トータス!



 男子便所は不思議なものだ。入って早々立小便用の便器が並び、開かれた場でちんぽを丸出し用をたす。女子便所はすべて個室で仕切られているというのに、男は人前でちんぽを晒すことも厭わない生物として社会が、文化が、認識している証だろう。
 チャックを下ろしつつそんなことを考えていると同課の後輩亀山がふらっと便所へ入ってきた。わりと暗いタイプの亀山はなんだかよく分からない曖昧な会釈をして俺の二つ隣に立つ。俺は二つずれる。チラッとこちらを窺った亀山は一瞬嫌な顔をしたが構わず俺は用を足す。亀山もチャックを下げて社会の窓からご子息を取り出した。ちんぽチェッカーの俺はもちろん横目に凝視する。亀山のちんぽは、亀山という名にふさわしく亀山であった……。
「……見ないでくださいよ」
「あ、ごめん」
 俺が見ているせいか亀山の亀頭から尿が迸ることはなかった。俺は排尿を終え己のものを仕舞った後もしばらくそこを動けなかった。この亀山の亀山ちんぽはフル勃起時いったいどんなことになってしまうのか、そんな亀山フル勃起状態をちんぽチェッカーを自負する俺は目測から脳内に描こうとした。
「あの……見ないでください」
「ああ、ごめんごめん。ていうか亀山なんか変なオナニーしてんだろ」
「なっ! なに言ってんすか。……普通っすよ」
「えーマジでぇ? ちょっとやってみろよ」
「なに言ってんすか、やるわけないし」
「えーだって絶対変なやり方してるって。でなかったらそんなに亀……」
 そこで俺はハッとした。亀山という姓に生まれた男の持ち物がこんなに亀頭が張り出している、というのはなんというか、もしかしたらすごいコンプレックスなのではないか。亀頭が張り出してないにしても、ちんぽの話はタブーなんではないか。だからこそ亀山もこんなにちんぽを隠しがちにするのではないだろうか。ならば俺は無遠慮にもそのコンプレックスに踏み込んだことになる。亀山にしてみたらちんぽのご立派さなど誇るどころか大コンプレックスなのではないか。俺はなんと思慮に欠ける男だ。と、俺のちんぽチェッカーの今後すら左右しかねない後悔に浸っていると、亀山はおずおずとあの、と小さな声を発した。
「やり方で形……変わったり……するんですか」
「……俺の統計上、関連性があると言える」
 やはりそうだ。亀山は己のちんぽに少なからぬコンプレックスをもっているのだ。おずおずと言葉を探す亀山に、俺は年長者として、筋金入りのちんぽ好きとして、優しく語り掛けるのであった。
「個室入ろうか」

 個室の扉を閉めると男二人の圧迫感に亀山は戸惑っているようだった。やっぱり止めると言い出す前に俺はスラックスを脱ぎ備え付けの棚に置く。
「汚れないように脱いだ方がいいよ」
 ワイシャツの裾を腕まくりしネクタイを肩の後ろに流す。親切めかして言っているが俺は単に亀山のフル勃起が見たいだけだ。戸惑いを残したまま亀山も俺と同じようにスラックスを脱ぎ、ジャケットを脱ぐと簡単に畳み棚に置いた。
「俺はね、こうなんだけど」
 いまいち乗り切れない亀山を促すように俺はパンツから己のものを取り出し扱いてみせる。正直な俺の息子は触る前から半勃起状態であった。亀山の目が俺のちんぽを注視している。と思うと育つのも早かった。単純な上下運動に先走りが既に滲み始めている。
「かめっ…、亀山くんもやってみせてよ」
 呆然と俺の自慰を眺めていた亀山はハッとしたように一度俺の顔を見て、すぐに俯いて、恐々と己のパンツから既に膨らみ始めていたちんぽを取り出した。亀山がゲイだというわけではなく、眼前で他人の性行動を見ては誰でもそうなってしまうのだろう。俺自身、亀山の動作に煽られていた。
 洋式便器を挟んで二人して窮屈にちんぽを擦る。異常で変態的なシチュエーションに呼吸が乱れる。動悸が乱れる。目の前で亀山は己のものの括れを捻るように揉んで、先っぽばかり擦っている。あーもうだから先っぽばっかり育つんだよ。
「イクの遅いっしょ」
 問うと亀山は驚いたように顔を上げ、困ったように眉根を顰め、言いよどんで言葉を震わせた。
「やっぱり、変なんすか……?」
「変じゃないけど、もっと竿をいじった方が」
 流れがあるような素振りで亀山のちんぽに手を伸ばす。どう考えても不自然だが亀山は一瞬腰を引いただけで俺の手を甘んじた。ノンケのちんぽが手の中で熱く脈打っている。それだけで肺がわななく。心臓が胸を押し上げるようだ。中指の腹で裏筋を押すように擦りつける。小さく震えながら亀山は甘ったれたような息を吐いた。
「座れ」
「えっ?」
「いいから」
 亀山の肩を無理矢理押して半ば強引に便座に座らせる。どさくさで俺はその膝の上に跨る。流れがあるような素振りで。全然ないけど。
「竿だけでイけよ」
 整髪料のにおいを感じる耳元に唇を近づけるとそれだけで亀山は震えた。汗のにおいと甘ったるいにおいが精臭に混じって、いやらしいにおいはそれだけで俺の昂奮を高めていく。そのまま舌を出す。止まっている手を取って促すと、亀山はゆるゆるとまた扱き始める。耳朶をしゃぶり首筋を舐めると吐息に混ざって声が漏れた。お互いどうかしているのだろう。肩と肩をくっつけ合わせるようにして互いの昂りを見えないようにして己の中指に唾液を絡める。腹の下の状態を感じながらアナルに指を埋めていく。見咎められてもこれが俺のスタンダードオナニーだからという方向でごり押そう。というか、なんか、もう会社とか、後輩とか、ホモバレとか、知らねぇ。ケツの中は変に熱くうねっている。もう俺は筋金入りの変態なんだろう。亀山の荒んだ息を聞いてるだけで身体の芯が震えてくる。
「ごめん」
 亀山が言葉を認識するより先に身体は動いていた。亀山の腹にちんぽを押し付けるように近付いて、先走りにびたびたになっている張り出した亀頭をアナルに接触させる。
「えっ、な……」
 戸惑いに気付かないふりをして俺は亀山の首に取り縋るような形で顔を埋め、亀山の顔を見ないようにする。潤滑も慣らしも不十分だったがそれなりに慣れたアナルは厳つい亀頭をずぶずぶに飲み込んでいく。自重を用いて押し広げていく。先っぽだけのんじゃえば後はつるっと入っていくだろう。なんて、若干読みが甘かった。先っぽがすごいんだって。腸壁を抉りながら直腸を拡げていく。やばいんだって。すごいんだって。脂汗が背中を伝う。ちょ、だとか待っ、だとか不明瞭な言葉を発し唇を震わせる亀山はあうあうになって俺を押し止めようとする。バカもう刺さってんだよ。今更抜いてどうなる。ピストン運動のひとつやふたつしたところで変わらねぇだろ心理的には。変わるか。レイプじゃんね、こんなん。でもだけどなんかもう考えられない明日のこととか、それ以前に終わった後のこと。
「あっ、あっ、ん……、すっ、ご」
「待って、待ってくださいちょっと……、だって」
 浮かしたケツをゆっくり下ろしきると気まずさが沸き起こってくる。亀山はあうあうのままなんでとかどうしてとか言う。勢いで腰動かすなりすりゃあいいのにノリの悪いノンケはぷるぷると小刻みに震えるばかりだ。腹ん中で亀山のご立派様は萎えることなく脈打っているというのに。すげぇな。動いちゃえばいいのに。俺が動いちゃえばいいかもう。いっちゃえいっちゃえ。知るか社会性なんかもう地に落ちてるんだよ亀山のちんぽ握った瞬間から。
 亀山の頭を抱いて前立腺を擦るように腰を動かす。ずりずりにそこを擦りあげると俺のちんぽは先走りに先走る。亀山のワイシャツに染みを作る。ごめん。と思うのに先っぽが擦れるのも気持ちよくて、というか亀山の全部が気持ちよくて、煽られていて、どうしよう一期一会のセックスなのかと思うと惜しくてならない。ならば味わいつくしてやろうと突き入れたちんぽを限界まで引き抜いた。ところで亀山の手が強く俺の腰を押さえた。ほんの少し俺の身体を離して真剣な眼差しを向けてくる。
「まっ、待ってください先輩は、俺のこと好きなんですか」
「……」
 サッと熱が引いていく。好きだとか嫌いだとか、今の今まで考えたこともなかった。と、正直に答えたら顔を真っ赤にした涙目の後輩は本当に立ち直れなくなってしまうかもしれない。突き放されるかもしれない。と、なると俺のこの快感のど真ん中にある身体は放り出されてしまうわけで、どうせ一期一会セックスならやりきりたいという思いもある。ならば?
「すぅ……き……、好き……、だ、よ?」
 とか、そんな感じ? みたいな感じでいこうかなって感じで言うと赤い顔を更に赤くし照れたみたいに表情がふわふわし、あれもしかしてこいつすげぇ恋愛慣れしてねぇんじゃねというか事によったら童貞じゃねと疑惑を抱いていると亀山はぼそぼそと細切れに言葉を発する。
「あの、俺、まだ自分の気持ちわかんなくて、なんていうか、なんか」
 気持ちもなにもねぇだろうよ気持ちいいだけで。気持ちいいならいいじゃんってだけじゃんとか言ったらダメか。というかグダグダ喋っているよりも俺とおまえのフル勃起をどうにかしようや。どうすんだよ放っておいて。なんも解決しないじゃないか。
「中、擦って……一緒に気持ちよくなろうよ」
 とかなんとか言ってみたらぐじゅぐじゅのピストンが始まって、あっ、とかうっ、とか言って、亀山が自発的に動き出したから俺も自分のちんぽを心置きなく扱き倒して、わけ分かんないまま亀山のワイシャツにうっかり精子を飛ばしてしまったけど気にするより先に亀山に力の抜けた身体をきつく抱き締められて、すぐに身体の中を熱く濡らされる感覚があったからあー中出しだなぁと思っているうち終わったような感じになった。
 しばらく息をしていた。汗と精子のにおいがした。
「あの……」
 なにかを言いたいらしい亀山はなにも言えないまま口ごもっている。
「今夜飲みにいこうか」
 先輩らしく言ってみる。俺のケツには亀山のちんぽが入りっぱなしだったけども。頼れる先輩面に亀山も心を解いたのか緊張した面持ちを崩しへへっと笑った。亀山、おまえのちんぽは決してコンプレックスに思うような悪いもんじゃない。むしろ良いちんぽだと教えてやろう。今夜、ハイボールでも飲みながら……。



(10.11.7)
置場