漫画マッシーン


「チョコとバニラ、どっちにする?」
 関節駆動人形に紐をかけてた俺に、同居人の女装男が笑いかける。手にはカップアイス。今はいらないと言って邪険にすると、じゃあバニラ食べちゃうよと言ってスプーンを取りに行った。
「なに悩んでるの?」
 バニラアイスをスプーンでかき回しながら町田が訊く。ハーゲンダッツを練るんじゃないと思って膝を蹴ると、近頃女でも出さないような声を出し「いたぁい」と言う。
「亀甲縛りってどうやるんだ?」
「やだぁー! スケベー!」
 きゃあきゃあ声を上げる町田を倦んで舌打ちをすると、町田は姿勢を正しアイスを練りだす。
「漫画の資料?」
「そう。欲しい構図の資料がねぇんだよ」
 憮然として言うと、町田は「あたし縛れるよ」と言った。
「まじで? じゃあさ、ここ、どうなってんの?」
 資料用の写真を指して問えば、説明しづらいの言葉が返ってくる。また舌打ちすると、町田はアッケラカンと「縛ってみればいいじゃん」と言う。
「おう、頼む」
「ビニール紐で良い?」
「それしかないだろ?」
 じゃあ、と言って町田が俺の服に手を掛ける。チョット待て!
「え? だって私、自分で自分は縛れないもの」
「まじかよ」
「祐ちゃん縛ってあたしが写真撮れば良いんじゃない?」
 そうか……と不承不承納得して服を脱ぐ。パンツ一枚になって、嫌々「頼む」と頭を下げると、町田は毅然とした声で「全部!」と言う。
「まじかよ……」
「全部脱がなきゃあたしもう知らないんだから」
「わかったよ」
 思い切りが大事だと己を鼓舞し、パンツを脱いで全裸になる。町田はニコニコと笑って俺の身体に紐を掛けていく。
 何だか変な感じだ。高校の時の町田を知っているだけに、今、女装して俺を縛ってる男が陸上部のエースだったと思うとおかしい。
 股間を触られてムカつく。両腕を後ろ手に縛られているので蹴りで抗議をすると、仕方ないでしょと返ってくる。わざとらしく擦ってくるので「おい!」と怒る。
「冗談でしょー」
 もう! と不貞腐れながら手は休めない。
「縛りながらもスキンシップは忘れちゃダメなのよ」
 フフと笑いながら「はい、完成」と手を叩く。俺の身体は赤いビニール紐に雁字搦めになっていた。
「よし! 早く写真撮れ!」
 少しでも早く縄を解いて欲しくて催促する。感動の少ない俺の態度に町田は不満そうだったが、渋々デジカメを構えた。
 必要な構図を撮らせて撮影は終了となったとき、町田はいたずらっぽく笑い、「提案」と言う。
「その縛り方だと足が自由になるでしょう? だからね、足の自由も奪っちゃう方法があるの」
 悲しい性か、俺は貧乏根性から「じゃあそれも」と追加オーダーをしてしまった。
 町田は適当な長さの棒がいると言うが、そんなものはない。仕方ないからと言って布団叩きを手にする。それを俺の両膝の下に通し、開脚させたまま足と布団叩きの柄を縛り付ける。
 写真を撮られながら俺は、漫画のコマ割りを考える。
「もういいぞ、町田」
 そう? と言ってデジカメを置いた町田は、含み笑いで身をすり寄せてきた。
「折角だから、やりましょうよ」
「ふざけんなバカ」
 冗談だと思って笑っていると、マニキュアを塗った町田の指が俺の性器を握り、擦り始めた。
「オイッ! 何やってんだオマエ!」
「折角だから? 祐ちゃんのインポも治してあげるわよ」
「うっせぇ! ふざけんのも大概にしろよ」
 ふざけてないもんと馬鹿のように笑って、俺のものを口に含む。舌の感触にぞくりと震え、鼻が鳴った。
「あれぇ立ってきた」
 笑いながら俺の目を覗く町田の目はいやらしい。舌打ちをしてきつく目を閉じる。
 卑猥な水の音に、下半身が熱くなる。馬鹿な、と思うのに甘ったるい息が漏れる。
「あーあ。アイス溶けちゃった」
 薄く目を開けると、カップの中に溜まった溶けたアイスを指にすくい舐めるのが見えた。横目で俺を見て笑ったと思うと、溶けたバニラを指に絡めて、あろうことか、俺の、内側へ、指を差し込んできた!
「イッ…! バカ、止めろ!」
「バニラプレイよう」
 そう言って町田はへらへら笑い指を出入りさせる。湿った音と甘い匂い。痛みと違和感に、俺は呻く。道理なのか、変に上手いのである。前立腺を刺激して、痛いくらいに立ち上がったものへの口淫を再開させる。
「あっ、ヤメ…ッ! んっ…ああッ」
 もう達するという寸前に口を離され、俺は知らず甘えた声を出す。解放を請うと、町田はニヤリと笑う。目が雄の輝きを宿す。
「……じゃあ、頑張っちゃうぞ」
 冗談めかして笑い、限界に近い俺のものをビニール紐で戒める。抗議すれば「もっとヨクしてあげる」と笑うばかりだ。
「折角なので、この部屋にある変態くさい道具を使ってみましょう」
「っ…ばか! 仕事用だっ!」
 俺を無視して町田は資料用の大人のオモチャを詰め込んだダンボールを物色し始める。俺はそこにある道具を一々思い出しゾッとする。
 町田の手にはピンクローターと張り型。男性器の模造品は、チョット笑ちゃうくらい大きい。
「……無理だって、それは」
「そうね、やっぱ初めてはあたしのがイイわよね」
「ていうか、僕おしりはチョット……」
 このまま冗談でしたで終わらないかなぁと思っても、町田は俄然やる気らしい。なに言ってんのよと笑いながら、散々いじられて緩んだ入口にまた指を差し込んでくる。
「んっ…あ、ああっ!」
「祐ちゃん、素質あるわよ」
 そのまま音を立て抜き差しされ、身体が震える。不意に振動音が聞こえて間もなく、先走りを零す先端へあてがわれた。
「ふっ…ああっ、んっ! ヤッ、あああっ!」
 電気の容赦ない振動と内側を擦るなまめかしい動きに、頭の中が真っ白になる。達しそうなのに根元をきつく縛られたままで、達する事もままならない。
「まっ、まちだっ! 紐っ…解いて」
「そう言われて祐ちゃんの漫画では解いてあげる?」
「あっあ…、たっ…頼む…」
 仕方ないなぁと笑いながら町田は俺を寝かせ、腰の下にクッションを置く。
「ちがっ…! 紐、解いてッ!」
「解ってるって」
 笑いながら、町田はパンツを脱いでスカートをたくし上げる。町田のものは、もうすっかり立ち上がっていた。……ものすごい光景である。上半身は女の恰好をしているのに、下半身は紛れもなく男なのだ。
 行くわよ、と言って町田は口紅がほとんど落ちた唇を舐めた。その仕草に妙な男らしさを感じゾクッと背中を走るものがあった。
 解された場所に熱く脈打つものが触れる。恐怖を感じきつく目を閉じる。
「くっ…んんっ! 苦しっ…」
 町田はすべてを納めると、ローターと一緒に俺のものを握った。
「ヤッ! あああっ!」
 内部の苦しみを押し退けるほどの直接的な刺激に眩む。町田は腰を使い、掌も動かし続ける。気が狂うほどの快楽に俺は喉を嗄らし、放出を乞うた。
「いいよ、イって」
 艶めいてきた町田の声に惑う。付け根を縛る紐を解かれ、擦られて達する。
 解放感より先に町田に突き上げられ、また息を乱す。町田が精を吐き出すまでに、俺はまた昂っていた。



 翌日、身体にはまだ紐の跡が残っていた。
「町田君、ちょっと座りなさいよ」
 ちゃぶ台に向かい合って、重大な会議を開催する。
「君の女装は一体なんなの? なんのための女装なの? 意味わかんねぇんだけど、そこんとこどうなの?」
 そう。会議というよりは裁判である。おまえの女装はなんのための女装だ、というのが主眼である。
「昨夜のことは女の子になりたい人のすることですか? ええ、どうなんだ町田!」
「……ていうかー、別に女の子になりたい訳じゃないし」
「はぁ? なんだそれ?!」
「それに僕、タチだし」
「おいおい……待てよ、意味が分からん」
 矢継ぎ早に繰り出される町田のパンチに混乱してくる。町田は別に女になりたいから女装をしてるわけではない。そして町田はタチである。……事実を整理していくと、つまり……。
「川井が嫌がるからやってんだよ」
 町田はバチッと音が出そうなウィンクをしてハハッと男らしく笑う。
「これからは男として川井をメロメロにしちゃうゾ!」
「死ねっ!」
 擦り寄ってくる町田の膝を蹴って、俺は脱力した。



(05.4.28)
置場