放課後の勉強



 教師になって早十年。月日が経つのは早いものだが、子供たちの成長を日々眺めているとあっという間だった気がする。
 放課後、昼間に比べて静まった教室で生徒たちが書いた夏休みの目標を壁に貼っていく。二重跳びができるようになりたい、100メートル泳げるようになる、天体観測する……どれだけ実現できるかは分からないが、どれも夏休みを充実させそうな目標だ。生徒の顔を一人一人思い出しながら掲示を続けていると、教室の扉が開く音がした。ロッカーに膝を置きながら振り返ると俺のクラスの槙野慎吾が扉に手を掛けたままこちらを窺っている。普段から大人しすぎる子だ、放課後誰もいない教室に入るのに気後れしているのだろう。
「忘れ物?」
「うん。算数ドリル。宿題しようとしたらなかった」
「そうか、帰ったらすぐ宿題やってるんだ?」
「うん。ごはんの前にやる」
「偉いな。いいよ、入っておいでよ」
 促すと槙野はモジモジしながら教室へ入ってきた。その後ろから更にもう一人。俺と同い歳くらいのガタイのいい男だ。この暑い中しっかりとネクタイをしている。目が合うとニコリともせず会釈された。
「槙野が世話になっております」
「あ、いえ……こちらこそ」
 ロッカーから降りて挨拶をする。恐らく槙野の特殊な家庭環境から推察するに極道関係の方なのだろう。大方お坊ちゃんを放課後一人で出歩かせないためのお付きだろう。子供のうちに自由に友達と遊び歩けない槙野を思うと少し不憫に思う。
「先生なにやってたの?」
「今日書いたやつ貼ってたんだよ。槙野はこれだね」
 ぎこちない漢字で柔道がんばると書かれたものを指さすと槙野は頷き、連れの男は覗き込んでくる。帯の色を訊いたりどんな練習をするのか訊くと槙野は嬉々として話し出した。楽しんでやれているのだろう。目線を合わせるためにしゃがむと熱の入った槙野がどんどん近付いてくる。近い。近い近い。
「わっ」
 尻もちをついた拍子に槙野が胸に飛び込んできた。大丈夫か、と咄嗟に訊いたものの俺も大概ケツが痛い。
「ぼく先生のこと好き」
「お? おお、先生も槙野のこと好きだよ」
「ほんと?」
「わっ」
 急接近してきた顔を避けると槙野は不満げに頬を膨らませた。
「なんで避けるのー!」
「なんでっておまえ」
「慎吾さん、どうぞ」
 いきなり背後から押さえつけられる。あんたは一体なにをやっているんだ。
「ちょっ、なにやってんすか」
「好きどうしはちゅうするんでしょー」
「男同士はしないよ」
「ほんと? 伊原」
「嘘です」
「おい!」
「慎吾さん、どうぞ」
 伊原に顎を固定され身動きできないところへ槙野の顔が迫ってくる。神様ごめんなさい。俺が悪いんじゃない。ギュッと目をつぶる。きつく閉ざした唇に柔らかい感触が触れる。俺が悪いんじゃない。神様、許してください。
 何度も何度も触れる幼い唇の感触を感じないようにきつく目を閉じていたが不意にTシャツを捲り上げられる感触があった。なにしてんだよ伊原ぁ!! とでも言ってやりたいが不用意に口を開けては大参事だ。薄く目を開け己の腹が露出していることを目視確認したうえで頭上にある伊原の顔へ睨みあげる。
「慎吾さん、例のやつ」
「うん」
 槙野の顔が胸元へ落ちる。まさか。えっ。うそ。小さな舌がぺろりと俺の乳首を舐めた。
「なっ! なにしてんだよ!」
「だって好きどうしはえっちするんでしょ」
「なっ! な、な、……おい、あんた! 子供に変なこと教えてるんじゃないだろうな!」
「保健体育の範囲だろ?」
「おしべとめしべからだろうが」
 というか俺にめしべはない! よって保健体育の範囲ではない!
「やめろ! ……あっ!」
 声を荒げた矢先に乳首をきつく摘ままれる。伊原だ。
「慎吾さん、ここ段々硬くなってきたでしょ」
「ほんとだ」
「舐めるだけじゃなく噛んだり吸ったりしていいとこ探すんです」
「いいとこ?」
 たとえば、と言って伊原は乳首に爪を立てた。じんと痺れるような感覚に思わず身体が強張るが声は我慢できた。
「こんな風に身体が気持ちよくなるところを探すんです」
「なってない!」
「だそうなのでもっと気持ちよくなるところを探してください」
「分かったぁ」
「やめなさい!」
「伊原……」
「慎吾さん、嫌よ嫌よも好きのうちってやつです」
「違う!」
「分かったぁ」
「こらー!」
 再び俺の胸元に顔を埋めた槙野は先程のような舐めるだけの単純な動作だけではなく噛んだり吸ったりを不規則に混ぜてくるようになった。俺が快感に震えると目敏く察知してそればっかりを続けてくる。左側は伊原にこねくり回されている。
「あんた乳首感じるんだ」
「ふあっ……!」
 不意に耳元に落とされた声に背筋が震えた。
「耳も好き?」
 外耳に歯を立てられ、舌が這い回る。ヤバイ。本当にヤバイ。無意識に背を反らしたせいで槙野に胸を突きだしてしまう。張りつめて薄くなった皮膚に音を立てて吸い付かれると快感はダイレクトに下半身へ降りた。反射的に背を丸めるが槙野の唇は追ってくる。
 伊原の拘束は緩んだかと思うと更に絡まって、俺の脚はいつの間にか伊原の足に絡め取られて開かされていた。
「慎吾さん、こっち」
 そう言って伊原は俺の盛り上がったズボンの前立てを示す。そっちはダメだろ。抵抗しようにも身体はがっちり固められている。抗議しようとした矢先、伊原の手がレバーを握るように無造作に俺のものを掴んだ。
「慎吾さん、これね、乳首と一緒です。気持ちいいと硬くなるんです」
「知ってる! 勃起でしょ」
「そうです」
「わー! 初めて見た!」
「面白いですよ、勃起ちんぽ」
 止めろとか、離せとか、色々言ってる俺を完全に無視して二人は最低な会話を続けている。その間も伊原の手は俺のものを揉みしだいてくる。
「乳首と一緒で気持ちよくしてやるとどんどん硬くなっていきますが、乳首と違って先っぽから濡れてくるんです」
「濡れる?」
「カウパーっていって気持ちよければ気持ちいいほど出るんです」
「すごぉい」
「いい加減にしろ!」
「伊原……」
「慎吾さん、嫌よ嫌よも……」
「好きのうち!」
「こらぁー!」
 伊原と槙野の手がズボンに掛かる。ジャージは腰回りがゴムのため簡単にずり下げられてしまう。パンツと一緒にズボンをずらされ俺の反応を示したものが取り出される。神様! 俺は悪くないんです! 勃起してるのは俺のせいじゃないんです!
「触ってみますか?」
「止めろ! ……っ!」
 伊原に促され槙野は赤く腫れ上がったものに指先を置いた。
「熱い……、ビクビクしてる」
「先っぽ、ここ、擦ってみて下さい」
 槙野の小さな人差し指が亀頭の割れ目を擦る。口を開けたら疾しい声が漏れそうで、俺は必死に奥歯を噛んだ。
「どんどん大きくなってどんどんぬるぬるになっていくでしょう。先生も気持ちいいんですよ」
 違う。違う違う違う。こんなのダメだ。最低だ。
「も、やだ……」
 涙が浮かんでくる。槙野の手は俺の反応を見ながらあちこちいじくりまわしてくる。伊原がヒントを与えるように指の輪でカリ首や裏筋を擦りたて、見よう見まねで槙野が倣う。あらゆるところを万遍なく刺激しながら尿道を抉るのは止めなかった。声を堪え、呼吸の狭間に嫌だと抵抗を重ねるがそのどれもが聞き流された。ビクつく身体を抑えきれなくて伊原の腕をきつく握る。
「腰振って嫌もクソもねぇだろ」
「ちがっ…、あっ! くっ!」
「慎吾さん、手離してください」
「えっ!」
「あっ!」
 突然パッと離された手を追うように無意識に腰を突き出していた。それでも望む刺激はもう遠のいて、行き場のない焦燥に神経が焼き切れそうになる。
「先生もういっちゃいそうでしょ」
「いく?」
「射精ですよ」
「ダメなの?」
「やだって言うんだからダメなんでしょう」
「ほんとはいいんじゃないの?」
「ここまできたら素直になるまで焦らしてやらないと」
「へぇー。じゃあぼくどうしたらいい?」
「ちんぽ以外なら触っていいですよ」
 最低な示唆に倣い槙野は胸に吸いついてくる。幼い顔で乳首を吸う姿は幼気で、一見すると性感を煽る仕草とは思えないほど無邪気だった。けれどその口腔内で舌先を尖らせ乳首の先をくじり、歯を立て、吸い上げるのだ。コツを得たとばかりに熱心にされると高められた身体は持ち主の意志に反してのたうつ。嫌だ。こんなの俺じゃない。こんな浅ましく腰を振り、子供に胸を突き出すなんて。
 伊原に背を押され膝をつき床に両手をついた。もう逃げられる。分かっているのに槙野の幼い身体に縋りつき、丸みを帯びた指先に弄られる胸の刺激から逃れられなかった。いきたい。射精したい。ちんぽを扱き上げて溜まりにたまった性感を解き放ちたい。今更槙野の目を気にする必要があるのだろうか。こんな最低で浅ましい無様な姿を見られてなお、俺はまだ先生でいたいのだろうか。甘受してしまえば楽になる。槙野だって純粋じゃない。赤く腫れ上がり涎を垂れ流すものの意味だって分かっているのだ。
「ひっ! やめっ、やめろ!」
 伊原の指先がアナルの襞をなぞりわずかに侵入してくる。第一関節までの抜き差しにアナルがひくつくのが分かる。自然な生理現象と知りつつ、淫らな仕草にみえて余計そこを締めてしまう。伊原も分かっているはずなのに、俺の浅ましさを笑うように鼻を鳴らした。
「前戯だけじゃ性教育にならねぇだろ。してしてって指食ってんのはあんただよ」
「違う! 俺は」
「生徒と保護者にいたずらされてちんぽから涎垂らして……、あんたみたいなのなんていうか知ってるか?」
 淫乱。俺が内心忌避し続けた言葉を伊原は難なく言ってのけた。違う。違う。俺のせいじゃない。こんなことしたくない。されたくない。なのになんで、俺は逃げないのだろう。
「慎吾さん、先生のちんぽ弄っていいですよ」
「いっちゃわない?」
「いかせてやりゃあいいんですよ。先生は気持ちいのが大好きなんですから」
「やっ、あ、はっ、ん!」
 槙野の手が伸びてくる。根元から先端へ向かって手を滑らせ、先っぽを握るように刺激してくる。
「すごいぬるぬるしてる」
「そんだけすけべだってことですよ」
「ちがっ……! あっ、くっ!」
 アナルを弄られながら二人の手がペニスに絡む。槙野がぺろぺろと唇を舐め、押し付けてくる。キスの仕方も知らないくせに、なんでこの子はこんなことをやっているんだろう。
「慎吾さんも指入れてみますか?」
「やだっ、や! んぎっ……!」
 大人と子供の指が二本、無理矢理押し入ってくる。痛い。嫌だ。きつい。無理だ。
「すごいきついね」
「柔らかくなるまで解してやるんです」
 二つの指はばらばらに内側を擦る。抉じ開けられる痛みとペニスや乳首からもたらされる性感と綯交ぜになって気持ちが悪い。やがて締め付けに痛んだ槙野の指が抜かれたが、伊原はなおも根気強くそこを弄繰り回した。ひっきりなしに溢れる先走りを拭いながらぬめりを足していく。それでも痛くてたまらなかった。
「痛い……、も、止めて」
「舐めてやろうか?」
「やだ……、やっ、あっ!」
「やっぱあんた素質あるわ」
 笑いながら伊原は中のしこりを押しつぶす。なんで。なんでこんなとこが気持ちいいんだ。やだ。もう嫌だ。無理矢理押しつけられる快感は苦痛でしかない。嫌で嫌でたまらないのに吐き出す息は高まっていく。
「慎吾さん、もう一回指入れてみてください。中に感触の違うところがあるでしょう。そこをね、肩こり揉み解すみたいにようく揉んでやるとね、中がグネグネうねってちんぽ欲しがるんですよ」
 左手の親指で中を押し広げ二本の指で突いてくる。その隙間から更に槙野の指が差し込まれた。子供ながらの好奇心なのか遠慮杓子もなく前立腺を押しあげられて身体は快感のために痙攣を始めている。
「ああ、先生いっちゃうな」
 伊原が小さく呟くと槙野の指はそこを弄るのを止め抜け出ていく。
「あっ! や、なんで……」
「先生、素直になった?」
 笑う槙野の顔は子供とは思えないほど嗜虐的で背筋に寒気が走った。
「あ……、いきたい」
「どうしてほしい?」
「中っ、中弄って、ちんぽも」
「だってさ、伊原。ちんぽ欲しいって」
「俺いいんですか?」
「いいよ。入れてあげて」
「だめっ、ちんぽやだ、入れんな……あっ! ひ、ぐっ」
 伊原の大きな手で口を押さえられた瞬間、アナルに熱いものが接触し入り込んできた。ぬめりを帯びた丸い切っ先がゆっくりと中に押し入ってくる。押し開かれる中が熱く苦しい。突き上げられる悲鳴は伊原の手の中に閉じ込められて、行き場のない苦痛が身体中を強張らせる。
「先生苦しそう」
「処女破られんのは誰だって辛いもんです」
 ぐっ、と肉杭が更に奥へと進む。吐きそうだ。気持ちが悪い。誰かの手がペニスに触れた。萎えたものは浅ましく首をもたげ、もっと欲しいと脈打っている。
「先生先っぽ好きだよね。ぬるぬる一杯出てくるよ」
「ふっ……、ふ、んんっ」
 竿を擦られ口を開く尿道口を弄られると射精欲求が募っていく。中では伊原が亀頭の先で小刻みに前立腺を突き上げてくる。苦しいはずなのに、刺すような快楽刺激は身体をどんどん高めていった。
「あっ! ああんっ、く、うっ!」
 二つされながら乳首に爪を立てられて俺は精を放っていた。視界の隅に手と服を汚した槙野が映る。後悔と絶望と後ろめたさに冷えた身体を翻弄するように伊原の突き上げが速さを増した。
「慎吾さん、今のが射精です」
「一杯出た。一杯気持ちよかったんだね」
「やっ、やっ、あ、あ、んっ、んっ」
 意図せず身体は快感に浸されてアナルがひくつくのが分かる。締まろうが緩もうが伊原は構わず中を擦り上げ捏ね回す。射精して緊張を無くした身体は与えられる快楽をすべてそのまま受け止めた。脳が焼き切れそうで真っ白で目の前がちかちかする。
「おら、出すぞ」
「やらっ、だめ、だめ、あっ、ひぅ」
 中で伊原のものが脈打って熱いものが奥に放たれる。痙攣する腰を押さえつけ更に擦られる。俺はまた真っ白な世界に落ちようとしている。あられもないところで感じ入って。
「慎吾さん、先生のアクメ顔ようっく見てやってください」
「やめっ! あっ! はっ、ああっ!」
 顎をきつく掴まれ逃げ場なく、幼い目がジッと見つめる中で俺はアナルでオーガズムに至った。身体は小刻みな痙攣を繰り返している。伊原のものが抜け出ていって、自由になった身体は床に投げ出された。力が入らないまま子供たちが毎日ぞうきん掛けする床に頬を付ける。アナルから放たれたものが溢れだす感触が気持ち悪い。
「先生、えっちなんだね」
 そんなこと俺は知らない。目を閉じると眠気が急激に襲ってきて、俺は眠りの世界に逃げ込もうと思考を閉じる。もう俺は知らない。なにも知らない。明日の世界がどうなろうと、明日の俺がどうなろうと、俺はもうどうだっていい。




(13.5.3)
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