眼鏡は顔の一部じゃない



「眼鏡は顔の一部だよ!」
 俺のコンタクトデヴューを台無しにしたのは馬鹿山バカ太郎こと朝山草太郎その人だった。
「眼鏡は視力矯正器具だ、器具。分かったかバカ野郎」
「超のび太! 3字目になってるよぉ!」
「ほう、どれ鏡寄越せよ。なってなかったらギッタにするからな」
「なるわけないじゃん。バカじゃん」
「よし。ギッタギタにしてやろう」
「屋上でふざけるんじゃありません!」
 お母さんかよ。
 涼みに上がった屋上は初夏の日差しがギラギラきててとても暑い。朝一から眼鏡じゃないことをぶちぶち言われ続けて昼休みにしてスパークしたのである。
「今更高校デヴューとか! 意味わかんねぇ夏休みにやれよ」
「デヴューじゃねーし。コンタクトのが便利だっただけだし」
「モテ狙いかよ」
「狙ってねーし。便利だからだし」
「便利とか意味わからんし」
 うるさい口は塞いでしまおう。キスをする。
「……ほら、眼鏡当たらんじゃん。バカじゃん」
「キスするとき外せばいいじゃん。バカじゃん」
「なんでそんなにこだわるんだよ」
「男なら! 夢があるだろっ! 眼鏡にかけたいって!」
「死んでくれ」
 かけられるために眼鏡をかけるなんてバカか。精子に謝罪して生まれなおせ。っていうか、だからか、やたら眼鏡かけたままやりたがったのは。バカか。
「バカ眼鏡が恥ずかしくなったのかよ! バカの癖に眼鏡だから!」
「おまえより頭いいし。舐めてんの?」
「はぁ? 杉山くんのが頭いいし」
「杉山くんは頭いいよ。付き合いたいよ」
「はぁ? なに言ってんの俺のが付き合いたいし」
「はぁ? じゃあ杉山くんに選んでもらおうぜ」
「いいよ、絶対勝つし」
 そうして始まった杉山くん探しの旅は五分で終えた。なんか教室にいた。
「杉山くん杉山くん、俺と草どっちが好き?」
 学級日誌のようなものをつけていた杉山くんは目をぱちくりさせて困惑げだ。
「……なに? どっちも好きだよ」
「どっちか決めて! じゃあどっちと付き合いたい?」
「えっ……どっちもやだよ」
「なんで?! 俺が眼鏡じゃないから?」
「俺バカだから?」
「えっ、えっ、……男だからだけど」
「杉山くーん、そういうんじゃないんだよー」
「えっ、えっ」
「男だからとかそういうのどうでもいいじゃーん」
「えっ、えっと、じゃあ選べないよ。二人とも好きだし」
「仕方ねぇなー、じゃあ3Pだな」
「仕方ないね。杉山くんが言うんじゃね」
「えっ、えっ、なんの話してるの?」
「セックスだろうが! かまととぶんなよ!」
 予鈴が鳴る。午後の授業がはじまる。
「じゃあ放課後ね」
「えっ……あっ! 僕無理。今日予備校あるから」
「さすが杉山くん。予備校とかカッコイイ」
「えーじゃあ今度ね」
「仕方ないね」
「なんの話してんの……」
 杉山くんの呟きは無視だ。なにせ目が乾くから目薬だ。



(09.4.30)
置場