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└04:ささやかな仕返し
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「はっ…くしょーん!」
街中で派手にくしゃみをやらかした良平は、ずずっと鼻をすすって肩にかけた鞄を持ち直した。
横で瑞樹が苦笑する。
おい、行き交う人が振り返ってるぞ、お前のくしゃみで。
「うぅっ、さみぃな。瑞樹、早く店決めよ。」
「んなこと言ったってな。俺はピザが食いたいんだ。」
「だぁかぁらぁ、この前それ食ったじゃん!それに俺はあったかいラーメンが食いたいのっ!」
「俺昨日ラーメンだったんだよ夕飯。じゃあ…中間取ってお好み焼き!」
「どこらへんが中間なんだよ…」
「洋、中、和。」
「じゃマックは?」
「それ米。」
「……やめれ!世界地図は苦手だ!」
良平はぶんぶん首を振ってからぷいっとそっぽを向いた。
瑞樹は瑞樹でそんな良平の我儘ぶりを知らんぷり。
噛み合ってないようで噛み合っているのが二人の距離だ。
去年の春に高校生になった良平は杉野拓巳との密かなる交際も順調で、瑞樹は瑞樹で休日は女の子と遊び回るプレイボーイっぷりを確立しつつあった。
トーコとはまだただの友達だった頃だ。
そしてそんな二人がいつももめるのが放課後のおやつタイム。
彼らは一日に食べる三食分のうちの一食に何を食べるかもめているわけではなかった。
単なる、腹拵えの話である。
「じゃあジャンケンな。」
瑞樹が言った。
そして良平に反論を許さぬ早さで拳を握る。
「じゃーんけーん…」
良平が条件反射的に制服のポケットから手を出した。
「ぽいっ。」
結果は明白だった。
二人はファミレスへ入り、意気揚々とした瑞樹がウェイトレスを呼んだ。
「てゆーかさ、何でもかんでもじゃんけんで決めるのはよくないと思うよ。」
「そーだねえ。」
外と内の温度差にマフラーを外して一息つく。
割とすぐに運ばれて来た瑞樹お気に入りのピザを目の前に、良平がハァと溜め息をもらした。
一方瑞樹はそんな良平にお構いなしに一切れ取って口に運んだ。
「つーかさ、民主主義?ってやつに反すると思うわけ。物事話し合いが一番だぜ。」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで早く食えよ。割り勘だからな。」
「俺ラーメンがよかったんだってば!瑞樹ずりーよ!」
「割・り・勘・だ。」
「…。」
念を押されてさすがに黙り込む佐久間良平。
渋々手を伸ばしてピザを取り、三角のとんがり部分に噛み付いた。
…それはそれでおいしいと感じてしまうのはどうしたらいいんだろう?
お腹がキュルリと鳴った。
何かと瑞樹と張り合おうとしても、良平は必ず負けてしまう。
それが尊敬しているところでもあるが、同時に憎らしいところでもある。
唯一勝てるのは兄弟の数くらいだ。
「うまいだろ?」
「…うん。」
「よしよし。」
瑞樹は満足そうに目を細めてにっこりと微笑んだ。
この男っぽい笑顔に弱いな、と良平は感じた。
男ながら爽やかで惚れ惚れする。
…ちっ。
「なぁ瑞樹。」
「ん。」
「……小さい時に十円ハゲができたことあるんだって?」
ぶぅはぁっ
飲んでいた水を噴き出して、瑞樹はゲホゲホと咳込んだ。
一面冷や水の海だが、良平はそれを指差して笑い出す。
「噴いてやんの噴いてやんの!ぶはははは!」
「…てめぇ…っ!なんでそんなこと知ってんだ!」
「んふふふふ☆」
「……!!」
瑞樹は自分で汚したテーブルを慌ただしく拭き取りながら、わなわなと震えていた。
してやったり顔で良平が瑞樹のことを見下ろす。
「あーあ、ピザも水浸しなことだし、お金はもちろん支払ってくれるよな?全・額。」
ビキッ
瑞樹の額に青筋が走り、不気味な笑みが浮かんでいたが。
反論は出てこなかった。
「…覚えてろよ良。」
「もちろん忘れませんよォ♪十円ハゲをね。」
「いやそこは忘れてくれ!ちっくしょ、誰だよこいつに教えたの!?」
「むーふふのふ♪」
良平が意味ありげに含み笑いをするので瑞樹は余計に悔しそうに舌を打った。
良平は密かにほくそ笑む。
これで次のおやつはラーメンでいただきだな!
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