▼強気受けで10題
└1.馬鹿。
∴∵∴∵∴∵∴
「いい?ここがこうなるから、これをああして…、おい良平、聞いてる?」
「き、聞いてる…。」
「よし、じゃあ次行くよ。それによってこれが…」
「あぁあっ、ま、待て…待て。」
「ん?」
「……もっかい…始めから。」
杉野は思わず持っていたペンをポトリと落としてしまった。
良平はむすっとした表情で杉野を睨む。
「なんだよ。…今なんか思ったろ!いいさ、言ってみろよ!」
「べべ別に…?」
そういう杉野の顔は何かを企んでいる子供のようにニヤニヤしていた。
必死に笑うまいとしているが、口の端は緩んでしまっている。
良平はますます眉を吊り上げた。
「おい杉野!」
「まぁまぁ良平、怒ってたら頭に入らないよ。もう一度だけ説明してあげるから、聞いて。」
「む…。」
怒鳴り続けようとしていた良平は勢いを殺されて、開けていた大口をぱっと閉じた。
杉野の家で有機化学の教科書を開いた良平は、1時間程前から杉野の補講を受けていた。
それもそのはず、明日の2限には中間試験が待っている。
良平が泣き付くと、杉野は快く専属教師を引き受けてくれた。
「まったくぅー、いつも思うけど、すでに卒業しちゃった俺の方がわかるってなんでだろ?」
「…知るかっ!くそ…っ。」
苛つく良平とは対照的に、杉野はとても楽しそうだ。
これで三度目の説明を受けてもなお、良平はむすっとしたまま顔をしかめている。
杉野はわざとわかりにくく説明してるんじゃなかろうか。
「で、こうなるの。わかった?」
「…。」
「わ、か、っ、た?良、平。」
「…むり…。」
情けない良平の言葉に、さすがの杉野も軽く頭を抱えた。
ど〜してこうも、授業さぼってるんだろう。
これ以上前の部分から教えてたら、ほぼ全復習じゃないか。
一方良平は反省しつつも頼みの杉野に無言で苦悩されると不安になる。
その不安を隠すように、大きな声で言った。
「なんだよ!!黙るなよっ。言いたいことあるならはっきり言え!」
言って欲しいなら、言うけどさ。
「馬鹿。」
どんがらがっしゃん!
杉野のこの一言に、良平が怒鳴り散らして暴れだしたのは言うまでもない。
慣れている杉野は楽しそうに良平をからかいつつ、一晩中彼のお勉強に付き合ってやるのだった。
∵∴∵∴∵∴∵
(c)puyu. All Rights Reserved.