どうしてこうなった。
展開の速さに頭がついていかない。帰宅して早々抱き締められた。何事かと思う間もなくケツを揉まれた。どういう意図が、と脳を働かせた瞬間に思い至ったのだ。これはなにかいやらしいことをされる導入だと。
「待ってください」
言う間もなく、俺はよしあき君のベッドの上に押し倒されていた。
「ごめんね。手順踏むつもりだったんだけど」
言いながらよしあき君は俺の服を脱がしにかかる。阻止。だが服の隙間から冷たい指先が直接肌に触れ一瞬ひるむ。
「手順!」
「デートして、ご飯食べて、ダラダラして」
言いながらもよしあき君の手は俺の身体の上を行き来する。喉元に唇が触れる。吸われると痛いような痒いような変な感じがあって意識とは別に身体が震えた。
「それっぽい雰囲気作ってちゃんとしたかったんだけど」
ごめんね、と言ってよしあき君は俺に跨ったまま服を脱ぐ。上半身裸になられると俺にはない筋肉を意識してしまう。絶対強い。超鍛えてる。俺腹筋割れたことないし。よしあき君割れてるし。
「寒い?」
頷くとよしあき君はエアコンの温度を上げていく。今逃げようか。普通っぽい顔しようか。すけべなことしない方向で話を収めようか。考えている間によしあき君はリモコンを放り投げて俺に顔を近づける。近い。近さが怖い。言ってみる。
「怖い」
「怖くないよ」
ニッコリ笑う。それが怖い。今までだって何回か、三回くらい、身体を触りあったことはあった。それはよしあき君言う所の雰囲気作りの賜物だろうが、今回のよしあき君の勢いは今までと違う。明らかに最後までやるつもりだ。最後。最後といったらどこだ。挿入か。挿入だろうな。挿入の勢いが怖い。やってやるぜという顔をしている。そうなると、俺としてはやられて堪るかという気持ちになる。こういう時は。こういう時はどうしたらいいか。どうしようか。ダメもとでなにか試してみようか。
「でさー」
話を変えたいとき、これで大体なんとかなる魔法の呪文だ。だがよしあき君は俺の右乳首に舌を這わす。左乳首は指先でくすぐられる。なんにも聞いてない。ダメだ。ダメだこれは気持ちがいい。ため息みたいな息が出た。
一瞬向けられた視線をまっすぐに受けてしまい思わず顔を逸らす。恥ずかしい。よしあき君は親指でぐりぐり乳首を押し潰しながら俺の首筋、鎖骨と食んでいく。歯の据わりが良いところを探してるみたいだった。
すっ飛ばされたメンタル面での手順を補うようによしあき君の手指や唇は俺の肌をならすように触れてくる。時間は天井の上に投げ出されたまま俺はよしあき君の呼吸だけを聞いていた。パンツを脱がされる。たまらなく恥ずかしい。のは、自分が完全に出来上がっている状態だと知っているからで、なんでこんなに男の身体は単純明快に出来ているんだろうと恨めしくなるほどだ。
直に触られる。俺は口を押さえるふりをして顔を隠す。人差し指と中指に挟まれたものは裏側を親指で押され、ゆっくりとした上下運動は俺の正気をじわじわ奪っていくみたいだった。
「ごめんね」
なにが? 問う間もなく身体の内側にぬめりを伴って指が入ってくる。あ。と。思ったときには自分の息がバラバラにチグハグにリズムを乱して、止めて吐いて吸ってのバランスがめちゃくちゃになる。入ってる状態を馴染ませるように指は中でゆっくりと動く。中の、なんか、変な、前立腺だろうか知らないけどそこを触られるとゾワってして力が入ってそうするとまた変な感じが増幅されて、よしあき君は器用に人差し指と中指の上下運動も再開させて脚が震えて肩甲骨が布団を跳ね返すみたいに勝手に縮こまる。
「抜いとく?」
「や…、やだ」
だってなんか俺ばっか色々されて俺だけいっとくとかすごい恥ずかしい。だから嫌だ。嫌だって言ってるのによしあき君は俺のを握って素早い擦りに移行する。嫌だって言ってるのに搾り出されるみたいでダメだって。もうダメだって嫌だって言ってるのにもうダメだからうつ伏せで回避、しようにも押さえられて出来ないから顔だけ枕に埋める。
「うっ……、くぅ」
出た。身体が震える。力が抜ける。
「俺ばっかなんかやだ」
から、俺ももっと積極的に動いてみようか。提案するとよしあき君は一瞬驚いて、一瞬目を逸らして、一瞬俯くと小さな声で呟いた。
「あんま余裕ないからやめてよ」
俺だってねぇよ。なに言ってんだよ。笑うと、よしあき君は俺の頬をつねってキスをくれる。なんだ。俺だけ一杯一杯なんじゃないんだ。
「嫌だったら言って」
そう囁いてよしあき君は俺の脚の間に自分のものを向ける。
「いやです」
「我慢して」
歯医者と同じ手口だ。でも俺も本当に嫌なわけじゃないし、怖いだけだし、よしあき君は怖くないようにしようって頑張ってくれるから我慢する。先の方が触れる。じわじわと押し広げてくる。うわ。うわぁ。そっか。なんか、ビクビクしてる。そらそうか。そらそうだけど、なんか、うわぁ、なんか、言葉が出ないな。
「大丈夫? 痛い?」
「痛くない」
けど、変な感じだ。今先っぽだけ、とか言わんでいいし。じわじわじくじく押し広げられて少しずつ圧迫感は増していく。よしあき君は眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。
「あんま見ないで、恥ずかしい」
それは俺のセリフじゃないのか。ちょっと笑った。するとよしあき君は眉間の皺を深くして、もうちょっと我慢してと囁く。俺も明らかに内臓辺りに刺激を感じたから笑わないよう別のことを考える。よしあき君のおでことか見る。カッコイイとか、こんな顔するのかとか、全然余裕ないはずなのに余裕みたいに考える。じわじわ、じくじく、下腹の苦しさは増えていく。よしあき君は一つ大きく息を吐くと俺の唇に唇を寄せて触れるだけのキスをした。
「全部入った」
「……そうっすか」
「大丈夫そう?」
「わりと余裕かも」
「じゃあ動くけど」
「どうぞ」
「怒んないでね」
どういう意味だ。答えが出るより先によしあき君は納めたものを引き抜いていく。あ、これは、そういう――
「あっあ! ちょっ…待って止まって」
「抜ける方がいい?」
「ていうか変だから! なんか変ちがうだって」
「我慢して」
「うそっ! 嘘だだって、っ、あっ! んんっ…」
内臓駆けていくみたいに、蛇がすり抜けてくみたいに、引き抜かれる感覚は入ってくるより容易くて身体中にぞくぞくと快感が走っていく。こんなことに感じていいのだろうか。俺の身体はおかしいんじゃないだろうか。口を押さえても鼻から変な息が漏れてしまう。寒くもないのに身体が震えて熱くもないのに汗が出る。普通じゃない。俺の身体はどうかしている。抜かれて刺されて気持ちよくなって目尻と目頭とむちゃくちゃな方向に涙出てでもよしあき君が今まで聞いたこともないような吐息を吐いているから、見たことない顔をしているから、俺はおかしくても良いような気がしてくる。
息しかできなくなってきて、声にもならなくなってきて、よしあき君の短い呼吸と俺のが一緒になってきて、きつく抱き締められたから俺も同じだけ抱き締めて、言葉はなかったけれど、これでいいんだって思った。
抜かれた後もしばらく身体を触りあって、ダラダラして、キスをして、なんだか眠たくなってきたから寝ようか考えて、よしあき君に風呂場に連れてかれてシャワーを浴びながらイチャイチャして、ベタベタして、下半身はふわふわと心地なく雲の上を歩いているような変な感じで、風呂場から出てよしあき君に髪を拭かれている間俺はほんの少しだけ眠ってしまった。
起きたらなにをしようか。宮ちんにメールして、謝って、よしあき君にはなにを言おう。なんて言おう。優しくしてくれてありがとう。なんて言ったら変か。エロいことへのお礼みたい。違くって、もっと最初に遡って、はじめましてまで遡って、好きになってくれてありがとう。俺も好きだよ。なんて、恥ずかしくって言えないか。眠りの国へ沈んでく。目覚めたらおはようからはじめよう。