▼やさしい恋・10題
└6.守れない約束


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旧知だった畑中三郎が亡くなったことをきっかけに、孝平は部屋の中を整理してみた。
本当は納戸の奥からちょっとしたものを取りだそうと中の物を外へと広げていたら、収集がつかなくなっただけのことだ。
ふと気がつくと、取り出そうとしていた物が何だったかも思い出せないほど夢中になって片付けていた。

記憶の片隅にしまい込んでいた物がいろいろ出てくる。
そのほとんどが今ではまったく使えない物で、行き場のないガラクタだった。
許可なく捨てるのも忍びないと、取ってあったのだろう。
全て愛に任せていたので、しまったことすら記憶にないものばかりだった。

そんな中、一冊のアルバムを見つけた。
表紙には愛の細い字で、「孝平くんへ」と書いてある。
何かと思ってページを開くと、そこにはたくさんの子供たちの写真が貼ってあった。
恭平から明美まで、4人の子供たちが満遍なく写っている。
写真1枚に2行ほど日付とコメントがつけられていて、よくこうもマメにまとめられたものだと感心する。

そのアルバムは、良平と聡平が小学校に上がった頃からプツリと途絶えていた。
いくら探しても明美の入学式の写真は見当たらない。
よく考えてみると、恭平が事故にあった、あの日を境に写真がなくなっていることに気付いた。
あの時の彼女のショックの受けようは、当の恭平よりもひどかったことを思い出す。

アルバムの最後には、彼女の筆跡で小さな手紙が入っていた。


孝平くんへ

愛です。あなたがこのアルバムに気付くのは、あと何年後なのかしら。
今と変わらずお仕事を頑張っているあなたでいてくれることを願いながら、この手紙を書いています。
あなたは今、私にはとてもわからないお仕事をたくさん抱えていて、子供たちの成長を見ている余裕がありません。
このアルバムを特別に作ったのは、そんなあなたに子供たちの成長を少しでも見てもらうためです。
半分は自分のためでもあるのだけど。
いつか二人で、このアルバムを見ながら笑いあえたらいいな。
その頃には、恭平も良平も聡平も明美もきっとみんな素敵な青年や娘になっていることでしょう。
その頃には、孝平くんのお仕事も一段落して私との時間も増えていることでしょう。
今からとってもとっても楽しみ。
それまでは私が責任を持って子供たちを育てます。
ずっとずっと将来、あなたと共に笑っていたいから。

それでは、お体に気をつけて。あと何十年後?かを楽しみに待っています。
私が言い出すより先に、見つけてよね。大事に作ったんだから。

愛より



小さな彼女の字を見ていたら、孝平は目頭が熱くなってくるのを感じた。
二人で笑いながらこのアルバムを見る日はもう訪れない。
守ってやることができなかった。
今頃気付いたのではもう遅いのよ、そう言って怒るだろうか、愛は。

「父さん。こんなに散らかして。何をやってるの?」
不思議そうな顔をして部屋に入ってきた恭平に、孝平は振り向いた。
「整理していたら…」
「散らかしちゃった?手伝ってあげようか。」
「ああ。…いや、いいよ。もう少しで片付ける。」

孝平は恭平に優しく頷いて、そっとアルバムを元の場所に戻した。


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