▼10万hits記念関連企画
└5位:孝×恭で「時代物」


∴∵∴∵∴∵∴


山は緑から赤や黄へとすっかり色を変え、その葉を一枚一枚、惜しげもなくハラリハラリと落としていた。
日中はやや暖かいものの、日が翳ってくるとにわかに肌寒くなる、そんな季節。

夜空に浮かぶ月を見上げながら、小袖一枚の姿の孝平は杯の中でゆっくりと少量の酒を回していた。
翌日にも予定はあるので、いくら気分がいいからと言って呑み過ぎないようにしなければならない。
しかし、元来あまり酒を呑まない性質でも季節と気分に寄っては誘惑に負ける時もある。
横に彼女が座っているとなればなおさらだ。

正確には、“彼女”という表現は相応しくない。
なぜならいかに極上の着物に身を包み、礼儀に則って扇子で顔を隠し、どこからか誘うような香りが漂っていたとしても、“彼女”自身は女ではないのだから。

孝平は月から目を離し、“彼女”の方を振り向いた。

「いつまでそうしてるつもりなのかな、恭平くんは。」
「…。」
声をかけられた“彼女”は僅かに肩をすくませて、扇子の向こうで顔を伏せた。
恥らう姿は月明かりの下でとても魅惑的であった。
「月を愛でて酒を煽るのも風情があっていいが、些か飽きてきたよ。」

勝手なことを言う。
日が傾きかけた頃、共も連れずに突然訪ねてきたくせに。
多忙な彼に浮いた時間ができたことすら、素直には信じがたい。

そう恭平が反論する前に、孝平が背を預けていた柱から一歩だけすっと近寄った。
月明かりで辛うじて見えていた世界が、彼の影で暗闇へと落ちる。
袖が引かれた。
「あ…。」
手元から扇子が落ちた。
月光を背に受けた孝平の瞳が、恭平の揺れる瞳を捕らえた。
久方ぶりに見る、互いの顔であった。

「元気にしていたか。」
「…はい…お陰様で。」
「その割には頬が紅い。熱でもあるのか。」
「…っ」

孝平の指が額に伸ばされたので、恭平は思わずきゅっと目を瞑った。
体温が直接伝わる感触に、胸が高鳴り身体が火照る。

孝平はくすっと笑って、恭平の顎を取ってその頬へと口付けた。
「あ…っ。」
小さく漏れた吐息が妙に色気を含んでいて、恭平は恥ずかしそうに身を遠ざけた。
それを許すまいと孝平の手に力が入り、再び身体を引き寄せられる。
ぎゅっと強く抱きしめられると、心が窒息しそうだった。

「綺麗だ。」

「え?」
「…景色の話だよ。」
孝平ははぐらかす様に笑って、恭平の胸元へと手を伸ばした。


∵∴∵∴∵∴∵

(c)puyu. All Rights Reserved.