▼やさしい恋・10題
└2.ふたりの夜


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田嶋勘太郎が彼女と旅行へ行く計画をたてていると知って、沖田が一言。

「やっぱ景色のきれいなとこがいいって。星空がきれいだったりすると、一気に気分も盛り上がるしさ。」

それに対して勘太郎がぼそりと。

「でも…交通の便は欠かせないだろ。俺運転免許持ってねぇし。」

「取れば?」
「今から?無理だろ。」
「っかぁ〜〜。使えねぇなぁもー!」
わしゃわしゃと髪をかき混ぜて、沖田は旅行会社のパンフレットをポイと投げ捨てた。

「恭平はどう思うよ?」
使えない呼ばわりされた勘太郎が、むすっとした表情のまま恭平へ向き直る。
恭平は落ちたパンフレットを拾い上げ、ぽつりと言った。

「俺は…交通の便も景色も必要だとは思うけど…、二人きりで静かに夜が過ごせれば、大抵のことは、我慢できるかな。」

いつもなんだかんだで忙しく体を重ねているから、ゆっくりとした二人の夜が欲しい。

それを聞いた沖田も勘太郎も何も言ってくれなかったので、恭平は疑問に思ってパンフレットから目を上げた。
ぽかんとした表情の沖田と、目をキラキラさせて拳を握る勘太郎。

フルフルと震えていた勘太郎が先に口を開いた。
「いい、それ!大人な感じ!!」
「え…?」
「そうだよな、二人でいれれば他は何もいらないよな!さすが恭平だ!」
「えっと…どうも…。」

感動にうちひしがれている勘太郎とは正反対に、沖田はヒクリと顔をひきつらせていた。
「…なんか、言いようのない敗北感を感じる…。」
「そりゃな!お前、色気ね〜もん。絵ばっか描いてないで彼女の一人でも作れっての。」
「な!!むか…っ馬鹿勘ちゃん!!オタンコナス!!」
ぷーっと頬を膨らませてから、沖田はあっかんべーと舌を出した。

その前に、父さんにはそういう暇な時間がないんだよ…

恭平は最後の一言を飲み込んで、笑っていた。


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