▼強気受けで10題
└9.言えばいい、きっと同じ気持ちを


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杉野は、簡単に恥ずかしいことを口にする。

「良平!」
「大好き。」
「愛してる〜。」
「ココ、どーなってるの?」
「世界で一番、誰よりも良平が好き。良平がいれば後はなんでもいいって感じ。」
エトセトラ…

言われて悪い気はしないから放っておいてあるけど、正直すごいと感心してしまう。
俺なんか、あいつの下の名前呼ぶだけでも顔から火が出そうなのに。
付き合って何年、俺が未だにあいつを苗字で呼ぶのに理由なんてない。
ただ単に、恥ずかしいから。
そして、呼ばなくても杉野は許してくれるから。

「おい、杉野。」
と呼ぶだけであいつはホイホイついてくる。
俺の方が2つも年下なのにさ。


俺がこんな性格だからか、あいつは時々不安になる。
夜中に突然電話をかけてきたり、無性に会いたがったりする。
しょーがねーなぁと文句を言いつつ、起きてる時は会いに行く。
結局俺も、杉野には甘いんだ。

甘やかすとより一層甘やかし返してくる杉野でも、いつもおどけている杉野でも、怒る時はある。
俺の我侭では怒らない。
予定が狂っても、機嫌が悪くなれど怒らない。

だけど一度だけ
丸一日、口を利いてくれないほど、怒られたことがある。
怒ったっていうか…拗ねたのかな。

俺が家に帰らず、杉野にも連絡せず、瑞樹にも言わずにとある友人の家に泊まったから。
その時は何もなかったけど、後から好きだって告白された。
まあ、ソッコーで断ったけどね。
それを知った杉野は、珍しく、顔をしかめたまま黙ってた。
何を言っても、何も返事をしてくれないんだ。
挙句の果てに、地を這うような冷たい口調で、一言。

「もう、知らない。面倒みきれない。」

…修羅場だった。
思い出しても身の毛がよだつし、泣きそうだ。
普段怒らない人が本気で怒ると、どうしてこうも怖いのだろう。
俺は自分自身がどうしようもない馬鹿に思えた。

その時、謝りながら思ったんだ。
俺はあいつを傷つけるつもりも、裏切ったつもりも、なかった。
友人の家に泊まることが突拍子もないことだとは微塵も考えなかったし、連絡をしないことだって、ただ単に面倒だったわけで、他意はなかった。
だけど結果的に、杉野は傷ついた。
俺が傷つけた。

やっとこ杉野が許してくれそうになった時、あいつは不安そうに震える声で聞いてきた。
「俺のこと、好き?」
俺は恥ずかしかったけど、どうしても杉野に許してもらいたくて。
どうしてもいつもの杉野に戻ってもらいたくて。
大きく頷いた。

「うん。」
「愛してる?」
「うん。」
「言って。」
「え?」
「良平の気持ちを、良平の口から言って。聞きたい。」
「…。」
「聞かないと、信じられそうにない。良平の口から良平の言葉で、直接聞かないと信じられない。」

怒っているのは杉野で、追い詰められているのは俺だったのに。
なぜだか彼は、ポロポロと涙を流した。
お調子者で楽しいことばかり追いかけている杉野が。
泣いた。

杉野は不安だったんだ。
俺がいつも言わないから。
あんなに俺の名前を呼び、好きだ好きだと連呼する。
俺がいつも言わないから。
簡単なことなのに。
恐れることは何もないのに。
同じ気持ちでいることは、疑いの余地はない。

「大好きだよ。…拓巳。」

俺の一世一代の大告白、名前のおまけ付き。
杉野の機嫌が120%を超えたのは、言うまでもない。


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