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└4位:孝×恭のドタバタ休日デート(途中に竹本現る)
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映画を見ると、割りと早くに感情移入してしまう恭平に対して、孝平はどこまでいっても客観的に見ていることが多い。
客観的に見てはいるものの、映画が終わった後に恭平は感想をドキドキしながら述べるので、よくそんなにたくさんのことを考えられるなと感心しながら聞き入っている。
「あそこでね、もし主人公の男の人が飛び出て来なかったら…」
「飛び出てきたじゃないか。」
「そう!俺だったら、あんなことできないな〜。すごいよねっ。」
恭平は高揚する気分を抑えきれず頬を紅く染めて、楽しそうに語っている。
孝平はそんな彼を人の並から避けるように歩いていた。
ただでさえ歩きにくい道を、こうもフワフワと喋りながら歩かれてはどこかで転ぶのではないかという気がしてならない。
得意先の社長秘書から映画のチケットを二枚もらってしまったので、孝平はせっかくなので普段家事ばかりしている恭平を連れて出かけた。
アクションとラブストーリーが合わさったような話だったので正直孝平の好みではなかったのだが、恭平はとても楽しそうにしているのでヨシとしよう。
「父さん、喉乾かない?」
「いや。」
「そう…俺乾いた。あそこで買ってくるね。」
恭平が指差したのは、今いる広場の一角にある自動販売機だった。
そこへ行くには広場を横切らなくてはならず、その間には何人もの行き交う人の並を避けていかなければならない。
「恭平。何が飲みたいって?」
「え…お茶。」
「私が行ってくるよ。お前はここで待っていなさい。」
言うと孝平は恭平から離れ、人ごみの中に消えた。
恭平は追う間もなく行かれてしまったのでしばらく絶句し、きっと自分の足を気遣ってのことだろうと考え大人しくその場に立ち竦んでいた。
いろいろな人が行き交うこの広場は、見ているだけで楽しい。
人ごみは苦手だけど、たまにはいいかもしれない。
父さんも一緒だし……
そう考えると恭平の顔が自然に綻んだ。
こういうことしてると、なんだか親子ってことを忘れることができる。
こんな時間がずっと続けばいい…
だが、恭平が幸せを感じられる時間はそう長くはない。
いつものことだ。
ペットボトルに入ったお茶を買って帰ってきた孝平は、片手で携帯電話を持って話していた。
恭平の前まで来ると目で合図してペットボトルを手渡し、しばらく通話を続ける。
話の内容や口調からして、相手はきっと秘書の竹本だろう。
受話器に向かって話す孝平の横顔は真剣で、少し困ったような表情だ。
きっと今から会社に戻らなければならない事態にでもなったのだろう。
「わかった。では着いたら連絡をくれ。じゃあな。」
ほら。
きっと竹本さんが、父さんのことを迎えに来る。
孝平は電話を切ってから恭平の方へ向き直った。
蓋を開けないままペットボトルを掴んでいた恭平を見て、少し首を傾げる。
「なんだ、飲まないのか?」
「…。」
恭平は言われてペットボトルの蓋に手をかけたが、電話のことが気になって力が入らなかった。
父さんが仕事第一なのは、誰よりもわかっているはずなのに……
恭平の考えていることを察したのかそうでないのか、孝平は恭平の手からペットボトルを無言で奪った。
ぐいっと捻って蓋を開け、恭平よりもさきに口をつけて中身を飲んだ。
「あ。」
ぼんやりしていて、止める暇がなかった。
五分の一くらい飲んでから孝平は飲むのを止めて、恭平を見た。
「飲むか。」
そう言って蓋の開いたままのペットボトルを差し出してくる。
恭平は少し拗ねるような真似をして、そのペットボトルを受け取った。
「恭平、私はこれから会社に戻るよ。竹本がもうすぐ迎えに来る。」
「うん。」
予想はついてた。
「お前のことは家まで送ろう。悪いな。」
「うん。いいよ。」
恭平は寂しそうに微笑んで、渡されたペットボトルに口をつけた。
喉を通る液体が冷たくて気持ちいいはずなのに、そう感じられなかった。
竹本は10分もしないうちに車で二人のことを迎えに来た。
孝平は助手席へ、恭平は後部座席に乗り込む。
「先にうちへ寄ってくれ。」
「かしこまりました。」
竹本はちらりと恭平のことを見てから頷いて、アクセルを踏んだ。
恭平は、楽しかった時間がなんだかとてもつまらないものに思えてきた。
すぐに終わってしまう幸せなら、初めからない方がいい。
後ろから助手席の孝平に目をやったが、彼は黙って肘を窓について外を見ている。
今孝平の頭の中は、さっきの電話で竹本と話した仕事のことでいっぱいなのだろう。
そう思うととても哀しくなる。
佐久間の標識がある自宅の前で、竹本の運転する車は止まった。
恭平がドアを開けて、礼を述べて車を降りる。
そのまま車は走り去るのだろうと思ったら、助手席のドアが開いて孝平も降りてきた。
「…どうしたの?」
「服を着替える。いくらなんでも普段着では会社へ行くのはマズイ。」
「あ、そっか。」
平然と会話をしているつもりでも、恭平の表情は浮かなかった。
孝平にも手に取るようにわかる。
家の門をくぐり、庭を歩いて玄関へ。
鍵を開けて中に入り、竹本から見えなくなったのを確認してから孝平は恭平のことを抱きしめた。
咄嗟のことで、恭平は声も上げられなかった。
顎を引き寄せられて、唇を奪われる。
「ん……っ!」
手に持っていた鞄が音を立てて地面へ落ちた。
家の中に兄弟がいて、様子を見にきたらどうしよう。
恭平は落ち着かない様子で孝平のことを引き離そうとしたが、孝平はそれを許さなかった。
両手で恭平の身体を押さえて貪るように深いキスを与える。
舌を絡めると、徐々に恭平も応え始めた。
「ん…ふぅ…っ。」
暖かい感触が、徐々に身体を支配していく。
蠢く舌が口内をかき乱すように、身も心も熱くかき乱していく。
「父さん…っ。」
恭平が玄関の床に背を着いて倒れた。
その身体の上に襲い掛かるようにして、孝平は貪欲にキスを続けた。
腕が痺れるくらい、きつく抱き寄せて何度も唇を重ね合わせる。
息が続かなくても、我慢できる。
「恭平。」
「はぁ、はぁ…。父、さん…。」
「今日は必ず早く帰ってくるから。例え今日が駄目でも、明日か明後日には必ず。そうしたら、続きをしよう。」
「…。」
「いいね。」
孝平の優しい声が恭平の胸を満たした。
その言葉があれば、きっとまた待っていられる。
「待ってる。」
恭平は目の前の孝平の首筋に腕を絡ませてぎゅっと抱きしめた。
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