キューティー!



 桜も散りきった四月に俺はとんでもないものを発見したのだった。
 抑えようにも抑えきれぬ喜悦に身体の芯から震えが走る。これは奇跡か。奇跡なのだろう。ピカピカと真新しい新入生の群れの中で一際輝いて見える彼から目が離せなくなっていた。隣で部活案内のビラを持つ飯島に確認をする。
「あれは子猫だろうか」
「は?」
「俺は子猫じゃないかと思うんだけど」
「どこに猫がいるんだよ」
「ちょっと確認してくる」
「え? おい」
 新入生の群れの中へ飛び込んでいく。一つしか歳が違わないはずなのに彼らは随分幼く見えた。自分が同級生の中でも体格がいい方であるから余計にそう感じるのかもしれない。怯えたように道をあける小僧らを無視して俺は目当ての人物の前へ立った。見下ろすと、彼は上目遣いにこちらを見上げる。きょとんとした仕草がますます子猫っぽい。
「君は子猫だろうか」
「違いますけど」
「ならば子猫の化身だろうか」
「ちょっとなんの話か分からないんですけど」
 パチパチとした瞬きの中で潤んだ黒目はまっすぐに俺へ向かう。胸が締め付けられるように愛しい。抱きしめてもいいだろうか。撫でまわしてもいいだろうか。高鳴る心臓の鼓動に煽られて身体は勝手に震えだす。
「少し撫でてもいいですか」
「なにを?」
「君を」
「は?」
「ごめんねー! こいつちょっと頭おかしいんだわ」
 突然肩を掴まれる。飯島だ。よかったらどうぞと部活案内のビラを渡している。
「柔道部?」
「そうそう。よかったらどうですか」
「おい、子猫は柔道なんかしないだろう」
「ちゃんと受け身とれば頭打たないしこいつみたいにならないから」
「待て、俺は頭なんか打ってないぞ」
「すみません、俺もう部活決めてるんで」
 ぺこりと頭を下げて子猫は去ろうとする。日差しを反射して髪はツヤツヤと光沢を放っている。
「待って! ください。名前……名前教えてください。あとクラスと弁当派か学食派か……できたら一緒に帰りませんか」
「鳥取、です。B組で、多分弁当。一緒には帰らないです」
 それじゃあと言って小走りに走っていく。子猫なのに鳥なのか。トリちゃん。トリちゃん。小さくなっていく後ろ姿にたった今までの映像を脳内に再生させる。子猫そうで子猫じゃない少し子猫っぽいトリちゃん。治まらないトキメキを感じながら胸に手を置く。溜息が出た。トリちゃんグッズがほしい。トリちゃんストラップがいい。それが無理ならトリちゃんマグカップだ。トリちゃんキーケース。トリちゃんミラー。トリちゃん手帳。様々なトリちゃんグッズで生活を彩りたい。
「飯島、俺はどうしたらいいだろう」
「脳のお医者さんへ行ったらどうだろう」
「可愛くて仕方ないんだ」
「恋じゃね?」
「恋なのか?」
「知らねぇけど」
 恋なのだ。陽気も穏やかな春の日に、俺は恋に落ちたのだ。胸を締め付けるほど愛おしいトリちゃん。俺を見上げる無垢な瞳を思い出す。まっすぐに俺の眼球を覗いてくる潤みがちなまなざしだ。瞼を閉じても思い出す。とくとくと血潮が騒ぐ。トリちゃん。なんという奇跡だろう。

 手にしたばかりの感情に俺の心は羽が生えたように浮ついている。自覚はある。瞬きをするのと同じだけ無自覚な反射としてトリちゃんを思い出す。行き場のない感情は吐息になって現れる。
「岩沢が狂ったって噂になってんぞ」
「俺は狂ってなどいない。強いて言うならトリちゃんに狂っているかもしれないが」
「それだよ」
 飯島は呆れたように息を吐く。
「今日も行くのか」
「今日も行くとも」
 通常授業が始まってからというもの俺はトリちゃんと昼食を食べようと毎日彼の教室へ通っているのだ。初日に断られて以来一年B組の教室前の廊下で昼食をとるようになった。一度は申し訳ないからと俺に帰るよう提案したトリちゃんだったが俺としては廊下からトリちゃんの姿が見えるだけでも喜ばしいことであるから構うことはないと言うと納得してくれたようだった。時々級友と食事を終えた後俺のもとへやってきてくれることもある。
「迷惑だと思うよ」
 飯島は言う。だが本人からそのようには聞いていない。
「言えるわけねぇだろ一年に」
 そうなのだろうか。言われてみたらそうかもしれない。なんて言ったってトリちゃんはピカピカの一年生なのだから。そうとなったら確認してみなければなるまい。俺は決して先輩であることを振りかざしてトリちゃんにわがままを通したいわけではない。むしろトリちゃん本位に世界が回ればいいと思うくらいだ。
「トリちゃんいますか」
 昼休み早々にトリちゃんの教室を訪ねる。普段は黙って廊下で飯を食うが今日ばかりは致し方ない。先輩が教室を訪ねてくるという状況に一年たちはビビっている。声をかけた一年が鳥取くんと教室内に声をかけるまでもなくトリちゃんはこちらへやってくる。
「トリちゃん!」
「な、なんですか」
「俺は迷惑だろうか」
 周囲が一瞬ざわめいたがすぐにシンと静まり返った。トリちゃんは一瞬目をさまよわせると子猫のように愛らしい顔で俺を見上げ口ごもる。
「正直に言ってくれて構わない。俺はトリちゃんが地軸であればいいと思っている」
「地軸?」
「トリちゃんを軸として地球が回転しているのではないかと俺は思うのだよ」
「なんの話ですか」
「俺が迷惑かどうか」
 トリちゃんは難しい顔をして場所移しましょうと提案してきた。俺はしかし移動することでどれだけ時間のかかる話かは分からないがトリちゃんのお弁当タイムがなくなってしまうことが気がかりだった。それを伝えるとトリちゃんは弁当を取りに机へ向かい友人らに声をかけて戻ってきた。
「行きましょうか」
 促されて俺はトリちゃんの後を歩く。ざわざわと喧騒を取り戻した人々の群れをすり抜けていく小さな背中を俺はじっと見ていた。

「あんまり見ないでください」
 理科実験室で俺とトリちゃんは隣り合って座っていた。机に向かって弁当を広げているトリちゃんに向かって座りパンを食べる。トリちゃんは食べるのがゆっくりだった。俺なら昼まで弁当を食べずにいたら空腹のあまり掻き込んでしまうところだがトリちゃんは丁寧に食べていく。トリちゃんもバスケ部の朝練があるはずなのに持つのだろうか。不思議に思って訊くと合間におにぎりを食べているという。おにぎりを食べているトリちゃんも想像するに可愛いのだろう。
 あまり凝視すると食べづらそうだったので見ていない風を装いながらトリちゃんを眺めた。パンの空き袋を縛ったり解いたり縛ったりしながら取り留めのない会話をしたりした。トリちゃんは気兼ねしない方なのか会話は停滞することなく続いていく。お互いの部活のこと、勉強のこと、学校行事のこと、トリちゃんからされる質問に先輩としての経験を話すだけに終始して俺は自分が話下手だったのだと気付かされた。
「それでですね」
 よく噛んで弁当を食べ終えたトリちゃんは缶のお茶を一口飲むと居住まいを正し俺に向かう。俺はハッとしてここへ来た理由を思い出す。
「俺は先輩が迷惑というよりどうしたらいいのかなって戸惑ってるというのがあって」
「それは迷惑ということではなくて?」
「だって先輩俺になんかするわけじゃないじゃないっすか。別に迷惑もなにもないっすよ」
 でも、とトリちゃんは言いよどむ。続きを促すと唇を尖らせううんと唸る。可愛い。八の字を描く眉の下で瞳はきょろきょろ動きパッと俺を見上げる。
「俺のことで先輩いろいろ言われてるじゃないですか。先輩すげーいい人だって思うし、なんか、それが……申し訳ないっていうか」
「別になにも言われてないよ」
「言われてるんすよ」
「もしかしてトリちゃんになにか言うやつがいるの?」
「俺は別に、ちょっとからかわれたりするけどそれだけだし」
「気にならないの?」
「気にならないです」
「じゃあいいんじゃない?」
「そうっすね。……いや、待って待って」
「待つ待つ」
「えーっと、あのですね、俺の家族みんな背でかいんですよ。だから俺も伸びると思うんですよ」
「俺も去年八センチ伸びたよ」
「えっ嘘マジ? やっぱ牛乳飲みました?」
「牛乳もだけど肉も魚も食うのがいいと思う」
「あー、栄養」
「うん。栄養。トリちゃんバスケやってるしすごい伸びると思う」
 言うとトリちゃんはそうかなとにっこり笑った。すごく可愛かった。すごくすごく可愛かった。自然と頬が緩んで俺まで笑ってしまう。するとトリちゃんはパチパチと瞬きをして、俺は多分トリちゃんの目の形がとても好きなんだろうと思った。鼻筋も好きだと思った。唇もとても可愛いと思う。
「俺が背伸びるの嫌じゃないですか」
「なんで? 嫌じゃないよ」
 それにトリちゃんはいかにも伸びそうな気配がある。というか今まさに伸びている気さえする。毎日顔を見ていて、土日に合わない間にも大人びていくような気がする。髪が伸びるのより速くトリちゃんは成長している気がする。なにせ毎日新鮮なのだ。新鮮な驚きがある。くすむ間もないほどの速さで刷新されていく。俺はまったくトリちゃんを見慣れるということがないし、見飽きるということもない。
 予鈴が鳴ったので俺たちは理科室を出た。トリちゃんが教室へ入るのを見届けて俺も自分のクラスへ帰る。教室へ入ると飯島が早速トリちゃんのことを訊いてきた。何故話す前から一緒に昼食を食べたことを知っているのか。不思議には思ったがさっきまで話していたトリちゃんを反芻するのに夢中になって相槌はほとんど打たなかった。

「岩沢、ちょっといいか」
 放課後、柔道場へ入った早々三島部長から呼び出された。三島部長は高校生とは思えないほど恵まれた体格をしている。そのうえとても真面目な人なので彼に対し俺は少し萎縮してしまう。道場の隅で俺と部長は正座をして向かい合った。
「最近バスケ部の一年と仲がいいんだってな」
「仲がいいかは分かりませんが俺は好きです」
「そ、そうか」
「はい」
 そうか、とまた部長は繰り返す。なにかを言いたそうに口ごもるので俺は黙っていた。普段歯切れのいい部長が言葉に迷う姿は珍しいなと頭の隅で思っていた。
「あー、なんだ、太田……バスケ部の部長からそういう話を聞いて」
「そうなんですか」
「あー、うん。そうなんだ。えー、と。間違いがないようにってことを」
「間違い?」
「鳥井くんといったかな」
「トリちゃんです」
「ああそう、トリちゃん。小柄な子だっていうじゃないか」
「伸びると思いますけどね」
「そうなの?」
「手足が大きいし、それによく飛び跳ねてるんで」
「まぁ、伸びるか伸びないかは置いておいて」
「はい」
「今は小柄なわけだろう」
「そうですね」
「小柄な子を……そのー、お前が無理矢理……」
「無理矢理?」
「……」
「……」
「飯島ぁ! 助けてくれ!」
 しどろもどろと喋っていた部長は突然大きな声を出しストレッチ中の飯島を呼んだ。飯島は一礼して俺と部長の脇に正座する。
「つまりおまえがトリちゃんを襲うことがないように部長は言いたいわけだよ」
 飯島は座に加わってすぐさま要約する。恐らくずっと聞き耳を立てていたのだろう。
「俺がトリちゃんを襲うわけないだろう」
「性的な意味でだよ」
「性的?」
「レイプすんなってことだよ」
「レ」
「飯島、言いすぎだ! 岩沢、俺はおまえを信じているからな!」
「だって部長!」
「するわけないだろ! 俺がトリちゃんに……だなんて」
 なんてことを言うのだ。俺がトリちゃんをレイプだなんて。有り得ない。起こり得ない。トリちゃんは慈しみ愛情をもって接するべき存在で性の玩具にするような、そんなトリちゃんは存在しないのだ。トリちゃんを守るならばまだしも俺が害をなすだなんて有り得ない。
「岩沢、トリちゃんだって男の子なんだぞ。オナニーくらいしてるんだぞ」
「それくらい分かっています」
「おまえトリちゃんのオナニー想像しないのかよ」
「想像してどうするんだよ」
「シコったり」
「最低だなおまえ」
「シコらないのか、岩沢!」
「部長まで! そりゃ俺だってシコりますよ、だからと言ってトリちゃんは関係ない話でしょう」
「部長、分かった。こいつのはアガペーなんだ」
「ちょっと意味が分からない」
「俺も分からない」
「すけべ抜きで好きなんだ」
「なにを当たり前のことを」
「すけべ抜きってマジで? どうすんの?」
「どうもこうも!」
「ど変態なんですよ」
「どこが変態なんだ!」
「きもいよ〜。すけべ抜きで男の子のストーカーしてるって」
「すけべ有りなら納得はできるよな」
「部長! 俺にすけべ心を持ってほしいんですか!」
「いやダメだ。ダメだぞ岩沢。部のことを思ってそこは我慢してくれ」
「トリちゃんのためでしょう!」
「ああ、そうだな。トリちゃんのためにもダメだぞ」
 齟齬がある。なぜトリちゃんを思うのにすけべな気持ちにならなければならないのだ。トリちゃんを思うときに感じる胸を締め付けられるような苦しみやトリちゃんを見つめたときに感じる嬉しさや高揚がどうしていやらしい気持ちに結び付くというのだ。確かにトリちゃんは可愛い。子猫みたいにまん丸の大きな目は潤んで頬は丸く、唇はツンと尖っている。髪の毛もサラサラふわふわしているし、動いている姿もとても愛らしい。一緒にいられたらそれだけで幸せになれるのだ。いやらしい気持ちなんてトリちゃんは迷惑だろうし困るだろうし俺はトリちゃんが困ったり苦しんだりするのは嫌だ。トリちゃんはあの可愛らしい笑顔を浮かべて暮らしていくべき人なのだ。俺はそれをそっと見守っていけたら充分なのだ。
 つまり、俺の恋とはそういうものなのです。と伝えると二人は黙り込みふうと息を吐き「ピュアだな」と呟いた。
「でも多分トリちゃんはおまえの気持ち、俺ら寄りに考えてると思うぜ」
「なんだって!」

 部活を終え俺は体育館の外でトリちゃんを待った。バスケ部の練習自体はもう終わっているようだったが一年生は片付けが終わるまで終わらないのだ。
 ほんの少し寒さを感じポケットに手を突っ込む。トリちゃんは俺をレイプしかねない人間だと思っているのだろうか。だとしたらそれは俺の至らなさが原因で、トリちゃんにそういう人間だと思われてしまう俺が悪いのだ。どうにか誤解を解きたい。恐れないで笑ってほしい。レイプの危機に萎縮などせずありのままのトリちゃんを見せてほしい。
 体育館の灯りが消えて、しばらくするとバラバラと出てくる集団の気配がした。顔を上げるとトリちゃんが立ち止まったままこちらを見ていた。月明かりに白んだトリちゃんの表情が俺には分からなかった。怯えているのか。こんな風に待ち伏せて、俺がトリちゃんに乱暴を働くと思っているのか。
「トリちゃん! 俺は君をレイプしたりなんかしない!」
 伝えたい一心で伝えると、トリちゃんは分かってますと叫んでこちらへ向かって走ってくる。本当に分かってくれたのだろうか。俺に気兼ねして言っているだけではないのだろうか。俺はトリちゃんを愛しているが、だからと言って傷つけるようなことや貶めるようなことをしたいだなんて思わない。
「信じてほしい、俺は君の酸素になりたい」
「分かりました、分かりましたから場所変えましょう」
 トリちゃんに引っ張られて俺たちは歩き出す。腕に絡んだトリちゃんの腕はとても細かった。強い力で引っ張られる。丸い後頭部がとても可愛かった。
 人気のない道へ出るとトリちゃんは俺を放した。ゆっくりとした足取りで夜道を進む。
「トリちゃん、俺が怖くない?」
「どうしたんですか、突然」
「いや、……君に誤解されるようなことを俺はしていたんじゃないかと思って」
「別にしてもいいですよ、レイプ」
「な」
 街灯の点在する道は薄暗く、月明かりに照らされるトリちゃんはどこか大人びて見えた。俺はトリちゃんの言葉の意味を飲み込めずに頭の中で反芻する。
「なにを」
「でも、しないでしょう」
 水気を帯びた黒目の上に俺を映し、瞬きをしたタイミングでトリちゃんは前を向いてしまう。いつも俺を惑わせる可愛らしい顔は可愛らしいだけではなく、もっと、なんともいえない含みを感じられた。
「しない」
「してもいいのに」
「えっ」
 ふふ、と笑い俺を見上げる。つられて俺も笑う。トリちゃんの笑顔もいつもと違う。俺はトリちゃんがとても大人に感じられた。
「俺の背が伸びて、全然可愛くなくなったら先輩どうします?」
「どうもしない、好きだよ」
 言うと、トリちゃんは俺をじっと見上げてくる。トリちゃんの気持ちが分からなくて不安になってくる。トリちゃんは一体どういうつもりで言葉を繋げているのか、俺になにを言ってほしいのか、俺はなにも分からなかった。
「じゃあ、俺の背が伸びて全然可愛くなくなったらえっちしましょう」
「し! しない!」
「その時になったら決めましょう」
「しないよ! 俺は!」
「俺はちょっとしたいかも」
「なに」
「分からないけど」
 トリちゃんは俺の腕を引く。爪先立ちで、耳元で、秘密ですよと言葉を吹き込む。心臓が痛いほど脈打っていた。呼吸の仕方が分からなかった。トリちゃんは俺から身を離すとにっこり笑って歩き出す。俺も遅れてトリちゃんの後を追う。トリちゃんの早歩きに足をもつれさせながらついていく。心臓はさっきから鳴り続けて痛みすら覚えている。いけないと思うのに俺は子猫じゃないトリちゃんを想像し続けて、トリちゃんが言ういつか分からないいつかを思い描いて、なんでだか泣きたくなった。揺れるトリちゃんの後頭部を眺めながら、ようやく分かった。俺は今恋をしているんだ。今ようやく恋に落ちたんだ。
 トリちゃんが振り返る。それじゃあと手を上げて分かれ道を右に進む。言葉を返しそこなってしまった。本当はもっと話がしたかったのに。明日また会えるけど、今夜言わなければならないことがある。
「トリちゃん!」
 ずんずんと進んでいたトリちゃんは立ち止まって、一呼吸置いて振り返る。
「おやすみ」
 言うとトリちゃんはかすかに笑っておやすみと返してくれた。俺たちはまたほんの少し笑い合って、手を振って、それぞれの道を歩き出す。いつか分からない未来にどうなるかも分からないけれど、今、この瞬間に満たされて渇望する矛盾した胸の苦しさを心地いいと思った。



(11.10.15)
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