、高校はどうしたんだっけ?」
「今日は創立記念日でお休み。だから来いって言ったのは父さんじゃないか。」
「ああ、そうだった。」
孝平はうっかり忘れていたという風で何度も頷いて、それから弁当を机の上に置いて立ち上がった。
「そうだった。忘れていたよ。」

急に立ち上がった孝平のことを不思議そうに見ている恭平の腕を取り、孝平はその体を強く引き寄せた。
「えっ、父さ…?」
「学生服のお前をこんな間近で見たのは初めてだな。」
「…うっ、うん。」

引き寄せられた恭平の頭に、何週間か前の初めての経験の記憶が甦った。
孝平の匂いが、やたらと心臓をドキドキさせる。
「恭平…。」
孝平が恭平の髪の間に手を差し入れて頭を撫で、耳元で小さく囁いた。
ドキリと胸が高鳴って、急に体の力が抜けたみたいに言うことをきかなくなる。

「弁当よりも先に、恭平を食べてもいいかな。」

意地悪そうに笑った孝平に、恭平は無言で顔を赤らめた。
普通の高校生活では絶対に知ることのできなかったであろう、特別な体験を教えてくれたのは、紛れもない、実の父であった。

「残さず食べるよ。」
楽しそうに笑って言った父は、まだ高校生である実の長男を強く引き寄せて、キスをした。


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