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└05:古い写真
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タタタタッと軽い足取りで石段を登る。
良ちゃんにも聡ちゃんにも内緒の、駅から家への近道。
明美は高校からの帰り、一枚の写真を持って家路を急いでいた。
バッグの中のペンケースが揺れてガタゴト音がしている。
弾む息が薄く白に染まり中空に消えて行った。
スラリとした長い足でフワリと最後の石段を飛び越し、角を曲がって細い道をすり抜けると佐久間の表札が見える。
「にーさんっ!」
玄関が開くと同時に明美の元気な声が聞こえた。
包丁片手に台所に立っていた聡平がツルッと手を滑らせそうになった。
慌てて左手のジャガイモを持ち直し、まな板の上に包丁を置いたところで明美が走りこんできた。
「にーさんっ!」
「うるさいぞ明美、静かにしろよ。」
「あれっ聡ちゃん。兄さんはっ?」
明美は肩で息をしながら予想外の人物をきょとんと見上げた。
「兄貴は病院。」
「え…?」
「足の。」
「あっなーんだ。びっくりした…。」
明美は心底ほっとした様子で胸を撫で下ろした。
明美の大好きな兄は時々彼女の知らぬ間に倒れるから病院という単語は好きじゃない。
聡平は再び包丁を手に取った。
「帰りは夕方になるって。」
「ふーん。」
「用件は何。その手に持ってるのは?」
言われてはっとした明美は握っていた写真を顔の高さまで翳した。
「友達がね、明美が1年の時の写真くれたんだあ。ちょー若いの。見て見て!」
包丁とじゃがいもの間に写真を差し出され、聡平はめんどくさそうに眼鏡の奥で目を細めた。
「…変わんなくね?」
「えーっ!?変わってるじゃんよく見てよぉ!」
写真には今より髪が短く若干幼い明美を中心に、女の子が四人写っている。
全員体育ジャージを着て校庭にいるから、体育祭の記念か何かだろうか。
聡平の目には妹の成長よりも体育着のデザインが自分の頃と違うことのほうがショックだった。
「これと今とどっちが好き?」
「は?」
「髪の毛の長さとか?」
「んなもんどっちも変わんないだろ。それより俺右端の子がカワイイと思う。」
「真面目に答えてよぉ。聡ちゃんって良ちゃんいる時は黙ってるけど実は同じくらい毒舌だよねっ!」
「そりゃ悪かったな。」
隣りでキンキンわめかれては集中してじゃがいもの皮も向けやしない。
しかしなおも明美は台所をウロウロウロウロ。
かといって手伝うわけでもない。
毎度のことながら聡平は溜め息をついた。
やっぱり兄貴は甘やかしすぎなんだ。
いつもよくこんなのの面倒みてやってんな…。
「…写真。」
「え?」
「写真のほうがいい。」
動かないし喋らないから。
聡平は辛うじて言葉を飲み込んで鍋を火にかけた。
また毒舌などと言われたらたまったものではない。
明美はしばらく口を噤んで写真を見つめた。
ちょっとはショックを受けたのだろうか。
聡平は少し心配になって横目で明美の様子を伺ったが、すぐに心配したことを後悔した。
ウン、と一人頷いた明美はやけに真剣な表情をして聡平を見上げた。
「時は流れてるの。いつまでも昔の明美だと思ってたらだめだよ。」
…。
開き直りやがった…。
「今を生きなきゃ聡ちゃん。老けるの早くなるよ?」
「余計なお世話だッ!!」
ついにキレた聡平に怒鳴られて、明美は逃げるように台所から飛び出した。
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