▼10万hits記念関連企画
└3位:孝×恭で「お拗ねな恭平」


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「これ。何の跡?」

ソファに座り新聞を読んでいた孝平は、背後に立った恭平に顔を向けた。
恭平は眉根を寄せて、珍しく不機嫌そうな顔をして立っていた。
後ろから孝平の襟を引っ張って、うなじのあたりを覗き込む。

「何が?」
孝平はわざとゆっくりとした口調で聞き返した。
その間にも脳内はフル回転して心当たりを探している。
「これ。」
「これ、じゃわからないよ。」
「…ここに赤い跡があるんだけど。」
恭平は顔をしかめたまま、長い人差し指を差し入れた。
一点をむにっと押されて孝平が思わず身をよけた。

「何の跡?」

恭平はもう一度だけ聞き直し、その答えを聞く前にぷいっと顔を背けてベランダへ出て行った。
手には洗濯物籠を抱えている。

孝平は恭平に押された箇所をポリポリと掻きながら立ち上がった。
洗面所へ行き、鏡でその跡を覗き込んだ。
「…ああ。本当だ。」
右肩の付け根の辺りに、確かにほのかに赤くなった痕跡があった。

孝平が鏡の自分を見つめながら思案していると、右足を軽く引きずるような足取りで恭平が戻ってきた。
孝平の姿を見るときゅっと口を一文字に結んで彼の後ろを通り抜けて洗濯機の前へ立つ。

「恭平。」
名前を呼ぶと、恭平は様子を伺うような上目遣いの目だけをチラリと孝平の方へ向けた。
拗ねているのか。
自分のつけた跡かそうでないかわかる程、最近は近くにいたのだと思い知らされる。
「何の跡だか、教えて欲しいか?」
「いらないよ。どうせ誰かに付けられた跡なんでしょ。」
「こんな小さな跡によく気付いたな。」
「…気付かなきゃよかった。」

恭平はふと力を抜いて寂しそうな表情を浮かべ、目を逸らして洗濯機の中に手を突っ込んだ。
「手伝おうか。」
「いい。向こう行ってて。」
「…ふむ。」
孝平は頷いたものの動こうとせず、テキパキと動く恭平のことをじっと見つめていた。
それをわかっているものの無視をする恭平。
彼は全部の洗濯物を籠へと移し終えたところで、振り向いた。

「…何の、跡なの。」

結局折れて、こちらの顔を覗き込んでくる恭平を見越していたように、孝平はふっと笑みを漏らした。
一歩近付いて、恭平の前髪を二本の指で撫で避ける。
「教えないよ。」
「え…?」
「お前に嫌われたら、私は何もできなくなる。」

それは答えになってない。

恭平は抗議の瞳を孝平へと向けたが、彼は独特の笑みで楽しそうに笑うだけだ。
「嫌われるようなこと、しないでよ…。」
恭平は独り言のように呟いて、孝平の肩に額を寄せた。
抱き返してくる孝平の腕は大きくて暖かくて。

恭平は静かに目を閉じた。


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